米の消費量減少や食生活の洋風化で、年々出荷量が減少し続けている味噌。だが発酵ブームが根付いたことで、2016年には久々に出荷量が微増に転じている(全国味噌工業協同組合連合会調べ)。そんななか、味噌大手のマルコメはフレッシュネスとコラボレーションした「パンと合うみそスープ」を開発。2017年3月から全国のコンビニエンスストアで販売を開始した。2016年度の新入社員が「どんな味噌汁を飲んでみたいか」アイデアを出し合い、開発した商品だという。
味噌汁を目玉にした新たな飲食店も注目を集めている。2016年3月、京都にオープンした「MISO POTA KYOTO(ミソポタキョウト)」は、味噌汁とポタージュ(とろみのある洋風スープ)をミックスした“みそポタ”専門店。新たなファストフードとして人気を集めて7月に2号店をオープンし、さらに2017年3月にオープンしたアクタスが手掛ける飲食店「SOHOLM CAFEあべの」とコラボするなど、販路を広げている。今後は東京での出店も視野に入れているという。
さらに2017年2月には横浜市に、ビュッフェ・セレクトスタイルの味噌汁専門店「MISOY(ミソイ)」がオープン。チーズを溶かし込んだイタリアン味噌汁やテイクアウト用の味噌汁の素「MISODAMA(味噌玉)」が人気で、早くも商業施設からの引き合いが多く来ているそうだ。
これらは従来の味噌汁とどう違い、人気の理由は何なのか。
ミネストローネ→味噌汁→ミネストローネに味変!?
「2014年の朝食に関する調査で、ごはん派よりパン派のほうが多くなっていることが分かった。かつては朝食に欠かせなかった味噌汁は、パンを中心とした朝食シーンでは絶対に必要なメニューではなくなってきている。発酵食品の良さが再注目されている今、新しい味噌汁で和食の可能性を広げて新習慣をつくることができれば、味噌業界全体を活性化する後押しができると考えた」(マルコメ マーケティング本部 販売企画部 販売企画課の榊原知秋氏)。
マルコメは新入社員が次年度の新商品を企画する「ルーキーズプロジェクト」を実施しており、同商品は2016年度の新入社員14人が中心となって新商品開発を進めた。アイデアレベルでは「炭酸入りのパチパチ味噌汁」「パイ生地に包まれた熱々味噌汁」「強くなるプロテイン入り味噌汁」など、ユニークなアイデアが多く出たという。“パンと合う洋風の味噌汁”という基本方針が決まると、商品化の実現に向けて「ハンバーガーをジャンクフードから健康食へ」というスローガンを掲げるフレッシュネスバーガーと共同開発した。
フレーバーは、昨今女性を中心に人気を集めている「トマト味噌」をベースにした。「ふつうの味噌汁だとパンと合わせるにはあっさりしているイメージなので、具材にボリュームを持たせ、スープは野菜による自然なとろみでさらに満足感を得られるようにした」(榊原氏)。消費者調査では「味噌とトマトの風味がマッチしている」「パンに合いそう」という声が多く、購入意向は7割を超えたとのこと。「小売店でも非常に好評で、従来の味噌汁コーナーだけでなく、パンのコーナーに置いてはどうかという提案もいただいた。棚争いは厳しいので、店舗側からそうした提案をいただけるのはめったにないと聞き、驚いた」(マルコメ 市販用営業本部 東日本支店 首都圏販売第一課の福田勝高氏)。
「パンと合うみそスープ」を作って飲んでみた。湯を注ぐとトマトの香りが広がり、見た目もひとくち飲んだ印象もほぼミネストローネ。「たしかにおいしいが、味噌汁といえるのか」という疑問も浮かんだ。だが飲み進むうちに不思議なことに、どんどん味噌汁っぽい味になってくる。湯気で広がる味噌の香りのせいか、あるいはトマトの酸味に慣れて味噌の味わいが感じられるようになるせいか。ところが半分ほど飲んだところでバジルオイルを投入すると、一気にまたミネストローネに変化する。ズッキーニが味噌汁の具として、全く違和感がないのも発見だった。
“華やかな味噌汁”って何? 地味なイメージを払拭
「みそ汁離れが進んでいる理由をヒアリングしたところ、『洋食やパンに合わない』『地味で具材も決まっていて飽きる』という意見が多かった。そこでパンにもごはんにも合う華やかな味噌汁を作ろうと考えた」というのは、味噌ポタ専門店「MISO POTA KYOTO」を運営する素直な力の床美幸社長。
そこで同社は、味噌汁とポタージュをミックスした新しいスタイルの味噌汁「みそポタ」を開発。豆腐と麦味噌をメーンにした白いポタージュ「はじまりの白」、カボチャとサツマイモをベースに、甘酒とショウガの風味を利かせたデザート風のみそポタ「ごほうびの黄金」、トマトと八丁味噌、麦味噌にパプリカパウダーで少しだけスパイシーなアクセントを付けた「あの日の花火」など、彩り豊かで洋食にも合う味噌汁を多種類販売している。2017年3月24日からは、常温で保存でき、袋のままレンジで温められるパック3種類を発売。「オフィスのコーヒー用の紙コップに移し替えて食べられる」と好評だという。
オーガニックや自然栽培などの野菜を使っているが、一般の野菜よりも旬が短いため、原材料の入手に最初は苦労したという。また通販商品を開発する際には、添加物を使わずに退色や風味を残す方法にも研究を重ねたそうだ。みそポタを食べた人からは「味噌汁とは違う味わいだが、味噌が入っているので安心する」という声や「普段とは違う味噌汁が味わえて楽しい」という声もあるそうだ。
味噌汁で海外展開を狙う企業もある。味噌汁専門店「MISOY」は3種類の味噌汁にご飯(白米または雑穀米)、小鉢のおかずを自由に組み合わせてオリジナル定食を作ることができるビュッフェ・スタイルの店。チーズがのった「バジル風味のイタリアン味噌スープ」はインパクト十分だ。「正しい日本食を気軽に食べられる“和のファストフード”を海外で展開するには、味噌汁がぴったりだと思った」(MISOYを運営する「五彩」の篠原正義社長)。将来的には海外での多店舗展開も視野に入れており、今回の綱島店はそのノウハウを蓄積するための“ゼロ号店”という位置付け。2017年中に都内で多店舗展開し、2018年には全国展開を狙うという。
(文/桑原恵美子)