セガグループの構造改革を経て、2015年4月に誕生したセガゲームス。以前のセガは、家庭用ゲーム機、パソコン向けのタイトルを中心に開発・販売していたが、セガゲームスになってスマートフォン向けのタイトルが加わった。同社の社長に2017年4月に就任した松原健二氏に、今後のマーケティングの方向性やタイトルの開発体制などを熱く語っていただいた。
(文/稲垣宗彦、写真/シバタススム)
欧州では「Steam」でのダウンロード販売が好調
――2015年の構造改革を踏まえ、2016年~2017年前半はセガゲームスにとってどんな1年でしたか?
松原健二氏(以下、松原氏): 2年前の構造改革を経て、スマートフォン向けゲームの開発・運営にフォーカスした子会社セガネットワークスという会社を、家庭用ゲーム機やパソコン(以下、PC)向けのゲームを開発していたセガが吸収合併し、2015年4月1日からセガゲームスがスタートしました。
2016年はセガグループ全体で業績が好調で、グループがカバーするエンターテインメントコンテンツ事業セグメントで111億円の収益を上げました。例えば国内開発の家庭用ゲーム機向けゲームが海外でも評価いただいて販売数を伸ばしたり、セガネットワークスが5年前から取り組んできたタイトルがヒットしたりと、構造改革の前から積み上げてきたものが、組織変更を経て日本だけでなく海外でも結実してきた感はありますね。
――好調なタイトルを教えていただけますか?
松原氏: スマートフォンだと『オルタンシア・サーガ -蒼の騎士団-』『ぷよぷよ!!クエスト』、PCや家庭用ゲーム機のオンラインゲームでいうと『ファンタシースターオンライン2』。この3タイトルが収益の面で大きく貢献してくれています。
――海外市場ではどうでしたか?
松原氏: 当社の場合、家庭用ゲーム機とPC向けでは売り上げと利益の半分が海外からです。そのなかでも米ValveのPC用オンライン配信プラットフォーム「Steam」でのダウンロード販売の割合が欧州では大きくなっています。
また、弊社の子会社である英国のクリエイティブ・アッセンブリーが開発し2016年5月に発売した『Total War:WARHAMMER』は、われわれの予想を上回って大きく売り上げを伸ばしました。同じ英国のスポーツ・インタラクティブが手がけた『Football Manager』シリーズも好調で、欧州ではいいビジネスができました。
2016年は国内でも『ペルソナ5』や『龍が如く 6 命の詩。』といったメジャーなタイトルをリリースできましたし、オンライン以外のパッケージ販売、ダウンロード販売でもいい業績を残すことができました。
――海外市場のPCタイトルはもうSteamでの販売が主流なんですね。
松原氏: 欧州では国ごとにタイトルの流通事情が違うので、PC事業にとって(国ごとの流通事情をあまり考慮しなくて済む)オンライン販売は有効だったというのはありますね。オンライン販売は、プロモーションや在庫リスクの面においてもメリットは大きなものがありますので、(Steamは)欧米のPCゲームを購入する際には最初に挙がるプラットフォームになっていますね。
初出では「米Vaive」とありましたが、正しくは「米Valve」です。お詫びして修正いたします。
「昔遊んだ」ユーザーを現在のプロダクトに誘導
――マーケティング手法やターゲット層の獲得でこれまでにない挑戦はありましたか?
松原氏: セガは知名度はある。それを強いブランドに変えていくためには、実際にコンテンツに触れていただく機会が必要だと考えています。そのため新たに「セガフェス」というイベントを2016年の11月に秋葉原で開催しました。
家庭用ゲーム機のゲームはもちろん、アーケードゲームや、トムス・エンタテインメントのアニメなど、セガグループ各社のコンテンツを持ち寄って展示したり、「クラブ セガ」や「GIGO」などセガ エンタテインメントが秋葉原で展開するゲームセンター4店舗と連携してスタンプラリーを実施したり、48時間ニコ生放送も実現し、多くの来場者様に来ていただけました。
また、「セガフェス」の少し前には、『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』と『ぷよぷよ』が発売25周年を迎えたことを記念して、京急電鉄で「京急セガトレイン」と名付けたラッピング電車を走らせました。
どちらも大きな話題となり、手応えを感じました。特に「セガフェス」は今後も実施したいと考えています。
――セガを知るだけでなく、実際にコンテンツで遊んでいただくための施策ですね。
松原氏: 繰り返しになりますが、おかげさまでセガというブランドは、多くの皆さんに知っていただけています。しかし私くらいの世代ですと、その次に出てくる言葉が「昔遊んだよ」なんです(笑)。
もちろん現在もアクティブに支持していただいている方も少なくありませんが、まだまだ努力をしなければならない部分はあると感じています。
欧州でもそれは同じで、セガグループに所属する者は海外で入国審査の際に係員に勤務先を伝えると「セガか、昔、ジェネシスで遊んだよ」と声をかけられる経験をよくしているんです(笑)。「昔遊んだジェネシス」をいかに現在のスマートフォンや家庭用ゲーム機、PCのプロダクトへとつなげていくかがわれわれの取り組むべき課題だと思っています。
パブリッシャーとしてアジア圏へも展開
――以前のセガは家庭用ゲーム機とアーケードが両輪というイメージでしたが、アーケード事業がセガ・インタラクティブ社に移り、代わりにスマートフォン事業がセガゲームスに加わった状態です。それらは現在、どういったバランスになっているのでしょう?
松原氏: グローバルで10兆円あるゲーム市場の内訳を家庭用ゲーム機、モバイル、PCで比べてみると、モバイルが少し突き抜けていて、4兆円近く。家庭用ゲーム機とPCがそれぞれ3兆円ちょっとと、だいたいうまくバランスが取れた状態です。
そこにセガのゲームをいかに届けていくかという話になるわけですが、今までは家庭用ゲーム機、PC、スマートフォンと、基本的にデバイスごとに事業の軸が分かれていました。しかし2017年からは、タイトルを軸に事業を展開する方針に変えていくつもりです。各スタジオが持っているタイトル、もしくはIP(知的財産)の特性に合わせて、どのデバイスに注力するか、販売する地域はどこに注力するかを考えていくイメージになります。
例えば『龍が如く』は国内の家庭用ゲーム機向けのタイトルとして10年以上続いていますので、国内での展開はもちろんですが、次はそれをいかに海外でもヒットさせていくかということが重要になります。ちなみに、『龍が如く』は海外では『Yakuza』というタイトルで展開し、『Yakuza 0』(邦題:『龍が如く0 誓いの場所』)も欧米ではかなりの本数を売り上げるようになってきていますし、アジア圏でも日本での販売本数の4割近い数が売れているなど、地域を越えて展開しています。
――国内、海外と分けて考えるのではなく、グローバルな視点をより重視するということでしょうか?
松原氏: 国内外にある各スタジオが作るタイトルを世界中で売ることを考える、ということですね。売ることに関しては各国市場にはそれぞれ特性があり、採るべきプロモーションやパブリッシングの手法は国や地域ごとに異なります。従って、作品を作り出すスタジオとそれをお客さまにお届けするパブリッシング機能との間をしっかりと結びつけようと、この4月に組織変更を行い、現在はそのルールやコミュニケーションのスタイルを整えながら走っているところです。
――先日、自社以外のタイトルを海外へリリースするとの報道がありましたが、それも組織変更の一環なのでしょうか?
松原氏: アジア圏についてのお話ですね。もともと国内では他のメーカーさんの作品をお預かりして、セガが販売する、ということはやってきました。サードパーティーでは最大の流通網を持っていますし、EA(エレクトロニック・アーツ)さんやワーナー・ブラザースさんなど海外メーカーのタイトルも扱わせていただいています。
アジア圏ではPCに関しては大きな市場があり、さらにPS4の販売が好調なことを受け、2016年からアジア市場へのダイレクトなソフト流通網を構築しています。ディストリビューション(流通)だけではなく、場合によってはわれわれがパブリッシング(販売)も手がけています。
欧米主導のプロダクトも増加
――2017年後半に発売予定のタイトルで、期待されているものがあれば教えてください。
松原氏: 2Dの『ソニック』シリーズを新たにアレンジした新作『ソニックマニア』を2017年8月、さらに冬には久々となる完全新作『ソニックフォース』というタイトルをそれぞれ予定しています。ハイスピードアクションという従来の魅力を踏まえたうえで、新たな楽しみを加えて、改めて『ソニック』の魅力を年末にかけてお伝えできるはずです。
まだ詳しくは言えませんが、この夏から秋にかけて、『ソニック』以外のタイトルもいくつかお披露目できると思っています。
――海外ではiOSやAndroidで懐かしのタイトルが遊べる「Sega Forever」というタイトルがリリースされました。国内の展開は予定されていますか?
松原氏: これはサンフランシスコにあるパブリッシングチームが企画してリリースしたタイトルです。どれだけお客様の反応が得られるかが未知数だったこともあり、英語以外の言語に関してはこれからどうするかを検討していく段階です。同じようにサンフランシスコのチームが先月に北米で『クレイジータクシー』をリリースしていて、幸いなことに現在の反応は上々のようです。いずれも申し訳ありませんが、現在のところ国内からはダウンロードいただけません。サービスの動向を見ながら検討していこうと考えています。
――従来の感覚ですと、欧米から展開をはじめるのはマーケット的にリスクが大きく感じられます。
松原氏: ジェネシスのタイトルは、欧米のセガファンに大きなアピールになるんですね。それともうひとつ、ゲーム自体は無料で遊べる代わりに、合間に広告を挿入するというビジネスモデルを採用しています。こうしたモデルは国内よりも欧米のほうが親和性が高いのも理由です。
「VR」は当面アーケード中心に
――「VR」「AR」に対してどんなアプローチを考えられていますか?
松原氏: セガグループのビジネスとしては、セガゲームスではなく、セガ エンタテインメントが6月17日に「SEGA VR AREA AKIHABARA」をオープンしました。
ビジネスとして考えると、VRは施設のなかを歩き回るようなコンテンツとの親和性が高いと感じています。セガグループにはさまざまなチャネルがありますので、コンテンツ内容とそれらのチャネルとの適性を判断しながら、お客様により楽しんでいただける形で展開していくことになるのではないかと思います。
もちろん家庭用ゲーム機向けとしても製品研究と開発は続けていますので、お客様に楽しんでいただけるコンテンツが用意できれば展開していきます。
――施設系のVRといえば、1994年にはすでに『VR-1』というアトラクションを実現させていますね。
松原氏: ちょっと早すぎましたね。本当は「一歩先」くらいがいいんですが(笑)。
でもそうした新しいものへ積極的に取り組むDNAは今でも生きていて、例えばアーケードタイトルの『え~でる すなば』なんかはその好例でしょう。これはセガ・インタラクティブの製品ですが、文字通りの砂場遊びを楽しむもので、砂で作った形状にプロジェクションマッピングでインタラクティブに絵が投影されていく、まったく新しい感覚のタイトルです。ほかにもすでにサービスは終了しているのですが、ネイルアートを自分でデザインしてシールにプリントできる『ネイルプリ』もユニークなアイデアだったと思います。
「ニーズに合わせる」よりも、「ニーズを創り出す」というアプローチは今でもセガグループに健在です。ハードウエアからある程度自由に創れるアーケードのほうがより創造性を発揮しやすいという面はありますが、家庭用ゲーム機やスマートフォンでも同じ気持ちを抱いて開発に取り組んでいます。
日本市場ではここ数年はモバイル一色で、10年前に比べると家庭用ゲーム機の存在感が小さくなっていました。しかし昨年はPS4が伸びましたし、今年はNintendo Switchの登場が大きいですよね。家庭用ゲーム機が盛り返すことでまた新たな可能性が見え、活性化してきています。
開発のコスト管理から構造を改革
――構造改革で分社化したことで、セガゲームスとアミューズメント事業を手掛けるセガ・インタラクティブのつながりはどのように変化しましたか?
松原氏: どちらの会社も開発の総責任者は名越(稔洋氏、セガゲームス取締役 CPO、エンタテインメントコンテンツ統括本部 統括本部長並びにセガ・インタラクティブ取締役 CPO兼、開発生産統括本部 統括本部長)でつながっているんですよ。家庭用ゲーム機やスマートフォンはもちろん、アーケードのタイトルも名越がCPO(Chief Product Officer)としてすべてに目を配っています。
――名越さんというと『龍が如く』のプロモーションにおけるイメージが強烈ですが(笑)。
松原氏: もちろん『龍が如く』は本人にとって大事なIPで変わらずに総合監督という立場を続けているのですが、取締役という立場で両社の開発を統括しています。
名越を含め開発メンバーに対してはこの2年間、構造改革として収益性を改善していこうと言い続けています。タイトルの企画段階から誰にどれだけ売れるかを、マーケティング分析、必要ならばモニタリングなどを実行して調べ上げ、売り上げの仮説を立て、そこから割り振れる開発コスト、プロモーション費用などを算出するモノサシを作ってきました。
家庭用ゲーム機市場が復調してきているとはいえ、日本の市場はこの10年間、少しずつシュリンクしてきました。開発者自らが利益を意識したうえで、そのなかでコストの配分もしながら、質の高いものを作る。名越を通して開発にかかわるすべての部門に実践してもらおうとしています。
ゲーム業界は一定の成長が続くが人材の確保が難しい
――セガゲームスではインターンシップを実施していますが、ゲーム業界を志望する人は増えているのでしょうか?
松原氏: 小中学校までは憧れの職業として「ゲームクリエーター」はトップ10のかなり上位に入っているのに、これが大学4年になると特に文系の学生の中ではきれいさっぱり消え去ってしまいます(笑)。
実は新卒の採用に関しても競争が激しくなってきていると感じます。これはセガゲームスというよりも、CESA(一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会)の活動領域になってくる話ですが、ゲーム業界のなかで人材を取り合う以前に、いかに多くの人にゲーム業界に興味を抱いてもらうかが大事だと考えています。
中学生や高校生に対して「ゲームは遊ぶだけじゃなくて、作るのも面白いんだよ」と訴求できる場を作り、少なくとも大学に入る時点でゲーム業界を選択肢の一つとして持っている人を少しでも増やしたいんですよね。2017年は売り手市場ですし、ゲーム市場も活性化しています。セガとしても就職希望者にきちんとアピールしなくてはいけないですよね。
――家庭用ゲーム機とスマートフォン、就職する段階でどちらのゲームを作りたいか、はっきり分かれるものですか?
松原氏: いろんなゲームを作りたいという人がいる一方、家庭用ゲーム機のタイトルづくりを志望する人は、「しっかりと時間をかけて遊んでもらえるゲームを作りたい」「自分が体験してきたのと同じようなもの作ってユーザーを喜ばせたい」という思いが強いですね。
――今後のゲーム業界のトレンドをどうお考えですか?
松原氏: 2016年からPS4が伸びてきて、そこにSwitchが加わり、家庭用ゲーム機が元気になってきたのは、日本のビデオゲーム市場にとって明るいニュースだと思います。ここ数年はスマートフォン向けゲームが伸びている一方で家庭用ゲームが置いていかれた感がありました。日本のビデオゲーム業界を支えてきた家庭用ゲームに勢いが戻ってきたのは、2017年の後半から来年に向けて、日本だけでなく、世界的に見ても明るい話題となるのではないでしょうか。
E3(エレクトロニック エンターテイメント エキスポ。世界最大級のゲーム見本市)でもマイクロソフトやソニーから大型のタイトルがいくつも発表されていましたし、E3全体としても家庭用ゲームの活性化が感じられましたね。また、2017年はE3が一般に開放されたこともあって、セガのブースもすごい混雑で運営が大変である一方、その熱気や期待を感じられたのは良かったですね。
――家庭用ゲーム機が伸びることで、モバイル関連がマイナスになる要素はありますか?
松原氏: モバイル、特にスマートフォンは遊ぶシチュエーションもビジネスモデルも違いますから、家庭用ゲーム機が伸びたからといって、モバイルの市場が縮むということはないと思います。日本ではかなり成熟してきた感がありますが、まだまだモバイルはアジアや欧米で伸びる余地があります。
先進国中心のデータを見ると、どの地域もどのデバイスも伸びてきている。さらに、市場が成長途中にある地域もまだまだあります。つまりはどのデバイスに関しても、どの地域でも、程度の差はあれ成長が見込めそうなのはビデオゲーム業界にとって喜ばしいことですし、これはしばらく続くのではないでしょうか。
市場が伸びる一方で、当然ながら競争は厳しくなっていきます。VRにしてもそうですが、技術がビデオゲームの面白さをドライブしてくれる大きな要素であることは間違いありません。技術に対する投資をしっかり行って、次のお客様に楽しんでいただけるコンテンツを作るというサイクルをきちんと続けていきたいですね。