キリンビールは2024年10月1日にクラフトビール事業部を新設した。同部を率いる大谷哲司部長は、今までキリンが築いてきたナショナルブランドとしての成功パターンがクラフトビールでは通用しないと話す。キリンビールはクラフトビールブランド「SPRING VALLEY」のリニューアルを同年3月に行ったばかりだ。クラフトビール事業の事業部化の狙いとマーケティング、営業の変革に迫る。

キリンビールは2024年10月1日にクラフトビール事業部を新設した
キリンビールは2024年10月1日にクラフトビール事業部を新設した

 「2026年10月の酒税変更に伴う『酒税一本化』まで、残されている時間は多くない。だからこそ、新年度を待たずに事業部化に踏み切った」

 キリンビール クラフトビール事業部の大谷哲司部長は事業部化の背景をこう語る。

 同社は23年に堀口英樹社長直下の位置付けで「クラフトビール推進プロジェクト」を新設した。クラフトビールを普及させるため、居酒屋などへの飲食店営業、スーパーなどへの量販店営業に専門部隊を配置。消費者へのクラフトビールの認知拡大なども図ってきた。

 今回、クラフトビール事業を事業部化することで、このカテゴリーをさらに伸ばしたい考えだ。

キリンビール クラフトビール事業部 部長の大谷哲司氏。ブルックリン・ブルワリージャパンの代表取締役社長も兼任する
キリンビール クラフトビール事業部 部長の大谷哲司氏。ブルックリン・ブルワリージャパンの代表取締役社長も兼任する
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 2020年10月から3段階で行われている酒税変更は、26年10月がいよいよ最終段階。この改正で狭義のビールと発泡酒、第三のビールの税率が一本化されることにより、商品間の価格差がさらに縮まることになる。ビールは減税となるため、消費者のビールへの回帰がより進むとみられている。

 キリンビールは15年、「スプリングバレーブルワリー東京」のオープンを起点にクラフトビール事業に参入。ヤッホーブルーイング(長野県軽井沢町)や米ブルックリン・ブルワリーと資本業務提携、21年3月にはクラフトビールブランド「SPRING VALLEY(スプリングバレー)」を立ち上げた。

 24年3月にはスプリングバレーのブランドリニューアルを行い、テレビCMを中心に販売攻勢をかけてきた。

 同社がクラフトビールに力を入れる背景には、潜在層とみられるユーザーの多さがある。国内におけるクラフトビール市場はここ5年で伸長傾向にあり、認知度や飲用経験も向上している。それでも、クラフトビールの飲用経験があるビール類ユーザーは全体の2割程度にとどまっているのが現状だ。

 ただし、クラフトビールの飲用経験はないが、興味がある層は約1800万人。現在のクラフトビールユーザーの2倍以上の潜在顧客がいるとキリンではにらんでいる。

 では、どう攻略しようとしているのか。

クラフトビールに興味を持つ層は約1800万人とキリンビールでは試算している(キリンビール提供資料を基に編集部で作成)
クラフトビールに興味を持つ層は約1800万人とキリンビールでは試算している(キリンビール提供資料を基に編集部で作成)

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