「ポカリスエットプール」「ネスカフェプール」「味ぽんプール」「ビックリマンプール」……。誰もが知るブランド名を冠した屋外プールが、日本各地にあるのはご存じだろうか。いずれも、ホテルチェーン「アパホテル」に設置されている。創業以来、51年連続で黒字経営を続けてきたアパグループ(東京・港)が、特に黒字化に苦戦したのが「アパホテル&リゾート〈東京ベイ幕張〉」だ。中でも「屋外プール」は最後まで赤字だった。そこで発想を転換。プールをメディア化し、企業名を冠するという広告事業で黒字化に成功した。

(画像提供/アパグループ)
(画像提供/アパグループ)

 「宿泊も赤字、レストランも赤字、テナントも赤字、コインパークも全部赤字」。アパグループの元谷拓専務は当時を振り返る。

 2005年、アパグループは「幕張プリンスホテル」を西武鉄道から132億円で買収し、「アパホテル&リゾート〈東京ベイ幕張〉 」とした。当時は、宿泊やレストランなど、あらゆる部門の収支が赤字だったいう。

 その後、客室のリニューアルをしたり、会議室を大浴場に変えたり、自社で運営していたコンビニエンスストアや駐車場などを専業の企業に外注してコストを削減したりしたことで、ほぼ全ての部門を黒字化することに成功。その中で、唯一赤字部門として取り残されたのが、「屋外プール」だった。同ホテルのプールは宿泊客だけでなく、いちげん客向けにも有料で開放していた。このプール部門も1つの事業として、収益化が求められた。

 プールは特に家族連れに人気で、部屋の稼働率や顧客単価が上がるなど、ホテル全体の集客に貢献していた。その分、プール単体の収益は赤字でも構わないというのが、アパホテルが買収する前の幕張プリンスホテルの運営方針だったという。しかし、「アパグループは赤字に非常に厳しい会社。創業以来(当時も23年現在も)黒字経営を続けており、赤字の部門があれば社内でとても目立つ。たとえ部門別の収支であっても、赤字を放置できなかった」と元谷氏は振り返る。

“無謀”と思われていたプール事業の黒字化

 だが、「プールの黒字化だけは、社内から“無謀”と言われていた」(元谷氏)。プールは、もともと赤字になりやすい施設。塩素濃度の計測を決まった時間ごとに行う水質検査の手間や、プール監視員の人件費がかかり、水代もかさむ。さらに屋外にあるため風雨にさらされる環境下で維持費もかかる。「実際に買い取った時点で老朽化も進んでいた」(元谷氏)。極め付きは、室内プールではないため、夏の約2カ月間しか収益を得られないことだった。

 自社だけの力ではプール事業を黒字化できないと考え、元谷氏が企画したのが、ネーミングライツ(命名権)事業だ。ネーミングライツ事業とは、企業が、公共施設の名前に企業名や商品名を付け、その施設を介して自社をPRするものだ。例えば、20年に「福岡ヤフオク!ドーム」から名称変更し話題になった「福岡PayPayドーム」や、「味の素スタジアム」などがそれに当たる。いずれも、施設を利用し企業やブランドに対する認知度やイメージを向上させることが目的だ。

 元谷氏が最初に依頼したのが、大塚製薬(東京・千代田)だ。「当時、大塚製薬は、アパホテル&リゾート〈東京ベイ幕張〉の近くにある、幕張メッセやマリンスタジアムのスポンサーだった。そこで、もう少しPRするエリアを広げて、うちのプールでも宣伝しませんかと提案をした。断られるだろうと思ったが、快諾してくれた」と元谷氏。こうして07年6月に誕生したのが、大塚製薬が展開するスポーツドリンク「ポカリスエット」のブランド名を冠した「ポカリスエットプール」だ。

アパグループと大塚製薬がコラボレーションした「ポカリスエットプール」。現在も「アパホテル&リゾート〈東京ベイ幕張〉」にある(画像提供/アパグループ)
アパグループと大塚製薬がコラボレーションした「ポカリスエットプール」。現在も「アパホテル&リゾート〈東京ベイ幕張〉」にある(画像提供/アパグループ)

 ポカリスエットプールが大成功を収めたことで、その後も多くの企業と同様のネーミングライツ事業を行った。そんなアパグループは、主に4つの観点を基準に、コラボレーションする企業を選定している。

 それは、「ファンが多いか」「自社とのコラボに意外性があるか」「地域に密着しているか」「自社と共通の顧客層を持つか」だ。「ただ有名な企業というだけでは不十分だ」と元谷氏は言う。

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