業績不振にあえぐ中、立て直しを目指し、2016年に本体のスマイルズ(東京・目黒)から分社化したスープストックトーキョー(東京・目黒)。分社化初年度は目先の数字は見ずに、企業理念の浸透を優先する。そんな強い決意の下でさまざまな取り組みを行った結果、各スタッフに企業理念が浸透。その手ごたえは、分社化翌年の17年に過去最高益(当時、スマイルズ内の単体事業時からの実績)達成という成果として表れた。その後も順調に事業が拡大していったが、20年、新型コロナウイルス禍の影響を受け、店舗の一時休業と苦しい状況下に追い込まれた。同社はどのようにその非常事態を乗り切ったのか。
2016年の分社化以降、本連載第3回、第4回で紹介したように、スタッフ一人ひとりがスープストックトーキョー(以下、スープストック)の企業理念「世の中の体温をあげる」を理解し、「目の前の顧客の体温をあげる接客」を行い始めた。
その結果は、目に見えて表れた。例えば毎年1月7日に行われる「七草粥(がゆ)の日」では、売れ残りが出た15年から一転。顧客に商品を提供する際、スタッフが「今年も一年健康でお過ごしください」と伝えた16年は、前年の1.3倍の量を用意したにもかかわらず、欠品となるほどの売れ行きをみせた。体温があがった顧客による口コミなどで、来店客が増えたからだ。
「七草粥の日」の成功は一例にすぎない。企業理念が浸透したスタッフによるさまざまな取り組みが成果に結び付き、スタッフにも自信が芽生えた。そして売り上げや利益増といった実績にもつながり、順調に立て直しを図っている中で訪れたのが、新型コロナウイルス禍だった。
一時休業中、全てのスタッフの給与を100%保証
20年4月、政府が1回目の緊急事態宣言を発令。“不要不急”の外出は避けるよう呼びかけた。
「未曽有の新型コロナ禍に関する報道が多くされる中で、店舗に立つスタッフは不安を抱えながら接客しているはず。この状況下で、『世の中の体温をあげる』を体現することは難しい」と松尾氏は、緊急事態宣言が発令された翌日の20年4月8日には、店舗の一時休業を決断。宣言発令地域に合わせ該当する全店舗の営業を一時的に停止した。
同社がすぐこの決断ができたのは、企業理念の実現が何よりも重要と考えていたからだ。「決断した当時は国から助成金が出る発表はなかったが、顧客や従業員のことを考え、即休業と決めた」(松尾氏)
そして同氏は休業期間中のスタッフの給与を、100%保証するとも決意した。
「スープストックで働くスタッフは、休業でまさに店舗という“ステージ”を失った状態。新型コロナ禍が去り、店舗営業ができるようになった暁にはまたステージに立ってほしかった。企業とスタッフ間で築き上げた信頼を失うわけにはいかない」(松尾氏)。すぐに「給与を100%保証する」と全てのスタッフへチャットを送り宣言し、実行に移した。
新型コロナ禍で「レトルトカレー」が誕生
当初は数カ月程度で落ち着くだろうと思われていた新型コロナ禍は、予想に反して長期戦に突入した。
店舗営業は一時休業後、状況に合わせて順次再開したものの、引き続き新型コロナ禍の影響は色濃かった。顧客のライフスタイルも変化する中で、すぐに状況が戻るわけではない。軒並み外食産業は苦しみ、スープストックもその影響を受けた。同社の店舗売り上げは、19年度に61億円だったが、20年度は38億円と、6割程度にまで落ち込んだのだ。そんな中同社を救ったのが、BtoC(対顧客)向けのECやデリバリーと、BtoB(対企業)向けの卸売り事業だった。
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