1967年の放送開始から57年、いつの時代も若者から絶大な支持を得ているラジオ番組がある。深夜番組「オールナイトニッポン」だ。タイパ重視、デジタルネーティブといわれる現代の若者にも人気は健在。人気俳優やミュージシャン、お笑い芸人が内面や本音を語る他では聴けないコンテンツが若者を引き付ける。2023年3月には、番組に広告を出稿するスポンサーが約70社を記録した。インスタライブでも配信アプリでもない、古株のラジオからの発信がなぜ受けるのか。
タイパのZ世代にも受ける理由 ラジオは“元祖推し活”
オールナイトニッポンは、放送開始から57年目を迎える、言わずと知れた長寿ラジオ番組だ。楽天インサイトが2022年4月に20~60代の男女1万人に実施した調査では、認知度94.6%という圧倒的な数字をたたき出している。歴代パーソナリティーは、タモリ、ビートたけし、中島みゆき、とんねるず、福山雅治、小栗旬などが名を連ね、その数は延べ500人以上になる。
午前1~3時に放送するオールナイトニッポンに加え、直前の午前0時台に放送する「オールナイトニッポンX(クロス)」、直後の午前3~4時30分に放送する「オールナイトニッポン0(ゼロ)」などの派生番組が複数あり、Creepy Nuts(23年3月終了)やAdo(24年3月終了)、あの、フワちゃんなど若者に支持される歌手やお笑いタレントも軒並みパーソナリティーを担当。“生放送”が基本であり、毎回、東京・有楽町のニッポン放送のスタジオから真夜中に放送し、人気を博している。
それだけではない。近年ではリアルでの番組イベントも開催。イベントには若者がこぞって参加し、大成功を収めている。09年からパーソナリティーを務めるお笑い芸人のオードリーが、24年2月に行った「オードリーのオールナイトニッポンin東京ドーム」では、東京ドーム、全国の映画館でのライブビューイング、オンライン生配信の合計で16万人が鑑賞する一大イベントとなった。
また、24年秋には、お笑い芸人で番組パーソナリティーの三四郎も日本武道館でイベントを開催することを発表。オールナイトニッポン出演によって、お笑い芸人が日本武道館や東京ドームの大箱の舞台を踏む異例の事態に発展している。
今瀧健登氏(以下、今瀧) オールナイトニッポン(ANN)は私の周りでも聴いている若者が多く、Z世代にとっては頂点ともいえるラジオ番組です。私たちの世代で人気が高まっている要因をどう見ていますか。
ニッポン放送コンテンツプロデュースルーム長 冨山雄一氏(以下、冨山) 一つ大きな理由として考えられるのが、ハード面の変化です。10年にインターネットでラジオが聴けるサービス「radiko(ラジコ)」がスタート、そして16年には、過去1週間以内に放送された番組をいつでも聴取できる機能「タイムフリー」がラジコに実装されました。
従来、ラジオの聴取スタイルは生放送やリアルタイムの“フロー型”のみでしたが、後から追いかけ再生ができる“ストック型”も加わり、コンテンツの消費のされ方が大きく変わりました。それによって、深夜番組であるオールナイトニッポンも、通勤・通学中などにスマートフォンで聴けるようになり、Z世代もラジオの世界に入りやすくなったことが根底にあると思います。
今瀧 22年からは、オーディオストリーミングサービス「Spotify(スポティファイ)」でのポッドキャスト配信も始まり、聴取スタイルが多様化しています。ただ、ハード面だけではZ世代がはまる理由は語り切れないですよね。
冨山 もちろんです。いくつか若者を引き付けるポイントがあると思います。その一つの要素が「推し活」です。特にミュージシャンでよく見られるパターンですが、オールナイトニッポンは、メジャーデビュー前や世の中に出る前の歌手や音楽ユニットをパーソナリティーとしてよく起用します。
例えば、2000年前後はゆずのお2人やaikoさんに、メジャーデビュー前後で番組を担当していただきました。番組開始当初はまだ一部でしか知られていない状態から、そのうちミリオンセラーのヒット曲を出してお茶の間の顔になっていくストーリーを、ラジオのリスナーは毎週の放送を聴きながら一緒に時間を過ごして体感していくわけです。これこそ“元祖推し活”といえる要素だと思います。ゆずのお2人やaikoさんの番組が復活すると、当時のリスナーも今聴いているリスナーも、大きく盛り上がるのも特徴です。
最近ではインディーズ時代のCreepy Nutsを18年から起用し、5年間番組を担当した後に、24年に『Bling-Bang-Bang-Born』が世界的ヒットとなるなど、元祖推し活要素は今でも健在です。ミュージシャンに限らず、ネクストブレークの俳優やお笑い芸人も起用するため、「いち早く自分だけが知っている」状態から、スターダムにのし上がる姿を応援できる点は、今の推し活ブームと合致している側面だと思います。
オールナイトニッポン流、パーソナリティーの選定基準
- タイパのZ世代にも受ける理由 ラジオは“元祖推し活”
- オールナイトニッポン流、パーソナリティーの選定基準
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今瀧 オールナイトニッポンの目玉といえば、パーソナリティーによるフリートークで、若者もそれを楽しみに聴取しています。パーソナリティーの人選はどのように行っていますか。
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