キリンビールが地方のクラフトビールのブルワリー(ビール醸造所)の支援に乗り出している。小規模経営が多く、醸造ノウハウは乏しい。かつてのブームでは流行の一方で低品質のビールが横行し、消費者離れにつながった。新型コロナウイルス禍下で補助金を活用し参入する企業が増える中、技術をあえて公開し、市場の活性化に結びつけようとしている。
「この数値が低いのはどうしてでしょうか」
2023年3月24日、キリンビール仙台工場(仙台市)にイシノマキホップワークス(宮城県石巻市)や世嬉の一酒造(岩手県一関市)など東北地方の13ブルワリーが集まり、つくったビールについて議論を交わした。この日は同じ原料を使い「酵母が醸すフルーティーな香りとオレンジピールの爽快感、コリアンダーのスパイシーな味わいが調和した一杯」をコンセプトに、各ブルワリーがビールをつくって持ち寄りテイスティングした。
同じ原料やコンセプトでつくったビールでも造り手によって味は微妙に異なる。キリンの様々な分析機器を使い、違いを見える化して品質向上につなげるのがこの品評会の目的だ。キリンビール傘下でクラフトビール事業を手掛けるスプリングバレーブルワリーの古川淳一ヘッドブリュワーは「どうやってつくったのかを深掘りして品質向上につなげたい」と話す。
ビール造り、特に醸造の過程では極めて繊細な品質管理が必要だ。「酵母の活動をどう制御するかが難しい。発酵の度合いによって同じアルコール度数5%のビールでも香りが臭くなってしまうこともある」(古川氏)。オフフレーバーと呼ばれる現象でビールの品質低下の原因だ。
ただ、ブルワリーではビールの味は造り手の感覚による部分が大きく、業界で低品質とされるオフフレーバーが起きていることに気づかないことすらある。クラフトビールは各ブルワリーの個性が特徴だが、製造ノウハウがなければ品質が低く味の悪い個性のビールで終わってしまう。
品質を保つためには二酸化炭素量など様々な指標を客観的に数値化して分析することが不可欠だが、分析装置は数百万~数千万円するものもある。中小が多いブルワリーは購入に二の足を踏んでしまう。キリンはビール1種類につき、数万円で分析を請け負う。
人気ブルワリーもキリンを頼る!
品評会に参加した世嬉の一酒造の「いわて蔵ビール みちのくレッドエール」は22年のワールドビアアワードで2年連続世界1位に輝いた。佐藤航社長がビール造りに参入したのは1995年。規制緩和により参入が相次いだ年だ。佐藤社長は「当時の地ビールは『臭い、高い、まずい』といわれ、ブームは一過性に終わった」と振り返る。
中小企業が多いブルワリーでは、1人で何役も業務をこなす必要があり、品質向上に時間が割けない。日本酒のように分析など品質向上を担う団体もなく、独学でビール造りを調べるほかない。「気づくと穴だらけになっているが、どこが穴なのか分からない」(佐藤社長)
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