2021年05月14日
(聞き手:田嶋あいか 堤啓太)
今から2年前、円周率の世界記録を立てた日本人がいるのを知っていますか。グーグルのシアトルのオフィスで働く、岩尾エマはるかさんです。「コンピューターは好きだったけど、仕事にできると思わなかった」という岩尾さんが、どうやってチャンスをつかんだのか。就活生が聞きました。
よろしくお願いします!
よろしくお願いします。
はじめに、岩尾さんがどのようなお仕事をされているのか教えてください。
「グーグルクラウド」っていうグーグルの持っているコンピューターをほかの企業や個人の方に貸し出して、使ってもらうサービスがあるんですけど。
そこの「デベロッパーアドボケイト」という仕事をしています。
グーグル 岩尾エマはるか さん
アメリカ・シアトルで勤務するソフトウェアエンジニア。大阪出身。グーグルのクラウドコンピューティングの部門で、利用する技術者らの支援を主に行う。2019年に円周率の計算で当時の世界記録を達成した。
デベロッパーアドボケイトっていうのは(外部の)開発者の皆様が、例えば「こういうプログラムが書きたいんだけど、グーグルの機能で何ができるのか」っていう時にやりとりして支援しています。
あと、カンファレンスに登壇をして「こういう新しい技術があります」とか「こういう事ができます」みたいな話をします。
グーグル内のシステムをつくるんじゃないんですか。
まったくないわけじゃなくて、例えばエンジニアの人が製品開発をする時に「社外の人ってどう思ってるの?」って聞かれます。
私みたいな仕事をしている人が一番社外と話をしているので、例えば「コミュニティーが困っているのはこういうことですよ」ってフィードバックすることがあります。
ほかの会社との橋渡しっていうことですね。
円周率で世界記録達成というニュースを拝見しました。
そもそも、それってどういうことなんですか。
円周率 世界記録
2019年、岩尾さんはグーグルのクラウド上で計算のためのプログラムを使って、円周率を31兆4159億2653万5897桁まで計算。それまでの世界記録を塗り替えた。グーグルの仮想のマシン25台で121日かけた。
円周率って無限に続くってことが証明されていて。
小数点の桁数を増やすとより正確な数字に近づいていくんです。
コンピューターを使う前の手計算の時代、最後の記録は500桁くらい。
それも十分すごいです。
コンピューターを使ってからは何万桁とか何億桁とか計算して桁数を競ってるんですね。
そこで私たちは2019年に31兆4159億・・・、円周率の桁数になるようにそろえて計算したんです。
残念ながら、去年別の方が50兆桁計算したので、今の世界記録じゃないんですけど。
それは何のためにというか・・・
実はいろんな意義があって、円周率って人類が生まれる前から定義が変わってないから、それに対して違う世代のコンピューターとか計算手法を比べることができるんですね。
なので、1000年前にやっていた人類の科学と、500年前、10年前とか、桁数を見たら分かりやすい形で「文明の進歩の尺度になる」って私の大学の恩師は言っていたんです。
それから大量のデータを扱うので、「これだけの桁数を計算できます」ってコンピューターの性能や信頼性の1つの基準にもなってきます。
もともと、円周率に対する興味があったんですか。
パソコンを小学6年生ぐらいから使い始めたんですけど、その時にたまたまダウンロードした中にパソコンで円周率を計算するプログラムがあって。
そこに当時の世界記録の詳細が書いてあって、「あ、円周率って計算するんや」と思ったんです。
そこから、「世界記録に挑戦できたらかっこいいな」って、ずっとあったんですよ。
で、実は今の部署では毎年「円周率の日」に円周率の計算をして祝っていたんです。
円周率の日?
3月14日が円周率の日なんです。
2019年はどうしようねって話をしていたとき時に「あれ、会社の企画として円周率を計算していいんや」と思って。
「じゃあ世界記録を・・・」と上司に話してみたら、「いいよ、できるもんならやってみて」って感じだったんです。
記録を達成できた時ってどういうお気持ちでしたか?
最後に検算するんですよ。
すごいドキドキしながら見て、「あ、あってる!」って。
ほっとしたというのが一番大きいかもしれないですね。
円周率の計算って、やろうと思えばいくらでもできるんですか?
それはけっこう難しい質問で、何が限界になってくるかというと、コンピューターの信頼性などが関係してきます。
計算を続けたとしても途中で検算ができなくて、最後まで結果が合っているかどうか分からないので、皆さんだいたい半年以内というのを標準にしてます。
そもそも、コンピューターを好きになったきっかけは何ですか。
母親がワープロを家で使っていて、触ってみて楽しかったので親にパソコンをねだったんです。
高かったんですけど1年ぐらい言い続けて家にパソコンが来て、やってみたら自分が書いたものがそのまま動いてすごく楽しくて。
プログラムを早く実行する工夫とか学んでいくのは楽しかったですし、公開すると他の人が使って感想を言ってくれたりしたんです。
そんな感じでプログラミングとかコンピューターに興味を持ちました。
こういう仕事に就くって当時は考えましたか。
当時はコンピューターの仕事がここまで世間に浸透するとは考えてなくって。
プログラムを書いて仕事にしている人に出会わなかったので、目の前の楽しいこととお給料をもらう仕事っていうのは結び付かなかったです。
なので、大学は文系に行って教育学と心理学をやることにしたんです。
えっ、そうなんですか。
教職を取れば、ちゃんと仕事に就けるかなというのもあったんです。
だけど、大学に入ってすぐに担任の先生に「そんなにコンピューターが好きでプログラムが書けるのに何でここに来たの?」って言われて。
情報系の学部に2年生から転入して、コンピュータサイエンスで修士までとりました。
新卒はソフトウェアエンジニアではあったんですけど、冷蔵庫とか炊飯器で動くプログラムを書く仕事に就きました。
そこからいろんな会社を転々として、グーグルの試験も受けたんですけどなかなか面接通らなくて。
5回目で採用されたんです。
えー。
結果的に「好き」を仕事にできていると思うんですけど、その要因って何ですか。
好きなので勉強が苦じゃなくて、それで技術が身に付いたんです。
でも、半分以上は巡り合わせと幸運だと思っていて。
必要な時にアドバイスをくれる人がいたり、この仕事楽しいから働いてみないって言ってくれる友人がいたり、いろんな縁に巡り合ったのが一番の要因かなと思います。
縁なんですね!
お話を聞いていて、チャンスをつかむのがとても上手だなと思ったんですけど。
「私はこれがしたい」って言い続けるのが大事かなと思っています。
例えば、円周率の計算がしてみたいっていうのは会社で時々言ってたんですよ。
アメリカで働きたいというのもことあるごとに言ってましたし。
はい。
「これがやりたい」「これが目標です」とか、言わなきゃ分からないってけっこうあると思うんですよね。
確かに口に出してもらわないと分からないですもんね。
でも就活生からしたら、好きなことがあっても貫き通せるか不安で。
その不安を断ち切るマインドってありますか。
実は不安って断ち切れなくって。
私が最初からプログラマーになるって思わなかったのも、「好きだけど、お金を稼げるほど通用するはずがない」って思っていたし。
大学でも起業してめちゃくちゃ活躍してる人が周りにいたけど、「私はこれが仕事になるか分からない」みたいな感じだったんですよ。
そうなんですね。
けど、実際仕事をしてからどうかっていうと、周りの人もやっぱり「自分って本当にこの仕事でいいんだろうか」とか悩むって言うんですよね。
「インポスターシンドローム」っていう言葉があるんですけど、自分の能力を過小評価してしまうんですね。
どうしても人と比べて、ちょっと自信を失うっていうのはあります。
本当にそうです。
なかなか自分の能力の客観的な評価って難しいですけれど、自分が好きで勉強もする、挑戦してみたいなってものがあれば。
他の人と比べるんじゃなくって、周りの人のお手伝いから積み重ねていくと自信につながると思います。
1日のスケジュールですが、いろんなメディアを使って情報を得ていますよね。
今住んでる地域のことは知っておきたいので、シアトルのニュース。
それから、アメリカではどういうことが起こっているんだろうって感じで、アメリカの新聞の記事を読むんですけど。
もう1つは世の中には情報が多すぎるので、ネット上で話題になっていたりキュレーションされていたりするものを見る感じですね。
今は在宅勤務ということですが、在宅になって情報収集の方法に変化ってありましたか。
仕事の相談とかミーティング、そういうコミュニケーションは不自由してないです。
対面のカンファレンス、勉強会みたいなものはなくなったので、そういう意味ではやっぱりさみしいなって感じることは正直ありますし。
オフィスの廊下ですれ違ってアイデアを交換するとか、そういうのもなくなってしまいましたね。
廊下で出会ってアイデアが生まれることって実際にあるんですね。
あります、あります。
何百人、何千人と集まるカンファレンスなんかで、たまたま通路で出会って会話することで生まれるものもあります。
ドラマとかの世界だけだと思ってた 笑
グーグルの場合は社内に「マイクロキッチン」っていう、ちょっとした会話スペースがあって、全然違うチームと話すことがけっこうあったんですよね。
一緒に昼ごはんを食べて、最近こんな事があってっていう話をしてアイデア交換したり、単純に世間話をしたりしていました。
へー。
公式な場じゃないところで生まれるものを、意識的に拾うようにしているカルチャーがあって。
今はうちのチームならバーチャルマイクロキッチンっていうのをやっていて、「ちょっと話をしたい人!」みたいな感じで雑談だけをしましょうと工夫しています。
最後に「あなたにとって仕事とは」、教えてください。
自分の「好き」と「得意」と「世の中のこうしてほしい」っていうのがセットになるのが、私の理想の仕事かなと思ってます。
今、自分がやっていることを見つめ直すと、自分の好きで得意分野で、進んで勉強したコンピューターで社会の役に立っているっていう実感が出てきていて。
会社を超えて困っている人のお手伝いもできて、こういう仕事がとても好きだなって思っています。
すごくすてきですね。
本日はありがとうございました!
編集:加藤陽平 撮影:小野口愛梨
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