Clariom Sは、その上位モデルであるClariom Dから主要なプローブのみをピックアップして開発された、次世代型発現解析マイクロアレイです。Clariom Sはアノテーション済みの主要な遺伝子を網羅しており、遺伝子レベルの発現解析に最適なデザインとなっています。また、なんといってもClariom Sの最大のポイントはその価格でしょう。従来の発現解析アッセイでは考えられないような低価格で高精度の発現解析を実現します。今回はそんなClariom Sの知られざる秘密に迫りたいと思います。
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Clariom Sが実現した驚きの価格
Clariom Sはヒト、マウス、ラットの遺伝子発現を解析するためのマイクロアレイです。従来のアフィメトリクスの発現解析アレイと同様に、フリーの専用ソフトを用いることで誰でも簡単に発現解析をおこなうことができます。
そんなClariom Sの最大のポイントは、なんといってもその価格です。1アッセイあたりの価格は以下のとおりとなっています。
1アッセイあたりの価格(税別) | |
Clariom Sアッセイ(カートリッジ+専用試薬) | ¥22,500 |
Clariom S Picoアッセイ(カートリッジ+微量サンプル専用試薬) | ¥24,000 |
上記のように、Clariom Sは1アッセイあたり約2万円で解析できます。これはマイクロアレイだけの価格ではなく、サンプル調製のための試薬も含めた価格となっています。一昔前のマイクロアレイの価格を覚えていらっしゃる方からしてみると、この価格は驚異的なものに映るのではないでしょうか。
また後述する通りClariom Sは、一般的に実施されているRNA-Seq (1000万~1億リード数程度のshallow sequence) と同等の遺伝子数を解析できます。RNA-Seqそのものにかかる費用と比べてもClariom Sの方が低コストなうえに、アフィメトリクスのフリーの解析ソフトを用いることで、RNA-Seqで必要とされる専門的なデータ解析などの手間も一切かかりません。
アノテーション済みの代表的な遺伝子を網羅
下の表はClariom Sで解析できる遺伝子の数をまとめたものです。
Content summary | Human | Mouse | Rat |
Genes | >20,800 | >22,100 | >22,900 |
Transcripts | >337,100 | >150,300 | >129,800 |
Total probes | >211,300 | >221,900 | >231,800 |
Probes targeting genes | >205,800 | >221,300 | >229,500 |
Probe length (bases) | 25 | 25 | 25 |
Probe feature size | 5μm | 5μm | 5μm |
Background probes | Antigenomics Set | Antigenomics Set | Antigenomics Set |
Probe orientation | Anti-sense | Anti-sense | Anti-sense |
この表の一番上の「Genes」と書かれている数字がClariom Sによって解析できる遺伝子数です。ご覧のとおり、ヒト、マウス、ラットいずれも2万以上の遺伝子を解析できることが分かります。これらの遺伝子はいずれもアノテーション済みの代表的なものを網羅しており、遺伝子レベルの発現解析をするには十分な数と言えます。
RNA-SeqとClariom Sの関係
次世代シーケンサー(NGS)のテクノロジーが進歩するにつれて、発現解析もNGSでおこなう、いわゆるRNA-Seqと呼ばれる手法が広く用いられるようになってきました。RNA-Seqを用いれば発現解析のみならず遺伝子の配列情報も手にできるということで、多くの研究者の人気を集めています。
ところがRNA-Seqをする上でもっとも重要なことを意識せずに解析をしている研究者が少なくありません。
それは「リード数」です。
なぜRNA-Seqではリード数が重要なのでしょうか?そのことを端的に表したのが下図です。
この図ではRNA-Seqのリード数と、そのリード数で検出できる遺伝子の数を表しています。これによると1000万 (10 million) リードで2万遺伝子、1億 (100 million) リードで3万遺伝子程度が検出されることが分かります。このように、RNA-Seqではリード数が多くなればなるほど検出される遺伝子数は増加していきます。一方で発現解析に用いることのできる精度の遺伝子数は、ここにあげられた数よりもさらに少なくなります。
以上を踏まえると、Clariom Sで解析できる遺伝子数2万という水準は、1000万~1億リード程度のRNA-Seq、いわゆるShallow Sequencingと呼ばれるアッセイと同等であると考えることができます。
RNA-Seqでしか得られない情報があるのであれば仕方ありませんが、Shallow Sequencingで2万程度の代表的な遺伝子の発現変動解析をおこなうことが主な目的であるのならば、低コストかつシンプルな解析が可能であるClariom Sを選ぶのが賢い選択といえるのではないでしょうか。
Clariom Sのプローブデザイン
発現解析のマイクロアレイの性能は、「どの場所」に「どれくらいの数」のプローブが設計されているかで決まります。Clariom Sのプローブはどのようにデザインされているのでしょうか。順を追ってみていくことにしましょう。
Clariom Sのプローブの位置
Clariom Sのプローブは遺伝子中のどの部分をターゲットとしているのか、まずは下の図をご覧ください。
Clariom Sのプローブは、各遺伝子のスプライシングバリアントを並べたときに、もっとも重なり合いが多い部分に設計されています。上記の図であれば、Clariom Sのプローブは6種類全てのスプライシングバリアントを検出できるような位置をターゲットとしています。これにより、Clariom Sは遺伝子レベルでの発現変動を正確にとらえることができるのです。一般的なマイクロアレイは遺伝子の3’末端に設計されることが多いのですが、そのような場合は重要なスプライシングバリアントを見逃す可能性があります。上図で言えば、3’末端に配置されたプローブ(一般的なマイクロアレイと表示されているプローブ)は6番目のスプライシングバリアントを検出できません。
なおClariom Sのプローブですが、上位モデルであるClariom Dから選び出されています。つまりClariom Sに含まれるプローブと同一のものがClariom Dに含まれており、将来的にトランスクリプトームレベルの解析をおこないたいときに、Clariom SからClariom Dへの移行もスムースにおこなうことができるのです。
1遺伝子あたりのプローブ数
次にClariom Sのプローブの数についてみてみましょう。上図に示されているように、Clariom Sでは一つの遺伝子に対して平均で10のプローブが配置されています。一般的なマイクロアレイでは1種類のプローブで1遺伝子を解析していることが多いのですが、こうした場合は仮にその1種類のプローブがうまく働かなかった場合、その遺伝子そのものが解析できなくなってしまう恐れがあります。また単一のプローブから得られるシグナルからは統計的な処理ができず、データの再現性に疑問が残ります。Clariom Sならば10種類の異なるプローブが一つの遺伝子をカバーしており、信頼性の高いデータを生み出します。
それでは何故、一般的なマイクロアレイは単一のプローブしかデザインできないのでしょうか?
それはマイクロアレイに搭載できるプローブ数に限界があるからです。下図はClariom Sに搭載されているプローブ数と、一般的に使われている発現アレイのプローブ数を比較したものです。
この図に示されているように、一般的に用いられている発現アレイに搭載されているプローブの数は5~6万個程度です。そのため、1つの遺伝子を複数のプローブでカバーしようとすると、解析できる遺伝子数が減ってしまいます。
弊社のマイクロアレイは半導製造技術を応用しており、高密度マイクロアレイを作成できます。これにより、Clariom Sのように1遺伝子に10個のプローブを設計してもなお2万個に及ぶ遺伝子の解析が可能となるのです。
まとめ
今回は、次世代型Clariom Sの価格と性能について詳しくみてみました。
Clariom Sは遺伝子レベルの発現にターゲットを絞り込むことで驚異的な低価格を実現しつつ、その解析精度は一般的におこなわれているRNA-Seqに匹敵します。時流に乗らない、真の意味での価値ある結果を待ち望んでいる研究者にとって、Clariom Sは常識を打ち破る新たなツールとなるでしょう。
研究用にのみ使用できます。診断目的およびその手続き上での使用はできません。