「子どもの疑問」に真面目に答えるには 週刊プレイボーイ連載(626)

子どもから「なんで約束を守らなくちゃいけないの?」と口答えされて、「そう決まっているからだ」と声を荒げたことはありませんか? 当然、子どもは納得しないでしょう。

「子どもの疑問」には返答に窮するものがたくさんあります。でもこの問いには、「約束を守って人間関係のコストを下げると、友だちがたくさんできるから」という“正解”があります。

「朝10時に駅に集合してみんなで公園に遊びに行く」という計画を立てたとしましょう。このとき1人だけ30分遅刻してくると、ほかのみんなはずっと待っていなければならないし、予定もくるってしまいます。すなわち、余計なコストがかかるのです。逆にいうと、ちゃんと約束を守る子どもは次に遊びに行くときも誘ってもらえます。

ウソをついたりだましたりするのが嫌われるのは、道徳的に間違っているというよりも、経済的・心理的な損失を被るからです。それに対して正直な相手は人間関係のコストが低いので、安心してつき合うことができます。

「なんで親のいうことをきかないといけないの?」はどうでしょう。「うるさい!」と怒鳴って、黙らせる親もいそうです。でもこれにも、「常識はコスパがいいからだよ」という“正解”があります。

横断歩道の渡り方から電車の乗り方、挨拶の仕方まで、常識というのは、これまでたくさんのひとが試行錯誤した結果、うまくいったやり方を知識として集めたものです。“子どもの浅知恵”で、それよりよい方法を思いつくということは、ふつうはありません。

勉強やスポーツも同じで、「こうすれば上達できる」というさまざまなマニュアルがつくられています。九九を暗記せずに掛け算を習得しようとしても、ものすごく時間がかかるか、あきらめてしまうだけでしょう。親の役割は常識を教えることで、子どもにとってもそれに従ったほうがコスパがいいし、うまくいく可能性が高いのです。

でもここで、「みんなと同じ人生なんて、そんなのつまらないよ」と反発するませた子どもがいるかもしれません。そんなときは、「99%は常識に従って、残りの1%は好きなこと/得意なことに集中すればいい」とアドバイスしましょう。

人類は長い進化の過程の大半を、濃密な共同体のなかで暮らしていました。そこでは仲間からの評判がすべてで、その結果、賞賛を快感(幸福)、批判を痛み(不幸)と感じるような脳の仕様がつくられました。

子どもが夢中になるのは、「スゴいね」「カッコいいね」と友だちからほめられることで、それはスポーツでも音楽でも、あるいは勉強でも、得意なことだけでしょう。こうして子どもは得意なことを好きになりますが、親がその選択に介入することはできません。

それでも「子どもの疑問」に真面目に答え、世の中の仕組みを教えることで、これからの人生にかなりのちがいを生み出すことができるでしょう。

そんな話を新刊『親子で学ぶ どうしたらお金持ちになれるの?』(筑摩書房)で書きました。子どもと楽しくゲームをしながら、「人生というリアルなゲーム」を攻略してください。

橘玲『親子で学ぶ どうしたらお金持ちになれるの?』

『週刊プレイボーイ』2024年12月9日発売号 禁・無断転載