【コラム】戸塚啓

アクチュアル・プレイング・タイムを伸ばす

[ 2025年3月31日 08:00 ]

<FA杯準々決勝>ノッティンガムF戦でDFアイナ(左)と競り合うブライトン・三笘(ロイター)

 今シーズンのJリーグは、アクチュアル・プレイング・タイム(APT)を伸ばしたい、としている。APTとはピッチ内でプレーされている時間、つまりインプレー時間を指す。ファウルが多くて何度も試合が止まったり、ロングスローの準備に時間がかかったりすると、APTはどんどん削られていく。

 APTを伸ばしたい、という方向性には同意する。

 試合の流れがブツブツと切れるよりも、試合が止まらないほうが観ていてストレスを感じない。攻撃から守備、守備から攻撃と攻守が絶え間なく入れ替われば、ピッチから眼を離せなくなる。時間が進むのが早い、と感じられる。魅力のある試合で、また観たいと思える。

 プレミアリーグはJリーグよりAPTが6分ほど長い、という。実際に中継を観ていると、スピード感の違いに気づく。攻守の切り替わりが速いのは大前提で、一人ひとりのスプリント力、パス、キック、シュート、判断、全体の押し上げ、といった様々なスピードが速い。身体の大きな選手がスピード豊かにプレーするので、視覚的にも非常にダイナミックに映る。それがまた、スピード感につながっている。

 現代サッカーは高い強度の攻防だ。創造性や意外性といったものよりも、アスリートとしての身体的強さやタフネスさが、求められるようになっている。プレミアリーグは様々な要素のスピードが速いなかで、インテンシティが高い。速くて強い攻防が、90分+アディショナルタイムで繰り広げられる。

 APTを国際基準へ近づけていくことは、高い強度で持続的に戦える選手を増やしたい、試合の終盤になっても強度を保てる選手を増やしたい、ということなのだろう。それによってリーグのレベルアップをはかり、国際的な競争力を高めていく、ということなのだと理解する。

 JリーグのAPTが伸びない主因は、リーグの開催期間にある。6月から9月になると、ぐっと落ちていく。26年からのシーズン移行によって、ベースとなる部分が伸びていくことが予想される。

 そのうえで言えば、試合には「勝ちかた」というものがある。格上相手と格下相手では、勝ち筋が変わってくる。試合展開やスコアによっても、勝つための戦いかたは変化していく。APTを伸ばせば勝てる、というわけではない。

 APTを伸ばしていこう、との方向性は支持する。そのうえで、チームにはそれぞれにターゲットがあり、目標達成のために必死に戦っている、ということは忘れたくない。直接FKでのキッカーとGKの駆け引きや、ロングスローの際のゴール前のポジション争いなども、サッカーの見どころにあげられる。数字は客観的な事実を浮き彫りにするが、サッカーはそれだけではないということを記して、この連載を擱筆することとする。【終】(戸塚啓=スポーツライター)

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