黄色い車両をモチーフにした布地に、子どもたちが思い思いの絵を描く。完成した大型の旗には「Welcome LRT」の文字。次世代型路面電車(LRT)沿線の宇都宮市峰地区向原自治会が9日開いた開業記念イベントの光景だ。
LRTはJR宇都宮駅東口から芳賀・高根沢工業団地まで14・6キロを結ぶ。商業施設や学校、工業団地に停留場を設け、通勤通学時間帯は8分間隔で走る。
同自治会の国谷善一(くにやぜんいち)さん(70)の期待は大きい。「高齢者はバス停で長時間待っていられない。LRTで利便性が高まる」。開業は1カ月後。国谷さんは子どもたちと一緒に旗を掲げ、初運行を待つつもりだ。
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宇都宮市東部に新交通システムを導入する-。30年前の1993年、当時の渡辺文雄(わたなべふみお)知事の旗振りで鬼怒川左岸地域の交通対策の検討が始まった。「市東部の産業集積を継続するために渋滞を放置できなかった」。渡辺知事の危機感を県OBはそう代弁する。
モノレール、ミニリニア、パーク・アンド・バスライド。多くの手法が議論された中、優位性が示されたのがLRTだ。他に比べ事業費が安く、バリアフリーで時代ニーズに合った。ただ財政負担の懸念、事業主体を巡る県と市の綱引きなどから、容易には進展しなかった。
潮目が変わったのは2007年。交通弱者の移動の足を確保する目的で施行された「地域公共交通活性化再生法」だ。自治体が軌道などを整備し、民間事業者が車両を借りて運行する「上下分離方式」の導入が特例で認められた。事業に長く携わる市幹部は「運行側に財政負担を求めないのは大きい」と明かす。
とはいえ、反対論は根強かった。14年にはLRT導入の是非を問う住民投票を求め、3万を超える署名が集まった。市長選のたびに中止を訴える候補者が現れた。
佐藤栄一(さとうえいいち)市長は04年の初当選時から公共交通の再構築を掲げている。説明会を千回以上重ね、「指摘を一つ一つクリアすることで、いい形のまちづくりに成長した」と強調する。
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JRの廃線や既設の軌道を活用するのではなく、LRTは一から敷設する。「全国初の新線」として脚光を浴びるが、着工後も曲折をたどった。
当初の1・5倍となる684億円に膨らんだ事業費、開業時期の延期、試運転中の脱線事故…。市幹部は「山の上り下りを繰り返すような作業の連続だった」と振り返る。
沿線ではバリケードの撤去が始まり、開業直前の準備が本格化している。一方で利用動向や安全面、採算性を不安視する声は絶えない。宇都宮駅西側への延伸も賛否が分かれる。
「公共交通を軸に持続可能な街をつくる」。佐藤市長が描く姿をどう具現化していくのか。いよいよ真価が問われる。