以前書いた記事、『「雪やこんこ」はドボルザーク作曲だったんだ…』に久しぶりにコメントをいただきました。
「作者不詳ではなく、滝廉太郎作曲ではないか」「1901年の滝廉太郎のオリジナルだからそちらのほうが早いのでは」という話です。
「えっ?!」
と思って、Wikipedia 様にお伺いを立てたら、なんと瀧廉太郎作曲になっているではありませんか。
しかし、「へー、そうなんだ。」と思いませんでした。私が天の邪鬼だからではなく、曲のスタイルが瀧廉太郎とはまるで違うからです。
瀧廉太郎の「雪やこんこん」と有名な「雪やこんこ」は違う曲
実は瀧廉太郎には、「雪やこんこん」という曲があります。「こんこ」ではなく「こんこん」です。「雪やこんこ」の方(本当の題名は「雪」です)は、尋常小学唱歌1で有るのに対し、「雪やこんこん」の方は幼稚園唱歌2です。この曲集には20曲収録されており、中にはあの有名な「もういくつ寝るとお正月」の「お正月」も入っています。
「雪やこんゝゝ」 作詞:東くみ 作曲:瀧廉太郎
雪やこんこん、あられやこんこん
もっとふれふれ、とけずにつもれ
つもった雪で、だるまや燈籠(とうろう)
こしらへましょー、お姉様
全く別の曲ですよね。こちらは、しっかり瀧廉太郎スタイルでございます。
「箱根の山は〜」と共通するものがありますよね。これと、尋常小学唱歌の「雪」と、混同されているようです。
というわけで、wikipedia も直しておきました。
瀧廉太郎の「雪」は日本初の歌曲組曲「四季」の4曲目
なお、ややこしいことに、瀧廉太郎には「雪」という歌曲もあります。明治33年(1900)21歳のときに発表した、組歌『四季』の一曲です。
構成は次のとおりです。
- 花 (詞・武島羽衣。ソプラノ・アルト・ピアノ伴奏)
- 納涼 (詞・東くめ。独唱・ピアノ伴奏)
- 月 (詞・瀧廉太郎。ソプラノ・アルト・テノール・バス)
- 雪 (詞・中村秋香。ソプラノ・アルト・テノール・バス・ピアノとオルガン伴奏)
「花」は大変有名なあの、「春のうららの隅田川」で始まる曲です。この4曲目が「雪」なわけです。あまり聞いたことはないのではないかと思います。
「雪」
詞:中村秋香
曲:瀧廉太郎一夜のほどに 野も山も
宮も藁屋も おしなべて
白金もてこそ 包まれにけれ
白珠もてこそ 飾られにけれ
まばゆき光や 麗しき景色や
あはれ神の仕業(しわざ)ぞ
神の仕業ぞ あやしき
この「四季」は実は日本の西洋式音楽史では大変重要な作品でして、邦人によって書かれた、初めての芸術的西洋音楽なのであります。それまではせいぜい唱歌しかなかった3ところに、突然、全く無名の作曲家によってこのような曲が発表されて大変驚かれたようです。詳細は、現代心理研究会の滝廉太郎の歌曲「雪」(組歌「四季」)についてに詳しいので、ぜひご覧になられることをお勧めします。なお、この頃の曲は大変西洋音楽の影響が強い4です。また、正直、「そこは違うだろ」的なところもまま有るのですが、当時の状況から考えると、驚くべき曲であることには変わりありません。
では、組歌『四季』お楽しみください。
脚注
- 1911年から1914年にかけて文部省が編纂した尋常小学校用の唱歌の教科書。全120曲。
- 共益商社編『幼稚園唱歌』(共益商社楽器店)明治三十四年七月発行
- 組歌「四季」を出版するにあたって、瀧が巻頭にみずから 「歌曲の殆どは学校唱歌であり、外国の曲に日本語の歌詞をはめ込んだものである。その歌詞は原曲の内容と合わないものが多い。そこでこのたび、日本語の歌詞に作曲した作品を……」と記している。
- ドイツ留学から帰国後、死の前年に書かれた「荒磯」などは、ドイツ歌曲と日本の浄瑠璃が融和したような所があり、非常に面白いと思う。残念ながら非常に短い曲だが…。
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「「雪やこんこ」は瀧廉太郎作曲?」への3件のフィードバック