さて、こうした新技術に対する期待感が手伝うのか、かつては斬新としか受け止められていなかった製品や取り組みも、いまは実体感をともなって語られつつある。そんな中、KDDIは26日、「スマートグラス×5G×xR技術」の取り組みを発表した。
ODGの最新モデル「R-9」とは?
KDDIでは、5G、IoT、AIなどの最先端技術が出始めたこの大変革時代に、パートナー企業と協業することで顧客体験価値を向上していきたい考え。今回の取り組みでも、スマートグラスの開発を続けるODG社と包括的パートナーシップを結んだ。同社は直近の10年間で8世代のスマートグラスを発表、数百の特許と特許申請を持つ米国の企業だ。
同社の最新機種「R-9」についても紹介しよう。重さ約181gの軽量モデルで、前面には4つのカメラを搭載、プロセッサにはクアルコム製Snapdragon 835を採用している。単体での位置トラッキング(利用者の動きに追随)に対応したAR / VRアプリが利用可能なほか、フルHD画質で映画も楽しめる仕様だ。筆者も開発中のモックをかけてみたが、軽くて装着しやすい印象だった。これなら長時間使用しても、あまり疲れずに済むだろう。
どんなサービスが実現するの?
実際には、どんなサービスが実現するのだろうか。様々な可能性があり、活用例を挙げていけばきりがない。KDDIでは「シアター」「テレプレゼンス」「ARドローンレース」など、いくつかの利用シーンに分けて紹介している。
たとえばauビデオパスと連携すれば、移動の電車がプライベートシアターになる。R-9はハリウッド映画などの映像再生クオリティを認証する「THXディスプレイ規格」をスマートグラスで初めて取得したモデル。筆者もデモを体験したが、なるほど映像の画質の良さに驚いた。ただ、ひとつ注意したいのはグラス自体に透過性があるということ。映画の視聴中も、映像の向こうが(微妙だが)透けていた。ストーリーに集中したいときは、壁を見続けるなどした方が良さそうだ。
また、5Gの大容量・低遅延の特徴を活かせば、遠隔地で撮影中の映像をリアルタイムでR-9に配信することも可能。これを活用して、遠くにいる家族や友人、恋人の映像をR-9に映せば、相手がまるで側にいるかのような錯覚に陥るだろう。遠距離恋愛中も、寂しくならずに済むのかも知れない。
このほかAR技術を絡めたユニークな試みも考えられている。KDDIが紹介していたのは、室内に仮想のドローンのコースを出現させ、そこにトイドローンを飛ばしてラップタイムを競うというもの。最新の技術を複合的に使えば、このようなバーチャルとリアルが融合した新感覚のゲームも創造できるというわけだ。
ビジネス向けでは、たとえば熟練の技術者が遠隔地から、現場の作業員に指示を送る際などに活用できる。スマートグラスにARで表示すれば、経験の少ない作業員のサポートをおこなえる。保守・点検作業や、物流、建築業など、様々な業界で活用できるだろう。
スマートグラスによって大きな変革は起きるのか
KDDI理事 商品・CS副統括本部長の山田靖久氏は「xRによる、時間と空間を超える体験を創造していく。パートナーと一緒になって技術革新を目指し、エコシステムを形成していくことで、お客様の価値体験の向上にもつなげていく」と説明。R-9を提供するODGのCOOであるピート・ジェイムソン氏も「KDDIとの連携を喜んでいる。お互いの強みを束ねて、拡大する市場の期待に応えていきたい」と応じた。
クアルコムのシニアディレクターであるヒューゴ・スウォート氏は「私たちの生活は(スマートフォンの登場がそうであったように)スマートグラスの登場によって、再び変革されることになるだろう。xRで描かれる未来のビジョンを成功に導くため、パートナーとともに歩んでいきたい」と意気込んだ。
なおKDDIでは今夏、JALとスマートグラスを活用した実証実験をおこなう。スマートグラスを乗客に貸し出し、複数のコンテンツを楽しめるサービスを提供していきたい考えだ。また、バーチャルキャラクターの初音ミクとコラボしたサービスなども実施予定。そこで気になるのが商用化の時期だが、これについて山田氏は「5Gの運用が本格的にスタートする2020年頃になるのではないか」との見方を示した。現時点ではR-9の国内販売も決まっておらず、販売時期や価格についても不明とのことだった。