「台所に朝日の光が欲しい」というお母様の一言から始まった今回の改修計画。
台所の東側には、ほとんど使われていない物置状態の座敷があり、光をとり込むには壁を取り払って台所と座敷を一体化しなくてはなりませんでした。しかし、この古い家にとっては、使われなくなった座敷でも無くすことは出来ない歴史が詰まった大切な場所。
今回の計画は、単に明るいLDKにすることが目的ではなく、壁を取り払っても、台所は台所らしく、座敷は座敷らしく、これまでと変わらない暮らしを保ちながら新しい暮らしの質を高めることを目指しました。
お母様の「朝日が欲しい」という言葉には、光だけでなく、新鮮な空気を取り込みたいという思いが込められていました。壁を取り払ったことで、庭から台所まで朝の空気が一直線に通る道ができました。
壁をなくした代わりに、家を支えるための筋交いをあえて見えるようにすることで、空間に強さを感じさせています。また、その筋交いの間に円卓を置き、人が集まる機能を加えることで、台所と座敷が一緒に存在しているような空間を作り出しています。
床は、水回りの機能性と椅子座が多いことを考えてビニルタイルを採用しています。ビニタイルの色は、おばあ様が選んだテラコッタ色。少し派手ですが、昔ながらの温かみのある色で家族全員が気に入っています。
テラコッタ色を基調に、台所の天井は補色の深緑、背景にしたい部分はグレー、強調したい部分には床柱をイメージした黒みがかった赤を使い、全体の調和を図っています。
たまに訪れる親戚たちは、改修前と同じように、この座敷に集まって台所で調理する姿を眺めながら、円卓と座卓に分かれて、くつろいでいます。
ほとんど使われていなかった床の間は、お父様の趣味である熱帯魚用の水槽と清掃用の洗い場を設置。
台所の調理場は、水槽の洗い場から距離をとりたかったため、既存の壁で遮られる元々の位置に再設置しました。
元々は天井裏だった吊り戸の上部に照明を仕込み、外からの光のように空間を明るくします。また、キッチン本体を開き戸からオープン収納に変更したことで、空間に奥行が出て、開放感が生まれました。
冷蔵庫や電子レンジを置くスペースをしっかりと確保することで、キッチンの動線を整理。また納戸にある既存の棚に板を追加して収納力を高めることで、これまで使用していた食器棚を撤去しました。結果として、家具や家電の配置がすっきりと整い、より使いやすい空間になっています。
間仕切りを変更したり、台所の冷蔵庫の位置を移動させたりするなど、暮らしを変えるような大きな変化ではなく、家の形を整える作業をしたという今回のリフォーム。しかしそれにより、お母様が望んだ光が差し込む台所や、おばあ様の好きな色、お父様の趣味など、家族それぞれの「好き」が可視化されました。
リフォームによって見えてきた家族の好みをお互いに理解し合うこともまた、暮らしの質を高めることにつながると気づかせてくれた素敵な事例でした。
写真提供:中島悠二(竣工写真) / ARCHIDIVISION(既存写真)
塩入勇生+矢﨑亮大 | ARCHIDIVISION
住宅の新築、リノベーションの設計を中心に、店舗・
限られた予算の中でも実現したい空間について、