自治体の旅費精算業務は旅費法改正でどう変わるか 民間事例に学ぶ
国家公務員等の旅費制度、いわゆる旅費法が2025年4月に改正される見通しだ。旅費法を参考に旅費規程を定めてきた自治体では、既存の旅費精算業務の見直しが求められることになる。行政DXをサポートするデロイト トーマツ コンサルティングが、事例を通してそのポイントを解説する。
左より、デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 ディレクターの富田 吉隆氏、
マネジャーの大久保 悠氏、シニアコンサルタントの大石 陽菜氏、コンサルタントの楠木 貴也氏
旅費法改正で問われる
旅費精算業務のあり方
行政DXをサポートするデロイト トーマツ コンサルティングのディレクター、富田吉隆氏は、「国内外の社会情勢が著しく変化する中、デジタル技術の発展や法令改正が後押しとなり、公務員等の旅費精算のあり方が転機を迎えています」と話す。
現行の旅費法の運用では、事務手続きが煩雑な上に、旅行者である職員本人に一時的な立替負担が発生するといった課題があった。そこで今回の法改正では、規定の簡素化のみならず、支給対象や形態を出張の実態に合わせて変えるとともに、違反者への規定を新設する方向性で法案がまとめられた。
「民間企業では電子帳簿保存法(電帳法)やインボイス制度などの法改正を背景に、この数年間で旅費精算業務を変革してきた実績があります。各自治体はこれらを参考事例として活用しつつ、公務員の旅費精算の新たなプロセスとシステムの導入を検討する必要があります」(富田氏)
民間のDX事例をベースに
業務変革とシステム刷新を支援
民間企業において旅費精算業務の改革が求められる契機となったのが、電帳法改正だ。これは国税関係の帳簿や書類を外部から電子データで受け取った場合、電子化して保存することを求めるもので、2024年1月1日以降、各社は法制度に対応したシステムの準備が必要となった。併せて、受け取った電子データの改ざんや不正利用が起きないよう真実性を担保する要件や、いつでも確認できるよう電子データの可視性を担保する要件もある。同社マネジャーの大久保悠氏は、電帳法改正に対応するポイントは2つあると話す。
「1つは、法制度に対応したシステム導入と同時に業務改善を行い、事務処理の負担を軽減した運用を構築すること。2つ目は、システム・データ・AIの活用でガバナンスを強化し、コンプライアンスを遵守した仕組みを構築することです。法制度への対応のために業務変革やシステム刷新を行う場合は、システムを最大限活用し、効率的かつ適正さを担保した業務を新しく構築することが肝要です」(大久保氏)
実際に、電帳法改正に向けて業務やシステムを変革したことで、業務負荷の軽減やガバナンスの向上を実現した民間企業は数多く存在する。従来、民間企業では申請者が領収書などを紙証憑で作成し、システム画面にもデータを重複入力すると、承認者は紙とシステムの双方を確認して承認後、全ての紙証憑を10年間保管する必要があった。しかし、業務変革後は、申請者が紙証憑をデータ化してスマホなどから申請すると、承認者がシステム上で画像とデータを確認して承認をし、証憑はデータで保管するだけで済むようになった。大久保氏によれば、同事例において業務が変革したポイントは、「①ペーパーレスによる業務負荷の軽減」「②モバイルアプリの活用による働き方改革への対応」「③データ活用・分析によるガバナンスの向上」の3点だ。
業務システムを1つに集約し
業務効率化とガバナンス向上へ
現在、公共領域でも様々なDX施策が推進されているが、とある電子請求の事例では「業務処理の負担」「手戻りの負荷」「請求書のやり取りの負荷」の3つの課題があったという。同社シニアコンサルタントの大石陽菜氏は、この事例で3つの課題を踏まえてクラウドツールの活用を検討したことで、電子請求業務を効率化したと説明する。
「クラウドツールを最大限活用する形で『あるべき姿』を検討の上、電子で請求書を受領してデータをそのまま連携し、必要項目だけを職員が埋めて電子承認する形を実施しました。その結果、手戻りが少なく、職員間でのやり取りも短時間で実施できるようになりました」(大石氏)
この事例から読み取れるのは、DX検討や法改正への対応を行う際は、制度・業務・システムの3つの側面を検討することが重要だということだ。まず制度面では、元々の規則にある書面や押印などの文言に縛られず、システムで担保できるよう文言の削除を検討する。業務面では、3層分離を意識して領域間の移動を減らす。システム面では、財務会計システムをカスタマイズするのではなく、クラウドツールを活用して安価かつ簡易になるよう検討することだ。これら3つの側面には、それぞれ留意すべきポイントがある。
「制度面でのポイントは、業務やシステムも並行して検討することと、現状の規則を見直すきっかけとすることです。制度を検討する際、現行の文言に縛られるあまり、業務改善の幅が狭まることが多々あるため、現行の文言も同じタイミングで見直し、より効率的な業務を検討することが重要です。その際は、他自治体の記載方法を参考にすると、短時間での実施が可能となります」(大石氏)
制度改正を踏まえた各自治体における旅費業務の見直し観点(イメージ)

出典:デロイト トーマツ コンサルティング
業務面でのポイントは、ネットワーク領域を考慮し、データ移動が円滑になるような業務フローを検討することだ。民間での効率的な業務フローをベースに、自治体での業務を組み立てることで、効率的な業務を短期間で検討できる。またシステム面では、機能を最大限活用することだ。
「政府の指針でもクラウドツール活用のメリットが記載されているため、各ツールの標準仕様をベースにするといいでしょう」(大石氏)
旅費制度改正では、社会情勢および出張実態を反映した効率的かつ簡素なプロセスの観点で見直しが行われているが、「旅費業務を1つのシステムで完結させ、法人カードの利用や実費支給などに対応することで、業務効率化とガバナンス向上が期待できる」と話すのは、同社コンサルタントの楠木貴也氏だ。
楠木氏は旅費法改正に伴う業務プロセスへの変化を踏まえ、各自治体は次の3つの観点を持つことが重要だと強調する。先ず、「業務効率化・簡素化の余地」である。具体的には、現状のプロセスにおいて重複する情報入力や承認行為など、削減の余地がないかを見直すことが重要だ。次に、「実態に即した経費支給となっているか」。社会情勢や出張実態を踏まえ、経費の適切な支給が実現できているかを見直すことも必要となる。最後に、これらの観点を踏まえ、業務を一元的に管理・分析可能なシステムを検討していくことが重要だ。
最後に、富田氏は「法改正をミニマムな対応で終わらせるのではなく、業務効率改善の契機と捉え、最適な業務システム構築を目指していただきたい」と締め括った。