「ここは削る/ふくらませる」の判断基準って?原作小説を再構成するコミカライズの仕事について
インタビュー/原田イチボ@HEW
2023年10月1日(日)より、GA文庫のコミックレーベル「GAコミック」とpixivがタッグを組んでコンテストを開催!
本コンテストでは自由に異世界のストーリーを考えマンガを投稿する「フリー部門」の他、課題小説のコミカライズ作品を募る「ファンタジー少年マンガ作画部門」と「ファンタジー少女マンガ作画部門」があります。
課題小説のひとつは、『アクアク』こと『悪役令嬢と悪役令息が、出逢って恋に落ちたなら ~名無しの精霊と契約して追い出された令嬢は、今日も令息と競い合っているようです~』(著:榛名丼、イラスト:さらちよみ)です。こちらのコミカライズを担当している迂回チル先生に、「小説をマンガにする上で大切な考え方」を教えてもらいました。
- 迂回チル(うかい・ちる)
- 漫画家。『悪役令嬢と悪役令息が、出逢って恋に落ちたなら ~名無しの精霊と契約して追い出された令嬢は、今日も令息と競い合っているようです~』(GAコミック)で連載デビュー。
コミカライズはネームの勉強になる!
── まずは迂回先生が『アクアク』のコミカライズ担当になった経緯を教えてください。
もともとオリジナルの企画を抱えていたものの行き詰まってしまい、当時の担当編集さんに「勉強のためにコミカライズに挑戦してみたい」とお願いしているところでした。その後、編集さんがいくつか原作を紹介してくださった中で、『アクアク』の「悪役令嬢と悪役令息のケンカップル」というキャッチーな設定に惹かれ、コミカライズを担当させていただくことになりました。
── 「勉強のためにコミカライズに挑戦したい」と担当編集者に伝えていたそうですが、実際に手がけてみて、コミカライズはどんなところが勉強になると感じていますか?
特にネームですね。各要素の取捨選択、ストーリーの組み立て方、読者を飽きさせないページ構成など学ぶことばかりです。お話づくりに苦手意識を持っている人は、コミカライズに一度挑戦してみるとすごく勉強になると思います。
最初は原作を逐一再現してしまった
── 迂回先生にとって初のコミカライズです。当初はどんな点につまずきましたか?
コミカライズはもちろん、連載も商業誌も何もかも初めてだったので、つまずきまくったのが正直なところです(笑)。最初、原作をそのまま順番にマンガに置き換えたようなネームを提出して、「ゴチャついてしまっている」と全ボツをくらってしまいました。
── 原作をマンガでそのまま再現しようとするのは違うんでしょうか?
原作の内容を逐一再現するようなコミカライズだと、「マンガとしてのおもしろさ」が成立しないんだと思います。小説はモノローグが使えるので、キャラの心情を細やかに伝えることができます。マンガは小説ほど文章で細かく説明することはできませんが、代わりに絵でバンと見せることができるのが魅力です。そのように形式が違う以上、マンガだからこその見せ方というのを意識しないといけません。
── 『アクアク』のコミカライズで苦戦した点を教えてください。
初代編集さんとは「第3話までが難しそうだ」と話し合っていました。というのも、ブリジットのバックグラウンド、「氷の刃」や「赤い妖精」といった用語など、説明が必要な情報がたくさんあるんです。かといって最初から全部説明しようとするとゴチャゴチャしてしまうし、ユーリも早く登場させたい。なので、「最初に説明しておくべきこと/あとから説明するのでも大丈夫なこと」を整理し、何をどう削るか編集さんとみっちり打ち合わせしました。
── 編集さんのアドバイスで印象に残ったものはありますか?
はっきり言葉でアドバイスされたわけではありませんが、打ち合わせを通して、「おもしろさの核をまず決めて、そこを前面に押し出すために削れるところは全部削る潔さが大切なんだ」というのはなんとなく感じ取りました。第一の読者である編集さんが読んでいてストレスに感じた箇所は思い切ってバッサリ削ってしまうほうが良い結果に繋がります。初めは「なるべく原作通りに描かなければ」と思っていましたが、マンガとしてのおもしろさをしっかり立たせることが大事なんだと途中で考えをシフトさせました。
「ここは削る/ふくらませる」の判断基準
── 毎話どのように制作しているのでしょうか?
説明すべき前提情報がいろいろあるので第3話までは大変でしたが、第4話以降はわりとスムーズに取り組めています。なので今は、プロットを立てて、ネームを描いて……という一般的なマンガ制作の流れ通りに作業しています。1話につき30ページほどなので、そのボリュームにはまって、なおかつ続きが気になるようなところで原作をちょうど区切れないか考えます。そして「次回は原作のここからここまでを描くエピソードにしよう」と決めた後は、その範囲に出てくるセリフを全部書き出して、どれを残してどれを削るか取捨選択しつつ、その回のハイライトをどこに置くかも考えていきます。
── 原作のストーリーを30ページのマンガに収まるように区切っていく中で、「どうしてもこの回は絵的に地味なシーンばかりになってしまいそうだ」と悩むことはありませんか?
そういう場合は、どこかのシーンをふくらませるようにしています。たとえば授業中にニバルの精霊が暴走するシーンです。原作ではすぐに解決して次の展開に移るのですが、編集さんに「クライマックス感がほしい」とリクエストされて、コミカライズではより絵的にドラマチックになるよう演出しています。ちょっと少年マンガっぽくできないかと意識しつつ、ブリジットがニバルを抱きしめる描写などを入れました。
── 「ここは削る/ここはふくらませる」は、どのように判断していますか?
編集さんに「ファンタジーらしい見せ場と恋愛モノらしい見せ場を毎話入れよう」と言われたので、そのように見せられそうな原作のシーンはふくらませたり、特になければマンガで追加するようにしています。一方で、原作読者の方々には本当に申し訳ないんですが、キャラ同士の掛け合いは結構削っています。吹き出しの大きさや1ページあたりのコマ数に限界がある以上、原作の掛け合いをマンガでそのまま再現しようとすると、どうしても冗長というか野暮ったい印象になってしまうんですよね。
── コミカライズならではのおもしろさを出せたと感じるシーンはありますか?
筆記試験のところでしょうか。原作小説は「筆記用具を盗まれたブリジットが血文字で回答する」という展開でしたが、マンガだとバイオレンスな見え方になりすぎてしまうように感じたので、精霊ブラウニーを登場させることにしました。『アクアク』のファンタジー感を効果的に演出できたんじゃないかと思っています。
── 精霊をめぐる描写も『アクアク』の魅力のひとつですよね。気に入っている精霊のデザインを教えてください。
第11話で登場するコブラナイです。原作小説で作画を担当しているさらちよみ先生のキャラデザのテイストに近づけたかったんですよね。さらちよみ先生はゲームのお仕事をよくされていますし、ゲームに出てくるようなミニキャラっぽいデザインにしました。かわいくできたんじゃないかと自画自賛しています(笑)。
── たとえば原作小説だと「学校の教室」と一言で説明されているところも、ビジュアルで表現するにあたって、「教室の広さはどれくらいか? どんな椅子と机が置かれているのか?」など考えることは無限にありますよね。そのような苦労は感じませんでしたか?
私はもともと和風の世界観のほうに馴染みがあったので、あまり西洋ファンタジーの素養みたいなものがありませんでした。なので少しでもそういったものに触れて勉強しなければと感じ、神戸の北野異人館街に行きました。あとはベタですが、映画の『ハリー・ポッター』を観ました(笑)。おかげで「西洋ファンタジーっぽい雰囲気」というものがなんとなくつかめたんじゃないかと感じます。
少年マンガのような作りの悪役令嬢ものにしたい
── 『アクアク』がコミカライズ作品のコンテストの課題図書に選ばれました。迂回先生のお話を聞いて、コミカライズとは作品の魅力をマンガ向けに再構成する作業なのだと実感しました。あらためて、迂回先生が思う『アクアク』の魅力とは何でしょうか?
まずひとつは、悪役同士のケンカップルというキャッチーな設定です。そしてもうひとつ、私は『アクアク』をブリジットの成長物語として捉えています。ブリジットは大きな苦悩を抱えていて、そこにユーリとの絆やドキドキする展開が絡んでくるのがおもしろいんですよね。ブリジットの成長をしっかり描くことで、ほかの悪役令嬢ものと差別化が図れるんじゃないかと考えています。
ブリジットが努力と根性で問題を解決する展開には、少年マンガ的な楽しさがありますよね。編集さんとは「少年マンガみたいな作りの悪役令嬢ものにしたい」と話しています。だからこそブリジットが乗り越えるべきハードルをまず設定し、その課題を解決する場面では「クライマックス感」を演出するように意識しています。もちろんユーリのかっこよさも大切な要素なので、ユーリとのキュンとするような場面を軸に、ブリジットの成長シーンを要所要所で作っていくイメージですね。
── なるほど。ぜひ応募者それぞれの『アクアク』観を作品にぶつけてほしいですね。迂回先生はいつも原作小説のおもしろかった部分などをメモしながら作業しているのでしょうか?
細かくメモするわけではありませんが、原作小説の中で「これが今回のエピソードの軸になるだろう」と感じるセリフや場面を抽出して、そこを軸に「マンガとしてのおもしろさ」に適した形に再構成しています。
── 迂回先生のお気に入りのキャラを教えてください。
面倒くさいところを抱えたキャラが好きなので、ジョセフですね。友人に「ジョセフの色気が出まくっている」と言われたことがあるので、描いていて無意識に気合が入っているのかもしれません(笑)。物語が進むにつれてジョセフのバックグラウンドも明らかになってくるので、なんだか作者の力が入っているように感じたら、そういうことだと察してください(笑)!
── 原作者の榛名丼先生から感想をもらうことはありますか? 印象に残った感想はありますか?
── ありがとうございます! 最後に、迂回先生がどんな意気込みでコミカライズに取り組んでいるのか聞かせてください。
大事な作品をお借りしているのだから、原作小説に還元できるようにマンガとして少しでもクオリティの高いものを世に出したいと考えています。マンガを読んでくださった方がそこから原作にも興味を持ってくれるようなサイクルを作れたら幸いです。そのためにもマンガ家として日々勉強して成長していかないとですね!
「GAコミック×pixiv マンガコンテスト」2023年10月1日(日)スタート!
大賞賞金は100万円、連載&書籍化確約というビッグなコンテストが開催! 応募部門は「ファンタジー少年マンガ作画部門」「ファンタジー少女マンガ作画部門」「フリー部門」と、賞の種類や枠も多いため、受賞のチャンスが豊富。
応募期間は2023年10月1日(日)~2023年12月8日(金)23:59まで!
ぜひふるってご応募ください!