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2024.11.27事例

IOWN技術で変わる、未来の金融システム
~三菱UFJフィナンシャル・グループが思い描く2030年の金融とは~

先進技術による社会変革に積極的に取り組む、三菱UFJフィナンシャル・グループ(以下:MUFG)。超大容量、超低遅延、超低消費電力を実現する次世代コミュニケーション基盤の構築を目指すIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)技術がその一例だ。MUFGは、将来の金融のあり方がIOWNでどのように変わると構想しているのか。IOWN技術の金融ユースケースでの適用検討をリードする、MUFG傘下の三菱UFJ銀行 常務執行役員の本 裕一郎氏と、NTT DATAにおけるIOWN推進の責任者であり、先進技術を活用したイノベーションを主導する稲葉 陽子が、IOWN技術によって到来する金融サービスの未来を洞察した。
目次

IOWNが金融の未来にもたらす変化と期待

稲葉 陽子(以下、稲葉):IOWNの活用が進んだ想定で2030年頃のイメージについてお聞きしたいのですが、グローバルの観点で見た時、日本の金融業界はどうあるべきだとお考えでしょうか?

本 裕一郎 常務執行役員(以下、本氏):金融には送金や融資など多様なスキームが存在しますが、国ごとのレギュレーション、国と国とのリレーションが複雑に絡み合っています。一定のルールを人間が管理していたわけですが、こうした部分で間違いを起こさないよう技術側で制御できれば、より一層、複雑な金融のマネジメントやオペレーションが可能になってくるわけです。その際、金融として守るべきものは何かをしっかり見据え、システムと共存していくことが私たちにとっては大切なポイントでしょう。グローバルの決済でend-to-endの世界が見えてきた時、技術によって犯罪を抑止し決済の安全性を担保する、といったことも可能になるのではないか、と思っています。

また、紙幣は紙と数字をバンドルし貨幣・通貨として機能させ、お店で商品と交換して決済が完了しますが、昨今、貨幣は紙からアンバンドルされた数字(ディジタル)によって決済として利用される、クレジットカードとバンドルされて利用される、商品の授受についてもネットで決済しデリバリーは別途行われるといった具合に、消費者の体験が多様化しています。ネットで注文後にデリバリー業者と決済を行うケースもありますよね。今までバンドルされていたものがアンバンドルされ、また異なるものとバンドルされるなど、決済における複雑性が増しています。こうした複雑性をIOWNは高速・低遅延にもとづく柔軟性で強力にサポートできると考えています。

稲葉:IOWNには、単なる通信や処理の量・質に留まらない効果が期待されますね。

本氏:IOWNによって、IPコンテンツであったり、ヒューマノイドロボティクスであったり、宇宙であったり、実に多様な領域で大きな変化が起こり得るでしょう。まだはっきりとは見えていませんが、今後のIOWN技術や生成AIの進化によって、ネットワークやシステム基盤の完成度は格段に上がっていくことが容易に想像できます。そう考えると、2030年に訪れると考えられていたシンギュラリティがひょっとすると今から2年後に訪れるかもしれないとさえ思えてきます。

稲葉:IOWNの早期の展開が期待されるところと思います。

本氏:私たちは半導体メーカー「ラピダス(Rapidus株式会社)」に出資をしています。今後の先端半導体製造分野を注視している理由は、これがあらゆる産業界の省電力化につながるとともに、IOWN技術の進化を促進し、ひいては日本全体の産業競争力を向上させると考えているからです。技術革新によって創造される新たな日本社会の構築に、私たちは広く貢献したいと考えています。

稲葉:お話をお聞きして、新たな視座が生まれたと感じています。金融のバンドル、アンバンドルという複雑性が増していく流れなど、大きな変化に対応していくには、これまでつながっていなかった部分同士を柔軟につないでいく必要性が増していく。そこには通信が介在し、APNに代表される技術が、ますます期待されるようになると思いました。IOWN技術は、より早く、より安定したものを提供していかなければならないと、あらためて認識した次第です。

本氏:私たちのビジネスで言えば、お客さまの大事な資産をためて増やすといった従来のサービスはしっかり残していく上で、まだ見えていないお客さまのメリットにつながるようなサポートがIOWNによって可能になるのではないかと期待しています。それは自動運転の世界かもしれませんし、高齢者の方々への認知症サポートであるかもしれません。まだトライアルではありますが、こうした新規の領域においても力を注ぎ、新しい世界観を構築できればと考えています。

三菱UFJ銀行のIOWN Global Forumへの参画と取り組み

稲葉:MUFG様は、IOWN技術の実ビジネスへの活用をめざす業界団体、IOWN Global Forum(以下:IOWN GF(※))にも参画しています。参画の背景とねらいについてお伺いしたいです。

本氏:私たちにとって、IOWN GFの活動は、IOWNの光電融合、オールフォトニクスネットワーク(APN)といった技術を基盤に、世界的なゲームチェンジを狙う意欲的な取り組みだと理解しています。その認識の上で、MUFGは2021年以来、スポンサーメンバーとして参画してきました。あらゆるものがネットワークに繋がり、あらゆる産業において生成AIによるゲームチェンジが生じつつある現在、IOWN GFの活動は社会のあり方を変革する取り組みに通じると思います。

MUFGとしては、このフォーラムで収集した最新の情報や動向を、MUFG内はもちろんのこと、お客さまに向けて発信していきたいと考えています。私たちMUFGは、「世界が進むチカラになる」というパーパスを掲げておりますが、社会課題を解決することも含めて、お客さまとともにこのIOWNという技術を前提に産業を変えていく機会をしっかりと捕捉していきたいと思っています。

例えば、携帯電話やスマートフォンに代表されるように、通信技術の発展が産業のあり方を大きく変えたという事実があります。私たちの金融ビジネスにおいても、個人向け取引のほとんどがスマートフォンで実施できる状況になってきたように、今後IOWNを通じた新たなビジネスのあり方をしっかりと探索していきたいと思っています。技術的な部分で見ますと、消費電力の削減、通信容量の拡大、さらにはネットワークのスピード向上、レイテンシーの軽減といったメリットが、お客さまをはじめ、MUFGの業務遂行においても大きな改善ポイントになると感じています。

稲葉:ありがとうございます。金融業界では大規模なシステムが運用されていますし、お客さまがオンラインでの取引を日々行っていることなどから、量・スピード・質といった通信のケアは非常に重要であるとあらためて感じました。ネットワークを含むシステム全体の通信や処理に掛かる時間が、サービスにおける大きなネックになっているという認識です。APNなどを活用しながら、いかに高速で安定的にシステムを動かせるか、ぜひ一緒に取り組ませていただきたいと考えています。

一方、日々の運用もさることながら、災害対策も難しい課題のひとつですよね。サステナビリティの観点からもIOWNは重要な技術だと言えるでしょうか?

本氏:はい、お客さまの利便性、安全性はどちらも追い続けなくてはなりません。バックアップも含め、長距離通信のシステムをしっかりサポートできるIOWNは、私たちにとって非常に強力なツールになるであろうと捉えています。自然災害だけでなく、サイバー攻撃、テロなど、現代社会においては多様なリスクがあり、こうした状況への備えは重要課題です。ですからユースケースを増やしながら様々なリスクを探り出し、PoCを通じてお客さまとともに課題解決に取り組んでいければと考えています。

(※)

IOWN GFは2020年に設立した業界団体であり、100を超える企業や研究機関・学術機関が参加し、IOWN技術の実プロジェクトでの活用に向け、具体的なユースケースやアーキテクチャー検討、PoCを共同で実施している。

PoC(Proof of Concept:概念実証)を通じたユースケースの模索

稲葉:通信やITサービス事業者、デバイスメーカーなど、たくさんの方が集まって意見を出し合えるIOWN GFのような場があることは、とても好ましい状況ですね。

本氏:ユーザーの立場からIOWNの有用性を理解しつつ、自らのシステムやサービスをどのような方向に進化させたいかを考え、IOWN技術に精通した皆さんとコミュニケーションしながら技術やサービスを進化させていきたい。そのプロセスを通じて、気付くことができるポイントがたくさん出てくるでしょう。例えば、東京だけに一極集中させるのではなく周辺地域にデータセンターを分散させ、柔軟に切り替えながらシステムを安定運用していく、といった世界観が見えてきています。ここで得た課題解決の手法や知見を、私たちのお客さまである経営者の皆さまにも共有できれば、IOWN技術の社会への広がりを加速できるだろうと感じています。重要なのは、私たち自身がPoCを通じて「体感」することだと思います。

IOWN GFにおける検討や体験を通じて、IOWN技術への理解と期待は当初より高まりました。たとえばオンプレミスとクラウドを繋ぐような場面でIOWNが果たす役割は大きいと感じていますし、また、ガラパゴス化を防ぐためにシステムをオープン化する場合、ステークホルダー間の境目を明確にしていく必要があります。技術側でどこまで担保でき、どこからレギュレーションでコントロールするのか、そういった検証は我々だけでは難しく、共に乗り越えていく必要があると思っています。

稲葉:システムの状況に合わせて適切なリソース配分を行っていく、柔軟に繋いでいくというのは、とても大切な観点だと認識しています。オープン化に向けた検討も、ぜひ一緒に進めていければと思っております。

今後の展望

稲葉:最後に、思い描く未来に向けた意気込みや直近の目標となるマイルストーンなどがありましたらお聞かせください。

本氏:IOWNはMUFGのシステム構成のみならず、全ての産業にインパクトを与える、業務のあり方を変えていくツールになると考えています。IOWNの実装によって多くの社会課題解決が可能となるなど、大きなポテンシャルがこの技術には秘められていると感じます。こうした思いを前提に、本年度予定している金融ユースケースのPoCにしっかりと取り組み、NTTグループの皆さんとともに社会に資する新たな価値の構築にまい進していきたいと考えています。

稲葉:本日はありがとうございました。

IOWN Global Forum - Innovative Optical and Wireless Networkについてはこちら:
https://iowngf.org/

IOWN | NTTグループの取組みのついてはこちら:
https://group.ntt/jp/group/iown/

次世代金融システム構築に向けたIOWN技術の適用ユースケース発表についてはこちら:
https://www.nttdata.com/global/ja/news/topics/2024/081901/

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