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- 2018年6月26日
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改訂コーポレートガバナンス・コードとEVA®経営システムによる対応の意義(上)
EVA®:SternStewart&Co.の登録商標
コーポレートガバナンス・コードに資本コストが明示
東証のコーポレートガバナンス・コードが改訂され、2018年6月1日から施行された。最大のポイントは資本コストの導入である。原則1-4において「政策保有株式について、保有目的が適切か、保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているか等を具体的に精査し、保有の適否を検証するとともに、そうした検証の内容について開示すべきである」と明示された。また、原則5-2においては、「経営戦略や経営計画の策定・公表に当たっては、自社の資本コストを的確に把握した上で、収益計画や資本政策の基本的な方針を示すとともに、収益力・資本効率等に関する目標を提示し、その実現のために、事業ポートフォリオの見直しや、設備投資・研究開発投資・人材投資等を含む経営資源の配分等に関し具体的に何を実行するのかについて、株主に分かりやすい言葉・論理で明確に説明を行うべきである」とされた。
資本コストを意識した経営システム~EVA®経営システム
資本コストとは投資家の要求するリターン
資本コストとは、企業が投資家から調達して投下している資本に対して最低限、投資家が長期的に企業に平均的に達成してもらいたいと思っているリターンの水準である。つまりそれを超過して初めて投資家が満足する。株で調達した割合と借入で調達した割合の加重で計算すると日本では5-7%程度になる。個別事業の事業変動リスクに応じて7%から場合によっては10%、逆に安定していれば3%程度になる場合もある。その計算は、個別の株価変動等から推計される。精緻に計算するためには金融理論による統計学的な処理が必要となるが、簡便的には5%程度が目安になる。
EVA®経営システムの意義~投資家との資本コストを軸にした対話が促進
資本コストを経営戦略等に生かす方法としては、超過利潤という概念を生かした経営(EVA®経営システム)の導入がある。著名なEVA®経営システムの導入の例としては、大手消費材・化粧品メーカーや、大手トイレタリー用品メーカーがあげられる。筆者は、2000年代にスターンスチュワート日本支店の初の日本人コンサルタントとして大手消費材・化粧品メーカーでのEVA®経営システムの導入をご支援した。その経験にもとづいてEVA®経営システムとはなにか?どうコーポレートガバナンス・コードに対応するのか考えを述べたい。
そもそもEVA®とは、双方ともノーベル経済学賞受賞者であるモジリアーニ教授と企業価値の理論で名高い米国シカゴ大のミラー教授が1958年に打ち出したモリジアーニ・ミラー理論の証明につかわれた概念である。その弟子であるスターンとスチュワートの設立したコンサルティング会社によって経営システムへと発展した。
EVA®は企業価値を
① もともとあった投下資本の回収
② それを超えた超過利潤価値
③ 超過利潤の将来の成長
にわける。
②は以下のように計算される。
超過利潤=税引き後営業利益-企業活動に投下された資本×資本コスト
超過利潤価値=将来の超過利潤を資本コストで割り引いた値の合計
企業活動に投下された資本は株式資本簿価+借入でざっと計算できる。
EVA®を使うことで、経営者は将来のキャッシュフローを3つに分解してそれぞれについて議論していくことが可能になる。結果として、資本コストを軸にした投資家との対話を建設的に進めることが可能になる。DCF法との違い~EVA®は成長価値のアピールがより容易になる
企業価値の分析方法として有名なディスカウントキャッシュフロー(DCF法)も企業価値を計算できるが、キャッシュフローを分解しない。よってより経営者目線で細かく戦略を語るにはやや力不足である。特に成長価値を明確に示したい場合はEVA®がふさわしい。
※:WACC-借入に係るコストと株式調達に係るコストを加重平均したもの
これをさらに時系列で将来的にビジュアルに示せば長期的な企業価値発展を説明することが以下の図のように可能となる。EVA®を導入した投資家との対話をおこなうことで、成長価値の高い企業は株価増大効果も期待できよう。このような体制を築けば、コーポレートガバナンスに対応するだけではなく株価の底上げにも寄与できよう。政策保有株式の保有目的の適切さもEVA®を用いて説明すればより明確に説明可能となる。
次回はEVA®経営システムの社員にとっての意義やESGとの関わり等について触れてみたい。
(ジェイ・フェニックス・リサーチ株式会社 代表取締役 宮下 修)