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- 2016年7月14日
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統合報告書は企業価値を高めることができるのか? (第5回)
今回は6月30日に第四回目を発表してから欧米で統合報告書に影響を与える発言があったので、それらを紹介したい。統合報告書は幅広いステークホルダーを対象とするが、株主・投資家を第一においているので、この動きから目を離せない。
まず、前回の原稿を用意している最中に英国はEUからの離脱を決めた。英国Investor Relations協会(英国IR協会)のロイド・シード会長が6月30日に「Brexit: Championing excellence in IR*1」(筆者訳:IRの卓越性を擁護)というタイトルで、ブログを更新している。
「クライシスの発生や市場がショックを受けている時こそ、効果的なコミュニケーションが真価を発揮する」とIRの本質から書き出し、Investor Relations Officer(IRO)の役割として、現状を維持し、投資家層へ投資ストーリーを語り続け、良い時も悪い時も市場を味方につけることが大切と説く。投資家とアナリストとの継続的な対話(Engagement)やフィードバック、事業環境の変化、信頼性の維持が鍵と語る。そのためには、IROが重要な役割を果たすべきである。当面現状の混乱が企業へ与える影響は見通せないが、英国IR協会は会員の皆さんへ実務的なアドバイスを提供し、英国IR協会がリーダーシップを取っていくことを宣言して論をまとめている。
また、会長はこのブログの中で、『ケイ・レビュー』をまとめたジョン・ケイ教授が英国IR協会の年次総会で語った「IR活動の5つのCs」を紹介し、メンバーに対してそれらを忘れないことを再度奨励している。
5 'Cs' of IR: clarity, consistency, credibility, commitment and importantly, acting as a critical conduit between business and investor(筆者訳:明瞭さ、一貫性、信頼性、コミットメント、そして何よりも重要なのは、事業と投資家の間の重要なパイプとして活動)
余談だが、clarity, consistencyは、弊社の社名の由来と共通する部分で、弊社はツールの企画制作に関わる、creativity、conciseness、communications の計5つのCを大事にしている。
さて、もう一つは、第三回で紹介した米国のSustainability Accounting Standards Board(SASB)のロージャーCEOが7月6日付けのブログで「Letter from the CEO: SASB's Response to the SEC*2」(筆者訳:CEOからのレター:SECに対するSASBの対応)というタイトルのもと印象的な発言を行っている。
「サステナビリティに関する情報開示が記念すべき重要な瞬間に来ている」と書き出し、SECがサステナビリティに関する情報開示を、今日の市場ニーズにどのように合わせるかについて、公聴期間に入り、7月21日にそれが終了することを伝えている。つまり、近い将来、SECがSASBの決めた基準を採用し、企業はサステナビリティに関する情報開示を法的に要請されることを表している。同ブログでは、サステナビリティに関する情報開示が、企業と投資家のニーズに合い、資本市場に組み込まれ、市場の標準として認知される時が来た、と締めくくっている。
SASBの規準をSECが採用することが決まると、米国市場に上場する企業は米国内外を問わず、サステナビリティに関する情報を制度開示することになる。この制度開示によって、ますます投資家の企業を見る目が大きく変わっていくであろう。
注記
*1:http://www.irs.org.uk/news/brexit-championing-excellence-in-ir
*2:http://www.sasb.org/letter-ceo-sasbs-response-sec/
(株式会社ファイブ・シーズ代表取締役 越智義和)