日経サイエンス  2011年9月号

タスマニアデビルの伝染するがん

M. E. ジョーンズ(豪タスマニア大学) H. マッカラム(豪グリフィス大学)

 怖そうな名前が付いているが,なかなかチャーミングな顔つきのタスマニアデビル。カンガルーと同様,お腹の袋で子どもを育てる有袋類だ。かつてオーストラリア大陸にも生息していたが,今ではその名前の通り,同大陸の南に位置するタスマニア島にしかいない。しかも,ここ20年で頭数が激減し,豪政府は絶滅危惧種に指定している。原因は,顔面や口の中にできる伝染性のがん。タスマニアデビルは激しくかみ合う習性があり,腫瘍細胞が咬み傷に付着してそこに根付く。「そうした外来の腫瘍細胞は,免疫によって排除されてしまうのではないか?」と思われるかもしれないが,免疫がうまく働かないところにタスマニアデビルの悲劇がある。

著者

Menna E. Jones / Hamish McCallum

ジョーンズはタスマニア大学のオーストラリア研究会議フューチャー・フェロー(オーストラリアに重要な分野の研究を推進する研究制度の研究員)。タスマニアデビルの顔面腫瘍性疾患と,この最上位捕食者の消滅が生物多様性に及ぼす影響を研究しており,この研究が保護管理プログラムの基盤となっている。マッカラムは豪クイーンズランドにあるグリフィス大学の環境科学部長で,長年にわたり野生生物の生態を研究してきた。グリフィス大学に移る前は,「タスマニアデビル救済プログラム」の研究主幹を務めていた。

原題名

The Devil's Cancer(SCIENTIFIC AMERICAN June 2011)

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