(2025/1/9 05:00)
足元の株価はバブル期を上回る。歴史的な円安に支えられた堅調な企業業績が、その背景にある。だが実質賃金は増えず、豊かさの実感に乏しい。企業の利益が株主還元や内部留保に回り、人件費や設備投資が抑えられていないか懸念される。中でも「株価を意識した経営」が株主重視を過度に促していないか気がかりだ。企業は従業員や取引先など多様なステークホルダー(利害関係者)にも十分に利益還元し、「新たな成長軌道」への歩みを進めてもらいたい。
財務省の法人企業統計調査によると、2023年度の企業の内部留保(利益剰余金)は前年度比8・3%増で初の600兆円超に達し、配当金も同9・7%増の36兆円と高い伸びを示した。一方、人件費は同3・4%増の222兆円にとどまる。
23年度の自社株買いは初の10兆円を突破しており、企業が株主還元を積極化している状況がうかがえる。24年度も3年連続で過去最高更新が見込まれる。経済好循環に必要な高水準の賃上げや国内投資に十分目配りできるかが25年の焦点となろう。
東京証券取引所が「株価を意識した経営」を求めたのは23年3月。海外に見劣りする日本の上場企業の資本収益性を高め、日本株の魅力を引き上げる狙いを込める。自社株買いなどの株主還元は海外投資家から評価を受け、足元の株高を招いた。
政策保有株の売却も進み、株主による企業監視も強まった。だが企業は株価や株主還元など短期の利益ばかり優先していないか心配だ。24年は1年間で94社が上場廃止となり、あえて非上場化を選択した企業もある。経営の自由度を求め、中長期の視点で企業改革に取り組む動きとみられ、今後もこの流れが継続するかを注視していきたい。
25年春季労使交渉(春闘)では、高水準の賃上げ「定着」が求められる。大企業の賃上げはもとより、中小企業の賃金底上げに向けた価格転嫁が欠かせない。株主ばかりでなく自社の従業員、取引先の中小企業など多様な利害関係者への目配りなしに好循環は回り始めない。その意識を産業全体で共有したい。
(2025/1/9 05:00)
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