「平凡でいい…」。新年を祝うおとそを手に、または届いた年賀状を眺めつつ、胸に浮かんだ願いは、こんな言葉だ。いつもの抱負に比べると威勢がなくて夢もない。なんだか物足りない

▼でも昨今の殺伐とした世相を思うと、ありきたりでも平穏で平安な日々のありがたさが身に染みる。例年1月には、人類滅亡までの時間を象徴的に示す「終末時計」の数字が発表される。昨年は過去最短の90秒だった。ことしはどうだろう

▼世界を見渡せば戦火はやまず、飢餓や気候変動も加速する。経済格差と分断も広がるばかりだ。だからこそ、平らかで穏やかな日常の大切さをかみしめなければ。少し偉そうに思ってしまう

▼昨春は賃上げの動きが盛んで、秋には最低賃金も引き上げられた。なのに物価高騰がその朗報を吹き飛ばし、庶民の生活は厳しくなるばかりだ。昨年末、フランスの調査会社が発表した「2025年予測リポート」が興味深い

▼「来年は一層良い年になる」と楽観している人の割合は、対象となった33カ国の平均が7割強。そんな中で日本は4割にも満たなかった。8年連続で最低だった。私たちの悲観主義的傾向は、かなり重症のようだ

▼キリスト教シスターの渡辺和子さんは随筆「平凡を非凡に生きる」で、配膳や草取りの単純作業も食べる人や伸びゆく命に思いを重ね、幸せを祈ることが大切だと説いた。「平凡な行いを、意味あるものに変える」。それこそが人間の尊さという。新年に凡人の胸に響いた言葉である。

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