最新記事

フィリピン

中国と戦争も辞さない、比ドゥテルテ政権が南シナ海問題で牽制

2018年5月31日(木)17時18分
ソフィア・ロット・ペルシオ

「強い指導者」で人気のドゥテルテ大統領(写真中央)だけに Dondi Tawatao-REUTERS

<これまで中国寄りだったフィリピンのドゥテルテ政権が、南シナ海問題をめぐって対中強硬発言を連発している。国内で弱腰批判が強まっているのか>

フィリピンのロドリゴ・ドゥデルテ大統領の側近2人が相次いで、南シナ海で中国と戦争をする可能性がある、と発言した。中国は南シナ海の実効支配を強めるために7つの人工島を建設し、軍事拠点化している。

フィリピンのヘルモヘネス・エスペロン大統領顧問(安全保障担当)は、フィリピンは外交努力による緊張緩和を常に目指すたが、フィリピン軍が挑発や攻撃を受ける事態になれば戦争も辞さない、と発言した。「ドゥテルテ大統領は先日、(中国が)自国の軍隊を攻撃すればそれがレッドライン(越えてはならない一線)になるだろう、と言った」、とエスペロンが5月30日に記者団に語った。ロイター通信が伝えた。

中国本土から約800キロ離れた南シナ海の南沙(スプラトリー)諸島は、100以上の島や環礁などから成り、中国軍がさまざまな部隊を出しているほか、同じく領有権を主張する台湾、ベトナム、マレーシア、フィリピンも滑走路や港を建設し、ブルネイも自国の排他的経済水域(EEZ)に重なると主張している。

しかし、中国の力は圧倒的だ。最近も、「南シナ海での戦闘」を想定した軍事演習で、核搭載可能なH6K爆撃機を人工島や環礁に離着陸させたばかり。ベトナム政府は正式に抗議したが、ドゥテルテはほぼ沈黙しており、反対派や左派団体からは批判を浴びている。

何もしなかったドゥテルテ

エスペロンの発言には、「強い指導者」ドゥテルテが実は中国には弱いのではないか、との見方を払拭する狙いがありそうだ。「今から戦争をするというわけではない。だがもし相手が圧力をかけてくれば対抗するしかない。圧力には屈しない」と、エスペロンはAFP通信に語った。

その数日前には、フィリピンのアラン・ピーター・カエタノ外相が、南シナ海の豊かな漁業資源や石油・天然ガス資源をめぐって戦争が起こる可能性を示唆した。「もし誰かが南シナ海の天然資源に手を出したら、ドゥテルテ大統領は戦うだろう。戦争は『起こるべくして起こる』と大統領は言っている」、とカエタノは5月28日にフィリピン外務省で行った演説で語ったと、米CNNが伝えた。

一方、フィリピンの野党議員で元海軍大佐のゲイリー・アレハノは5月30日、南シナ海に関する議会下院の公聴会で、中国の威嚇に対してドゥテルテ政権が無為無策過ぎると非難した。5月11日に中国の軍艦から飛び立ったヘリコプターが、航行中のフィリピン海軍の艦船に「異常接近」を行ったという。

ヘリコプターの風圧で「フィリピン海軍のゴムボートに水しぶきがかかるほどだった」、とアレハノはその接近ぶりを説明。国民にこうした事例をもっと公開すると同時に、中国政府にも抗議するよう要求した。

南シナ海の領有権をめぐっては、フィリピンの前政権が国際仲裁裁判所に訴えを起こし、2016年7月に中国の領有権を退ける画期的な判決を得た。だがドゥテルテは、投資や貿易、インフラの分野で中国との関係強化を優先してきた。

(翻訳:河原里香)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国最大の航空機事故、胴体着陸後に激突炎上 死者1

ワールド

米国に「最強硬対応戦略」、北朝鮮が決定 日米韓は核

ワールド

アングル:移民取り締まり強化は「好機」、トランプ氏

ビジネス

アングル:高い酒が売れない、欧米酒造メーカーのほろ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2025
特集:ISSUES 2025
2024年12月31日/2025年1月 7日号(12/24発売)

トランプ2.0/中東&ウクライナ戦争/米経済/中国経済/AI......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    生活保護はホームレスを幸せにするか、それを望んでいるのか...福祉国家・日本の現実
  • 2
    「弾薬庫で火災と爆発」ロシア最大の軍事演習場を複数ドローンで攻撃...「大きな被害」示す映像も?
  • 3
    イースター島で見つかった1億6500万年前の「タイムカプセル」...理科で習った「定説」が覆る可能性も
  • 4
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
  • 5
    スターバックスのレシートが示す現実...たった3年で…
  • 6
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 7
    流石にこれは「非常識」?...夜間フライト中に乗客が…
  • 8
    アメリカ生活での驚き12選...留学生のカルチャーショ…
  • 9
    カヤックの下にうごめく「謎の影」...釣り人を恐怖に…
  • 10
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 1
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 2
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊」の基地で発生した大爆発を捉えた映像にSNSでは憶測も
  • 3
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3個分の軍艦島での「荒くれた心身を癒す」スナックに遊郭も
  • 4
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
  • 5
    ウクライナの逆襲!国境から1000キロ以上離れたロシ…
  • 6
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 7
    9割が生活保護...日雇い労働者の街ではなくなった山…
  • 8
    ヨルダン皇太子一家の「グリーティングカード流出」…
  • 9
    なぜ「大腸がん」が若年層で増加しているのか...「健…
  • 10
    わが子の亡骸を17日間離さなかったシャチに新しい赤…
  • 1
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 2
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊」の基地で発生した大爆発を捉えた映像にSNSでは憶測も
  • 3
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 4
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼ…
  • 5
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達し…
  • 8
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 9
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 10
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中