フェンスを通り抜ける「ゴースト・カー」

伝説

2006年、アメリカ・ジョージア州の深夜の一般道を、一台の不審車が猛スピードで走行していた。その後ろでは、警察のパトカーがサイレンをけたたましく鳴らしながら必死に追跡を試みている。

そのときの映像が下記の動画だ。

NYPD Ghost car chase

前を走る逃走車は蛇行を繰り返したのち、突然、急ハンドルをきったかと思うと、反対方向に逃走。パトカーも逃げられまいと、Uターンをして追いかける。

ところが、このパトカーが前を見失ったわずか数秒の間に、逃走車はありえない加速を見せる。同じ方向を向き直った頃には、まるで瞬間移動でもしたかのように、はるか前方を走行していた。実に奇妙である。

それでもパトカーは必死に追いつくと、再三にわたり停止命令を出すが、逃走車は言うことをきかない。そんな命令を嘲笑うかのように蛇行を繰り返す。

そして逃走車が車道から脇にそれて曲がり、パトカーがそのあとを追ってハンドルをきった次の瞬間だ。そこには信じられない光景が待っていた。パトカーの前にフェンスが立ちふさがり、その先を逃走車が疾走していたのである。

逃走車は一体どうやって、金属のフェンスを通り抜けたのだろうか?
その前に見せた超常的な加速といい、明らかに普通ではない。もしかしたらパトカーが追いかけていた車は、霊が乗り移ったゴースト・カーだったのかもしれない。(以下、謎解きに続く)

謎解き

フェンスを通り抜けるゴースト・カーは、数年前に最初の動画が公開されると、その奇妙さから大きな話題を呼び、再生回数が500万回を超える有名動画になった。

車載カメラの映像がそのままではアップできなかったため、モニターで再生しながら撮影したものがアップされている。

怪奇動画が好きな方なら一度はご覧になったことがあるかもしれない。映像の真偽についてもいろいろな説が飛び交い、【伝説】で紹介したような幽霊説をはじめ、時空のゆがみ説、フェンスの向こうに車がもう一台あった説、CGによるフェイク説などもあった。

ともあれ、もとの映像については、現場がジョージア州サバンナであることが明らかになっている。また、パトカーに乗って運転していた人物は地元のブルーミングデール警察に務めるウェイン・ダニエルズで、彼は車載カメラの映像が本物であることを認めている。

説明するダニエルズ

実際に同じ道を走りながら当時の状況を説明するダニエルズ(右)。
「Fact or Faked: Paranormal Files」より。

そのため映像がフェイクである可能性は低い。おそらくあの映像に映っているようなことは実際に起こったのだと考えられる。そうなると次は、それが超常現象を仮定しなければ説明がつかないことなのか、という点に移る。

同じように車を走らせて検証を行ってみたら、別の方法が見つかるのだろうか。幸い、サイファイ・テレビの「Fact or Faked: Paranormal Files」(真実か嘘か:超常現象ファイル)という検証番組にて、このゴースト・カーの検証が行われた。今回はその内容を参考にしながら、真相を紹介してみたい。

超加速の検証

番組では、まず逃走車がUターン後に見せた超加速の検証が行われた。プロのドライバーが元映像と同じタイプの車を同じように運転し、後ろから追跡するパトカーをどれだけ離せるか検証を行ったのである。

現場は警察の全面協力のもと、道路が封鎖され、警察官が運転するパトカーも準備された。そしていよいよ検証開始。実験用の逃走車は、もとの映像と同じように蛇行しながら加速していくと突然急ハンドルをきる。

追跡役のパトカーも振り切られまいとUターンして追いかけようとするが、もとの映像と同じように数秒間は逃走役の車を見失った。そしてようやくターゲットを見つけたときには、逃走役の車ははるか前方を走っていた。下は比較画像。

各映像

実験映像(左)と元映像(右)。「Fact or Faked: Paranormal Files」より。

元映像の状況と違い、追跡役の警察官は、前を走る逃走役の車が急ハンドルをきることはあらかじめ知っていたが、それでも同じように数秒間見失い、前方との距離を大きく離された。

そのため実際の逃走車の運転手がプロのドライバーでなかったとしても、不意を突けば、同様に警察の車を一時的に振り切ることは可能だったと考えられる。

フェンスの謎の検証

続いては、最も奇妙なフェンスを通り抜けた謎の検証。この検証にあたっては、当時、現場のフェンスを確認していたウェイン・ダニエルズの証言が重要になってくる。

ダニエルズによれば、フェンスに穴のようなものはなかったが、金網を支柱に固定する一部の留め具が外れていたという。また金網は支柱の手前側ではなく、後ろ側に張られていたという。

そうであれば推測される可能性はひとつ。車は金網を暖簾(のれん)のように、めくるようにして通り抜けた可能性だ。

しかし、そんなことが本当に可能なのだろうか? 番組ではこの説の妥当性を調べるべく、現場にあったフェンスと同様のものを用意し、検証を試みた。

すると最初の実験では、逃走役の車がフェンスを通り抜けると、金網が外れて全部落ちてしまった。留め具を外しすぎたのだという。そこで2回目の実験では、留め具を外しすぎないように注意し、再度、フェンスを通り抜ける実験が行われた。

その結果が下記の画像である。

通過するところ

通過直後

「Fact or Faked: Paranormal Files」より

金網は落下することなく、車は、まるで暖簾をくぐり抜けるかのように、フェンスを通り抜けることに成功した。フェンスの揺れも数秒でおさまり、元映像のようにパトカーが追いついたときには元の状態に戻っていたであろうことも確認された。

この検証結果と当時の状況や証言を総合すれば、逃走車は留め具の外れた金網をめくるように通過したという可能性が高い。

おそらく逃走車は当時、目の前に現れたフェンスを突き破るつもりで突っ込んでいったのではないだろうか。ところが偶然にも留め具の一部は外れており、金網は支柱の後ろ側に張ってあったため、まるで暖簾のようにフェンスを壊すことなく通り抜けることができてしまったと考えられる。

当時は深夜で、現場付近に街灯はなかった。逃走車が脇にそれて視界から数秒間消えれば、フェンスの通り抜けは見ることができなかったはずだ。パトカーが目の前に現れたフェンスの前で追跡を諦めざるをえなくなったのも無理はない。

このようにゴースト・カーとは、いくつかの偶然が組み合わさることによって奇跡的に生まれたものだったようである。

【参考資料】

  • 「NYPD Ghost car chase」(http://www.youtube.com/watch?v=G6UHLd_zxuo)
  • 「真実か嘘か:超常現象ファイル」(Universal Channel, 2010)
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