今年で第29回目の開催となった、世界最大規模のチョコレートの祭典「サロン・デュ・ショコラ パリ」。本記事では、2024年に開催されたサロン・デュ・ショコラ パリ2024の様子をレポートします。
サロン・デュ・ショコラ パリ 2024とは?
サロン・デュ・ショコラ パリ 2024について、まずは概要をご紹介しましょう。
サロン・デュ・ショコラ パリ 2024の概要
毎年10月末ごろに5日間開催される、世界最大規模のチョコレートの祭典「サロン・デュ・ショコラ パリ」。今年は2024年10月30日~11月3日まで、例年通りパリ15区のポルト・ド・ヴェルサイユ(Porte de Versailles)駅近くにある見本市会場で行われました。
世界各国からショコラティエやパティスリー(菓子店)、ブーランジェリー(パン屋)、BEAN to BARブランドやカカオ生産者などが参加するこのイベント。会場の広さは約2万㎡、1階・2階の2フロア構成となっていて、200前後のブースが並びます。また、トークショーやファッションショーが行われるメインステージ、セミナー会場、コンクールが開催されるコーナー、B to B(業務用)のコーナーなどもあります。
来場者の多くは一般のチョコレートファンで、チケットを購入すれば誰でも入ることができます。
サロン・デュ・ショコラ パリの入場料は大人が16ユーロ(約2600円)、子どもが8ユーロ(約1300円)です。数年前からファミリーパックのチケットなども設けられました(大人、子ども各2人、計4人で42ユーロ、約6840円)。
また、会期前日の夜には前夜祭が行われ、ひと足先にブースを回って商品を購入したり、ファッションショーなどを観たりすることができます。
家族連れ、シニアのグループ、日本からの観光客と見られる人もいますし、また、ジャーナリストやチョコレート・菓子関係の仕事をする人々も来場します。
日本のサロン・デュ・ショコラとの違いは?
日本でもサロン・デュ・ショコラという同じ名称でチョコレートのイベントが行われています。略して「サロショ」「SDC」などと呼ばれています。東京や札幌、京都など各地の百貨店催事場で実施されているため、日本のバレンタインイベントと思う方もいるかもしれませんが、実はパリが発祥地。1995年、ショコラに情熱を傾ける2人の実業家がスタートさせました。
パリと日本のサロン・デュ・ショコラの違いはいくつかあり、会場の規模感と展示内容にも差があります。パリは約2万㎡という広さで、ブースでの買い物以外にもステージプログラムやセミナー、コンテストなどいろいろな催しや、ブッシュドノエルやアドベントカレンダーを飾ったコーナーなどもあります。また、会場でひときわ目を引くチョコレートのオブジェも毎年の楽しみとなっています。
さらに出展者の顔ぶれも違いがあります。
日本のサロン・デュ・ショコラでは、国内のショコラティエやチョコレートメーカー、BEAN to BARブランドに、フランスやベルギーなど外国のブランドが加わる形でブースを展開、比較的高級ブランドが多い傾向です。
量り売りなどカジュアルなチョコレートを多く見かけるパリの会場とは雰囲気が異なります。また、パリのサロン・デュ・ショコラでは、アフリカや中南米、アジアなど世界各地のカカオ生産国が出展しているのも特徴です。
来場者の様子
今年のサロン・デュ・ショコラ パリは、初日が平日だったためかあまり混雑なくスムースに入場でき、比較的落ち着いたスタートのように感じましたが、週末になると入場者の列ができていました。
小さな子供を連れた家族や、おじいちゃんおばあちゃんのグループも多く見かけ、みな笑顔で思い思いにチョコレートを試食したり、嬉しそうに商品を買ったりする姿を目にしました。
セミナーが行われる会場や、様々なプログラムが行われるメインステージにも多くの人が着席。パティシエやショコラティエのトークショーでは、挙手をして質問する人が続くなど熱心な様子が見られました。
大人気のファッションショーでは、目を輝かせて楽しそうに観覧する子どももいて、老若男女問わずチョコレートのイベントを楽しんでいる雰囲気が随所で感じられました。
今年のサロン・デュ・ショコラ パリ
毎年定番のブースもあれば、新たに出会うブランドもあり、少しずつその顔ぶれが変化してきているサロン・デュ・ショコラ パリ。このイベントならではの展示や、2024年の会場で気になった傾向をいくつか紹介します。
①会場で目を引くチョコレートのアート
毎年、サロン・デュ・ショコラ パリの会場に飾られているのがチョコレートでできた作品。
2階の入口から入って少し進むと、サウジアラビアのブース近くに大きなチョコレートのアートが飾られていました。
今年はなんと、ラクダのオブジェです。サウジアラビアのデザイナーBUDOUR AL AQIDI氏がデザインし、フランスのショコラティエJEAN-LUC DECLUZEAU氏が制作したもの。チョコレート230㎏を使用し、230時間かけて作ったとのことです。近くで写真を撮ることもできます。
②サロン・デュ・ショコラ パリ 出展者の顔ぶれ~今年はどんなブース?~
1階から入ると、すぐ左手に子ども用のスペース「PASTRY SHOW JUNIOR」があります。ここでは子どもたちがワークショップに参加するなど楽しそうに作業する様子が見られました。
右手は「LE VILLAGE B TO B」の区画で、チョコレート製造に関わる機械などが陳列された業務用コーナーです。
1階にはペルー、ブラジル、ガーナ、エクアドル、ハイチなどカカオ生産国や、BEAN to BARのブースが並び、出展数は40弱ありました。その国のカカオを使った板チョコレートはもちろん、カカオ、チョコレート以外の食材を陳列するブースもあり、生産者の人たちと直接話をしながら試食をすることができます。
2階には、ショコラティエやパティスリー、BEAN to BARブランド、ブーランジェリーなどのほか、パートドフリュイやヌガー、エッグタルトなどその他の菓子を扱う店、スパイスのお店やお酒を提供するバーなど様々な種類のブースが160ほど出展していました。
チョコレートに関しては、フランス国内を中心にベルギー、スイスなど近隣諸国からの参加が多い印象でしたが、日本のブランドも10社ほど(※フランスに店舗を構える日本人ショコラティエも含めて)出展していました。
出展者に聞いたところ、柚子や日本茶など日本の食材を使ったチョコレートを買い求める方も多く、手応えを感じているといった声が聞かれました。
また、サウジアラビアを紹介するブースのほか中東の菓子を販売するブースもいくつかあり、まさに世界の菓子が一同に集まるイベントだと感じました。
③カジュアルな量り売りチョコレート
今年、会場内で多く目にしたのは量り売りのチョコレート店。高級ショコラティエは減少傾向ですが、その代わりに増えているのが大きな板チョコレートや、スコップですくって好きな量を変えるトリュフやオランジェット、ナッツ系のチョコレートなどを扱うお店です。
自分が好きな量を好きなだけ買える量り売りのお店では、店員さんと会話しながら楽しそうに買い物をする来場者を見かけました。
いちごをチョコレートでコーティングしたものや、ギモーヴ(マシュマロ)が中に入ったチョコレートなど、カジュアルに楽しめる商品が山積みになった店頭には、小さな回転釜を設置してその場でナッツをキャラメリゼしているお店もあり、思わず足をとめるお客様も見られました。
④いろいろなお菓子を楽しむ
今年のサロン・デュ・ショコラ パリの傾向として顕著なのは、チョコレートだけでなくお菓子を楽しむイベントに変化しつつあること。
チョコレートを使った菓子はもちろんのこと、その他の菓子類を扱うブースが多くありました。
写真映えするような見た目のケーキや、焼き菓子、ヴィエノワズリー、その他のコンフィズリーからリンゴ飴まで、会場を一周すれば様々なお菓子を楽しむことができるのです。
意外なところでは、日本のあめ細工をモチーフにしたロリポップを扱うフランス人シェフのブースがあり、ガラス細工のような商品を興味深く見ている来場者で混雑していました。
⑤ライブ感が楽しいステージプログラム
今回、特に来場者の熱気を感じたのが、2階メインステージで行われるプログラムでした。
ここでは、チョコレートドレスのファッションショー、パティシエやショコラティエのトークショーなどが行われます。
チョコレートドレスのファッションショーは、毎回多くの人がステージ周辺に集まり、少し出遅れるとステージに近づくことができないほどの混雑ぶり。その人気が窺えました。
デザイナーが描くドレスをショコラティエが仕上げ、モデルが着用して軽快な音楽と共にステージに登場。今年は14の作品がランウェイを華やかに彩りました。最後にはそれぞれの作品を手掛けたデザイナーやショコラティエも登壇し、観客からは大きな拍手が送られました。
食べるだけではなく、アート作品としてのチョコレートを楽しめるのも、パリのサロン・デュ・ショコラの魅力だと改めて感じました。
⑥毎年注目、CCCの結果
サロン・デュ・ショコラ パリのメインステージでは、ショコラ愛好家のクラブ「CCC※」の授賞式も行われました。
※「チョコレートをかじる人たちのクラブ」という意味のフランス語「Club des Croqueurs de Chocolat(クラブ デ クロクール ド ショコラ)の頭文字を取ってCCC(フランス語でセーセーセー、英語でシーシーシーと呼ばれます。)
「CCC」はショコラティエやチョコレートメーカーが応募するショコラの品評会で、毎年、金・銀・銅など各賞を受賞したブランドをガイドブックで紹介しています。ボンボンショコラ部門のほか、タブレット(板チョコレート)部門もあります。
今回、(株)明治はタブレット(板チョコレート)部門において、「メキシコホワイトカカオ70%」と「カカオボーテ」がゴールドタブレットとCoup de cœur(審査員のお気に入り賞のようなもの)を獲得することができました。ゴールドタブレットは、金色の板チョコレートのロゴが受賞の目印となります。
サロン・デュ・ショコラ パリのステージ上で発表・表彰されるのは、「CCC」でAward(アワード:特別賞のようなもの)を受賞したブランドのみですが、会場内で購入できるガイドブックには多数のブランドが紹介されていますので、こちらを片手に会場でそのブランドを探すというのもひとつの楽しみ方です。
まとめ
広い会場に計200前後のブースが並ぶサロン・デュ・ショコラ パリ。
チョコレートを美しく見せるアートとしての側面や、カカオ生産者との交流、コンクールを通じてプロとアマチュアが交わるなど、単に商品を買うだけではない、奥行を感じるイベントだと思いました。
また、筆者は2008年から毎年サロン・デュ・ショコラ パリを取材していますが、お気に入りのブランドのショコラを1粒から購入できる点は変わらないものの、総合的なチョコレート&菓子のイベントに変化しつつあると感じました。
世界のチョコレートや菓子が一同に集まる祭典として、楽しみ方がより多彩に広がっているようです。
撮影・テキスト:平田早苗
管理栄養士、スイーツプランナー、ショコラコンシェルジュ®
大学卒業後、洋菓子関連の会社に入社し販売や商品開発に携わる。その後2007年に独立、様々な商品企画開発や店舗改善、経営のアドバイスなど、スイーツやチョコレートのコンサルタントとして幅広く活動。2008年以降、毎年サロン・デュ・ショコラ・パリの視察や、世界各国のスイーツ、チョコレート市場の調査を行う。
ウイスキーとチョコレートが好きで、カルチャースクール等でショコラとウイスキーのマリアージュセミナーを多数実施。ウイスキー専門誌「ウイスキーガロア」のテイスターを務めるほか、日本で初となるスピリッツのコンペティションTWSC(東京ウイスキー&スピリッツコンペティション)の審査員も務める。