マイナンバーカードのメリットのひとつとして総務省が掲げる、コンビニでの各種証明書の取得。しかし今年3月以降、別人の証明書が発行されるトラブルが相次ぎ、サービスが一時停止に追い込まれる事態となってしまいました。何がこのような問題を引き起こしてしまったのでしょうか。今回のメルマガ『週刊 Life is beautiful』ではWindows95を設計した日本人として知られる中島聡さんが、「コンビニ交付システム」の開発運営を典型的なITゼネコンの手に委ねた事が主因と断言。さらに同様の問題を回避するため国が取るべき「ソフトウェア調達法」の具体案を提示しています。
プロフィール:中島聡(なかじま・さとし)
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。
ITゼネコンを排除。「コンビニ交付システム」と同じ失敗の回避法
デジタル庁の「コンビニ交付システム」がさまざまな問題を起こしていることに関して、河野デジ相がビデオメッセージで謝罪した上で、開発したのは「富士通Japan」であり、問題が解決するまでの間すぐにサービスを停止するように指示を出したと語りました(「試練続く富士通Japan、コンビニ誤交付トラブル巡り河野デジ相からは『強い叱責』」)。
富士通は私が常に批判している典型的なITゼネコンです。理系の大学や大学院を卒業した、いわゆる「理系エリート」を採用しながら、彼らには仕様書の作成と工程管理のみ行わせ、実際のコーディングは下請けや孫請けに丸投げする、という日本特有のゼネコン・スタイルでソフトウェアを作る会社です。
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こんな風に、設計とコーディングを分断した開発では良いものを作れないことをこれまで何度も指摘して来ました。どんなに優秀なソフトウェア・エンジニアでも、実際にコードを書かずに良い設計をすることは不可能で、コードを書きながら設計を変更し、徐々に良いものに仕上げていくプロセスが必須です。
しかし、ITゼネコンのように、設計は上流で、コーディングは下流で、というスタイルの開発だと、その効率が著しく落ちる上に、
- コードを十分に書いた経験が少ないエンジニアが机の上で設計することになる
- 上下関係があるゆえに設計を批判しにくい
- 人月工数で仕事をしているため、効率良くクオリティの高い仕事をするメリットがない
- 孫請け会社が、派遣社員を雇って頭数を揃えるようなことが堂々と行われる
などの弊害があり、良いものは作れないし、人も育ちません。
それでもこのビジネスが成り立ってしまうのは、高度成長期にIBMと対抗するために国策として育てて来たIT産業(=今のITゼネコン)と官僚組織との強い結びつき(信頼関係+天下りなどによる癒着)があり、景気対策の意味も含めた政府による「IT投資」の大半が、ITゼネコンに流れ込むようになっているからです。
とは言え、良い仕事が行われている部分が皆無なわけではありません。「デジタル庁のサイトやばすぎるwww」という記事には、デジタル庁のウェブサイトがモダンな技術とデザインでしっかりと作られていることを指摘しており、必ずしも100%の税金が無駄に使われているわけではないことが分かります。
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