LNEWSは、物流・ロジスティクス・SCM分野の最新ニュースを発信しています。





連載 物流の読解術 第22回:効率化をめぐるパラダイムシフト -物流の効率化を考える(1)-

2025年01月15日/コラム

20250110 column icatch 710x399 - 連載 物流の読解術 第22回:効率化をめぐるパラダイムシフト -物流の効率化を考える(1)-

いままでの「効率化」(荷主と物流事業者の、個別の効率化)

ロジスティクスは、「必要な商品や物資を、適切な時間と・場所に・価格で・品質と量を、少ない費用で無駄なく効率的に供給すること」を目標としている。そして物流は、この目標を輸送や保管などの面から支えていく役割がある。

しかし、ロジスティクスの目標を「荷主(発着荷主)の効率化」と捉えてしまうと、「物流事業者に犠牲を強いること」もある。

たとえば、生産現場や流通現場の効率性を考えて、荷主は「適切な時間」に商品や物資を届けてもらうため、厳密な時刻指定をすることがある。しかし、この時刻指定を守るために交通渋滞を見込んで早めに出発して、到着先で指定時刻まで待機することになれば、物流事業者にとって待機時間は非効率ということになる。

また、物流事業者の効率化という点では、「トラック満載の貨物量」での注文が望ましいが、これが荷主にとっての「最適な発注量」になるとは限らない。だからこそ、荷主(発注者)は、在庫や販売の状況にもとづき自らの効率化を優先して「最適な発注量」を設定することになる。

このように考えてみると、いままでの効率化は、「荷主の効率化」も「物流事業者の効率化」もあった。しかし、どちらかと言えば「荷主の効率化が優先されてきた」と考えてもよいだろう。

2024年問題と「効率化をめぐるパラダイムシフト」

物流における人手不足が顕在化するまでは、物流の供給量(トラック、運転手など)が物流の需要量(輸送量、保管量など)を上回っていたため、「物流需要量<物流供給量」だった。この結果「荷主の効率化」が優先されて、「物流事業者の非効率化」には目をつぶって、小口多頻度配送や宅配便の当日配送などの高度なサービスにも応じることができた。ときには、「販売したから、あとは物流を頼む」というような無理難題であっても、物流事業者が都合をつけながら対応してきた。

しかし、物流の需要量(輸送量、輸送回数、輸送頻度など)が増加する一方で、物流の供給量(運転手、車両など)が減少することにより、「物流需要量>物流供給量」へと逆転しつつある。こうなると従来とは異なって、「販売しても、商品が届けられない」、「物流が確保できないために、販売できない」、「輸送手段を確保しないと、販売することができない」という事態も起きることだろう。

すでに一部では、車両や運転手不足により年末年始の遅配や、年度末の引越しの混乱が起きている。近い将来、通常月の月末や週末などにも混乱が拡大していく可能性さえある。このような人手不足と労働時間規制の強化により、「従来の物流を維持できない」ということで、「物流の2024年問題」が起きた。この問題は、年々深刻になっていくことだろう(連載第10回第11回、図、参照)。

この結果「物流の効率化」も、従来の「荷主(需要者)優先の効率化」ではなく、かといって「物流事業者(供給者)優先の効率化」でもなく、荷主と物流事業者の間での「物流の需給バランスを維持する効率化」へと転換しなければならないことになる。

これこそが、「効率化のパラダイムシフト」である。

これからの「効率化」(需給バランスを維持する効率化)

パラダイムシフトにより、これからの「効率化」が「需給バランスを維持する効率化」に転換していくとすれば、荷主と物流事業者の、立場や見方の違いを認識する必要があるだろう。特に、「荷主の効率化」と「物流事業者の効率化」が相反する場合には、需給バランスを維持するために、「時間、場所、価格、品質、量などのうち、『何を重視し、何をどこまで我慢するか』」という課題に直面することになるに違いない。

たとえば、荷主に便利な物流サービス(例、時刻指定)が、物流事業者にとっては非効率(時間調整、待機時間、積載率の低下など)を引き起こすこともあるので、需給バランスを考慮して「積載率の向上のために、厳密な時刻指定を少し緩める」というような選択を迫られることもあるだろう。すでに現実には、リードタイムの延長、郵便物の翌々日配達などが始まっている。

この「需給バランスを維持する効率化」は、荷主の無理難題を回避するという意味で、下請け法や企業のコンプライアンス(法令順守)の点からも重要である。

<図 これからの「物流の効率化」>
20250114 column02 710x257 - 連載 物流の読解術 第22回:効率化をめぐるパラダイムシフト -物流の効率化を考える(1)-

多様な視点で取り組みたい「新たな効率化」

効率化対策というと万能薬のように感じてしまい、無条件に受け入れがちだが、実は「効率化」には多様な側面があり、トレードオフもあれば、光と影もある。そのため、これらの特徴を踏まえて、「需給バランスを維持する効率化」を実現してほしいと願っている。

次回(第23回)からは、需給バランスを目指すために、効率化の多様な面を考えてみたい。

連載 物流の読解術 第21回:共同化のための検討項目 -物流共同化を考える(9)-

関連記事

コラムに関する最新ニュース

最新ニュース