「スーパーセル」がフィンランドで設立されたのは2010年。モバイルゲームで成功を収め、日本にも多くのファンを持つ同社は、10億米ドルの価値を持つヨーロッパ初の“デカコーン”企業(※)としても知られています。
もっとも幸せな国として知られる一方で、つぎつぎとスタートアップを生み、成長させているフィンランド。「スーパーセル」のチームビルディング術からそのヒントを見つけられそうです。
創業時はたった6人、わずか35平米のスペースでスタートした同社は、モバイルゲームの成功をきっかけに、世界中に650人以上の従業員を抱える大企業に成長。ヘルシンキ、上海、ソウル、サンフランシスコに拠点を持ち、多様な人材が活躍しています。
社内のチームに共通するモットーは「最高のチームが最高のゲームを創造するための最適な場所をつくる」ということ。そして「常にゲームプレイヤーを第一に考えること」。
「スーパーセル」急成長のきっかけになった農業シミュレーションゲーム「Hay Day」担当者のトークセッションから、ファンの期待に応えるゲーム制作に必要なチームビルディングと戦略を伝えます。
※デカコーンとは:企業価値が100億ドル以上の未上場のスタートアップ企業のこと
10年以上にわたり愛される人気ゲーム「Hay Day」
2012年のリリース以降、ファンに愛され続けるゲーム「Hay Day」。プロジェクトをリードするのはゲームデザイナーのカミラさんです。Hay Dayのチームは小規模な開発グループから専門性の高い組織へと進化、10年間で組織の規模・構造ともに大きく変化しました。
当初15〜20人だったチームは、今や40〜50人規模に成長し、専門的な役割分担が行なわれるようになりました。「最初のころは誰もが何でもやる! っていう感じだった」そうですが、アーティストとUI/UXデザイナーの分離、ライブオペレーションマネジャーの導入、エコノミーマネジャーの設置など、各分野のスペシャリストを配置することで、より高度な開発体制を構築しています。
最高のゲームをつくる最高のチームのためのいくつかの仕組み
現在は「最高のチームで最高のゲームをつくっている」と誰もが胸を張りますが、当初は「才能に恵まれた数人のスーパースターが最高のゲームを作る状態」だったとか。
しかしカミラさんは「一部のスーパースターだけが重要というチームではなく、すべての人が全体の重要な一部になる必要があります。大切なのはお互いに協力しあいうまく働くこと、チームのほかの全員に対して平等に貢献することです」と話します。
新しいものをつくるときは、多様性でアイデアを「スパーク」させる
新しいゲーム開発が決まったら「Spark」と呼ばれるプロジェクトを発足させます。これはチームの内外から人材を集め、自由なアイデア交換を経て製品を具体化するというもの。多様な人材によるブレインストーミングと対話で、まだ見ぬアイデアや誰も思いつかない素晴らしいインスピレーションにたどり着くというわけです。
ここで出たアイデアをもとに、ベータ版やソフトローンチを経て、最終的なリリースの可否を決定します。
フィードバックを得る仕組みがある
また、コミュニティマネジャーを中心に、ゲームプレイヤーからのフィードバックを収集するシステムを確立していることも、スーパーセルのチームの大きな強みです。RedditやDiscord、Instagram、Facebook、TikTokなどさまざまなプラットフォームからプレイヤーの声を集め、分析し、開発に生かしています。
「単なる意見収集のレベルを超えて、プレイヤーの感情の変化を数値化し、開発チームに共有する仕組みを構築している」のだとか。
ゲームのアイデンティティを重視
カミラさんは人気ゲームを運営する秘訣として「コア目標と一貫したアイデンティティを持つこと」の重要性を強調します。
「私の個人的な経験から言えることは、大切なのは、製品を通じて目指しているものを理解し、自分がつくりたいものの核心を把握しておくことです。というのも、物事がうまくいかないときには、市場が求めていると思う方向に簡単にシフトしてしまうから」
また、「常に方向を変えることで、自分のやっていることが成功するかどうかわからない場合、結局、アイデンティティのない混乱に終わってしまう」と言います。「自分の信念を貫くことで成功するとは言いませんが、途中で自分のアイデンティティを失ってしまうと、はるかに難しくなってしまう」。
「多くの失敗するゲームは、実際にそのトレンドを理解しようとせずにただトレンドを追ってしまうことが問題だと思うんです。まずはこのゲームによって何を成そうとしているのかを理解し、アイデンティティを維持することが重要です。アイデンティティを維持しながらも、常に新鮮な体験をプレイヤーに提供することが大切で、そのことを常に自分に問いかけています」
アイデアの源は「インプットと対話」
あなたのアイデアの源は? という問いかけには「すべてがインスピレーションですよね。私は映画も好きですし、読書もします。行なうすべてのことがインスピレーションですが、私自身は過去30年間に無限のゲームをプレイしてきたことが、アイデア同士の“つながり”をつくるのに本当に役立っています」とカミラさん。
「ゲームをつくるための多くの創造性は、これらのアイデアの“つながり”から生まれます。しかし、それに加えて特に私が好きなのは、チームとの対話です。
デザイナー以外の人と話すと、彼らの知識と独創性に気づきます。他者とブレインストーミングをしたり、会話することでの気づきは大変大きなものです。また、私はしばしば自分のアイデアをほかの人に説明をすることで、自分の考えそれ自体を深く理解することができます。
ゲームデザイナーの創造性の源泉は多くの人から集まるアイデアであり、意見を出しあえる環境、フィードバックにあるのです」
経営陣ではなくゲームをつくるチームが決定権を持つボトムアップ構造
興味深いのはスーパーセルのボトムアップのカルチャー。ゲームを制作するゲームチームが、実際にグローバル展開に向けての準備ができているかどうかの判断を行なうのだそう。
クリエイターたちのチームワークを重視するこの組織スタイルが、急成長のヒントだとも言えそうです。
スタートアップイベントSlushでキャッチアップ
同取材期間にヘルシンキで開催されたのが、Slush 2024です。Slushは世界中の起業家や投資家が訪れる国際イベントで、1万人を超える人々が集まるそう。2008年の初開催以降、フィンランドのスタートアップエコシステムを代表するイベントとして成長しています。
スーパーセルに代表されるフィンランドのスタートアップ事情やグローバルなビジネスの動向を追うなら、Slush 2025をチェックしてください。
Slush 2025をチェック!Source: Supercell
Special thanks to Helsinki Partners