敏腕クリエイターやビジネスパーソンに仕事術を学ぶ「HOW I WORK」シリーズ。今回お話を伺ったのは、映画プロデューサーの石井朋彦さんです。

石井朋彦(いしいともひこ)

1977年、東京生まれ。1999年、スタジオジブリに入社。「千と千尋の神隠し」「猫の恩返し」「ハウルの動く城」のプロデューサー補を担当。Production I.G等を経て独立し、今に至る。「スカイ・クロラ The Sky Crawlers」「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊2.0」など、プロデュース作品多数。著書に『自分を捨てる仕事術 鈴木敏夫が教えた「真似」と「整理整頓」のメソッド』(WAVE出版)、『思い出の修理工場』(サンマーク出版)があり、最近は写真家としての活動も本格始動。

27年にわたり映画プロデューサーとして活躍してきた石井さん。さらに、作家や写真家としての顔も持っています。その多才な活動の源泉はどこから生まれているのでしょうか。働き方、学び方、食べ方に至るところからヒントとなるお話を伺いました。

石井朋彦さんの一問一答

氏名:石井朋彦

職業:映画プロデューサー、写真家、著述家

居住地:東京都

現在のコンピュータ:MacBook Air

現在のモバイル:iPhone

現在のノートとペン:モンブラン・マイスターシュテック、無印良品のノート

仕事スタイルを一言でいうと:他者に求められる仕事をする

作品の完成に5年。プロデューサーの仕事とは?

――主業は映画プロデューサーとのことですが、具体的にどのような仕事でしょうか?

一言で説明できない職業なのですが、作品を企画し、お金を集め、スタッフを決め、制作進行し、宣伝してお客さんに届けるまでの、すべてのプロセスに携わる仕事です。

直近で公開された作品は、宮﨑駿監督の作品「君たちはどう生きるか」です。

現在は、アニメーション作品の企画や広告のクリエイティブなどを並行で進行しています。

原作のないオリジナル作品だと、シナリオライターや監督と内容を議論しながらキャラクターや物語をつくりますね。「今この瞬間を生きている人は何を求め、どういう課題を抱えているか」など、テーマを突き詰めて企画を形にするんです。

それから、一緒に作るチームを組みます。

チームの立ち上げメンバーは、資金を出資するテレビ局、配給会社、広告代理店、レコード会社など、製作委員会と呼ばれるチームで組成されることが多いですね。

制作スタッフを集めることも、プロデューサーの大きな仕事です。1作品に関わるスタッフは、多いときで1,000人になります。

――1,000人も!

彼らに仕事を依頼し、スケジュールを組み、作品が完成するまでひっぱっていきます。1本の劇場作品が完成するのに、かつては2、3年だったのが今は5年。

長期のマネジメント能力が問われてきています。大枠ですが、これが映画プロデューサーの仕事です。

写真家としての顔も持つ石井さん
写真家としての顔も持つ石井さん

仕事へと発展した趣味の写真

――映画プロデューサーと並行して写真家の仕事をスタートした経緯は?

「君たちはどう生きるか」の制作中、宮﨑監督の写真を撮っていました。フィルムカメラ以降、久しくカメラに触れていなかったのですが、フルサイズミラーレス一眼の性能に驚き、カメラの世界に目覚め、基礎から学びはじめました。

そんななか、YouTubeチャンネル「2B Channel」を運営する写真家・渡部さとるさんと縁あって知りあったんです。多くのことを教えていただき、今は番組にも出演もさせていただきながら、写真を学んでいます。

やがて撮った写真がさまざまな方の目にとまり、写真展を開催したり雑誌で写真を撮ったり、多様な機会をいただいています。

写真や構図を身近なプロから学ぶ

――ほぼゼロからはじめて、写真家になるまでのスピード感がすごいですね!コツはありますか?

写真をはじめてまだ3年半ですが、多くの方に「そんな短期間のうちに、どうやってプロの写真家になれたのか」と聞かれます。

「2B Channel」の渡部さとるさんとの出会いは大きいです。渡部さんは優れた写真家ですが、写真のおもしろさや撮影技術をわかりやすく教えてくださる。渡部さんと出会わなければ、こんな短期間で写真技術を学べなかったと思います。

もうひとりの師匠は、宮﨑さんです。二十代のころ、宮﨑さんが描いた絵を1枚1枚チェックする制作進行という仕事をしていました。宮﨑さんの絵は、構図や光がすべて、鉛筆で描かれています。

「こういうレイアウトや光が、観る人に感動を与えるんだ…」

そう考えながら毎日を送るうち、宮﨑さんのレイアウトが頭の中に蓄積していました。

撮影するとき、宮﨑さんだったらこういう構図で描くだろう。そうしたフレーミングでシャッターを押しています。

フリーランスになって使える時間は増加。任せるところは任せる

――時間の管理や節約について、なにか留意していますか?

フリーランスになったことで、使える時間はすごく増えました。

会社勤めのときは、仕事以外でやることが意外と多かったのです。それが一切なくなり、仕事量は前に比べて倍ぐらいになっていますが、使える時間はさらに増えているという実感がありますね。

時間のやりくりに関しては、あらためて工夫していることはありません。

経理処理は税理士にお願いし「マネーフォワード クラウド」で、日々の入出金の情報を共有し、仕事に集中できるように任せています。

テレビやYouTubeからも情報を集める

――情報収集は、どのように行なっていますか?

本を読むのが大好きです。テレビや映画も重要なインプットですね。テレビは、「100分de名著」「NHKスペシャル」「BS世界のドキュメンタリー」などを欠かさず観るようにしています。

YouTubeによるインプットも重要です。東浩紀さんのYouTubeチャンネルや、彼が主催する「シラス」というオンラインメディア、宮台真司さんの「ビデオニュース・ドットコム」、小説家・石田衣良さんの「大人の放課後ラジオ」。

いずれも、今この瞬間を的確に語られている貴重な情報ソースです。

フリーランスは組織に所属していない分、積極的にインプットしないとネタが枯れてしまいます。個人だからこそ、多方面の知識を蓄え、的確な話ができるよう準備することはとても重要だと思います。

――どのように知識を蓄積するのでしょうか?

インプットしたことはアウトプットしないと覚えないので、学んだことは必ず打ち合わせや仕事で積極的に言葉として発するようにしています。

いわゆるネットニュースやバラエティ番組はほぼ見ません。みんなが知っていることを知るよりも、みんなが知らないことを知っていたほうがいいと考えています。

一方で人間の汚い部分とかドロドロした部分が垣間見える報道には注目しています。それが、作品制作の参考になることが多いからです。

年に2回人間ドック。野菜や豆類を食生活の中心に据える

――ストレス解消法や健康法として何をしていますか?

フリーランスになって、ストレスは会社員時代の半分に減りました。楽しさとチャレンジと緊張感が三つ巴になって、楽しいことのほうが多いですね。ストレス解消というのは、特に意識していません。

健康管理については、年に2回人間ドックに行きます。

ゲームのような感覚で数値を前年と比較しながら、サプリに頼らず、食生活を改善することで平常な数値に近づくようにしています。

――食生活で気をつけていることは?

食べ物は、野菜や豆など体に負荷がかからないものが中心。会食するときは、その場で食べられるものを楽しんで食べますね。若いころにバックパッカーだったので、何でもおいしく食べられます。

スポーツはヨガ教室に週1〜2回通っています。朝晩ヨガを欠かさなければ、大概の状況には対応できる気がします。心の安定は、体の安定がつくりますね。

睡眠は、眠いときに眠り、起きたいときに起きています。かつては3、4時間の睡眠時間でしたが、40歳を超えてからはまずいと思い、6〜7時間は眠るようにしています。

最近は寝具も進化しているので、趣味感覚で選んで試すのも楽しいですね。

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年に一度は読み直す『モモ』。現代人こそ読むべき傑作
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