2019年に成立した改正労働施策総合推進法、いわゆる「パワハラ防止法」が、2020年6月に施行され、大企業は職場におけるパワーハラスメント対策が義務化されました。(中小企業については2022年3月末までは努力義務、4月から義務化になる)
※参照:厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」
法施行で社内のコンプライアンスが厳しくなり、不慣れなリモート・コミュニケーションもあいまって、上司・部下・同僚との接し方に悩む方は多いと思います。
「自分が若手の頃は、この程度の言動はOKだったぞ」と、過去を懐かしむこともあるでしょう。
ですが、これからの時代の社内コミュニケーションを会得する方がずっと得です。
なぜなら、パワハラ扱いの回避はもとより、あなたへの好感度・信頼度がアップし、部署スタッフのパフォーマンス向上にも直結するから。
ということで今回は、そうした内容を網羅した書籍『よけいなひと言を好かれるセリフに変える言いかえ図鑑』(サンマーク出版)より、ぜひともマスターしておきたい言葉の使い方を一部紹介しましょう。
「これ、なんとかならない?」がまずいワケ
部下に作成してもらった企画書やプレゼン資料。
見ると、細かい部分で何点か改善の余地があると考えます。でも、忙しい時期だし、きちんと指導するのも面倒だなと思って、つい言ってしまう「これ、なんとかならない?」。
「どこが悪いのでしょうか?」と尋ねる部下に、「そんなの自分で考えろよ」と応酬するの繰り返しで、ついには心の病に追い込んでしまった上司も現実にいるそうです。
この言い方の大きな問題点は、漠然とした指示であること。つまり具体的にする必要があるのです。
著者で、日本メンタルアップ支援機構代表理事の大野萌子さんがすすめるふさわしい表現は、「この部分がわかりにくいから変えてほしい」「ここをこのように変更してもらえますか?」となります。
「なんとかならない?」は、何かを頼んだり、急かす時にも使う人がいます。
この場合は、「この仕事、今週中の納品なのでここまで手伝ってもらえませんか?」「この案件は明日までにお願いできますか?」と、期日そして内容を明確に伝えるようにします。
日本人は古くから「阿吽の呼吸」とか「一を聞いて十を知る」など、言語に頼りきらない曖昧さ加減をよしとする通念がありました。
しかし、業務の現場においては、実のところ障害にしかならないものです。
本書でも、「ちょっといいですか?」、「できれば早めにお願いします」、「よろしくお願いします」など、その種の悪い例がぞろぞろ出てきます。そられについても、適切な言い方が指南されています。
ミスをした部下への対応はこう言う
部下が、得意先で起こしたミスがもとで、取引関係を失ってしまったら?
頭に血がのぼって、つい「今回の件はきみのせいだ。どうしてくれるんだ」などと叱責したくなるかもしれません。
しかし、これを言ってしまうと、「相手を窮地に追い込むだけで何の解決策のもなりません」と、大野さんは指摘します。
ですので、こういう場合はまず、「なぜそのようなミスが起きてしまったのか」、経緯の確認してください。
そして、「今後同じようなミスをしないためにはどうすればいいのか」、まずは本人に改善策を考えてもらうのです。
このとき、先に「こうすればよかったんだ」と言わないこと。
これをしてしまうと、「早くそう言ってくれたらよかったのに」という気持ちになり、“指示待ち人間”を育ててしまうことになります。(本書171pより)
ポイントは、ミスを責めず、解決策に目を向けること。
「ミスが起きた原因と改善策を教えてください」という感じで、部下とのコミュニケーションの糸口をつかんでいきましょう。
似た言葉として、「こんなミスして恥ずかしくないの?」も取り上げられています。
職場では言わなくても、家族に対し言っていることもあるかもしれません。いずれにせよ、この種の発言は、相手には強烈な人格否定と受け取られてしまいます。
ベストの処方箋は、なにか別の言い方をするのではなく、何も言わないこと。
忠告としてあえて口にするのであれば、自分視点で具体的に伝えるよう、大野さんはアドバイスします。「足を広げて椅子に座るのは、とても恥ずかしいことだと私は思うけど、あなたはどう思う?」というふうに。
「~させていただきます」の乱用に注意
本書には、パワハラ言葉だけでなく、相手を不快にさせかねない失礼な表現も数多く取り上げられています。
日頃、言葉遣いに注意している人にも盲点となりそうな表現もあります。
例を挙げると、メールで多用されがちな「~させていただきます」。
「返信させていただきます」「検討させていただきます」など、ソフトによっては予測変換で登場するので、なんとなく使っている人も多いかもしれません。
これは日本語として間違ってはいませんが、使用する場面を選ぶ必要があるのです。
「させていただきます」は「させてもらう」の謙譲語で、「相手の許可をもらっていること」と「恩恵を受けていること」の2つの条件を満たす場合に使う言葉です。
たとえば、病気になったときに上司に会社を休む許可を得て、療養できる恩恵を受けたときに、「それでは今日は休ませていただきます」という使い方は適切です。(本書247pより)
それでも頻繁に使うと「違和感を与える」ため、場面に応じて工夫が必要となります。
単に自分がすることを伝えたいなら、「返信いたします」「検討いたします」と、「~いたします」で大丈夫。
同じように、過分な配慮という点で使われるのが「よろしかったでしょうか」。
大野さんは、「よろしいですか」で十分だとします。
大野さんは、企業カウンセラーを経て、今は官公庁・企業を相手に年間約150件のコミュニケーションスキルに関する講演・研修を行う、その道の達人。
それでも、思わず「よけいな一言」を言ってしまうことがあり「日々、努力を積み重ねる毎日」だと述懐しています。
だから、というわけではありませんが、最初から完璧を目指さず、クリティカルな言葉から注意して改めるようにするのがよいかもしれません。そのために本書は、きっと役立ってくれるはずです。
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