世の中にはいろいろな職種の人がいて、それぞれの環境で、それぞれのストレスを感じているもの。しかし、いちばんストレスを受けるのは宇宙飛行士だと指摘するのは、『「心の負担」を跳ねのける方法』(川口祐吾著、フォレスト出版)の著者。

NASA(アメリカ航空宇宙局)が宇宙飛行士のストレス耐性をチェックする交流分析「Process Communication Model(PCM理論)」に出会い、「人のコミュニケーションモデル(性格の組み合わせ)には720 通りある」というPCM理論を独自に研究したという人物です。

たしかにスペースシャトルの船内は細長いワンルームで6〜8畳程度のスペースしかなく、温度も低いため暖房を入れないとマイナス20〜30度という極寒状態。そのような状況下で、人種も宗教も価値観も異なる5〜6人もの飛行士たちが100日以上も宇宙に滞在しなければならないのですから、ストレスの大きさは計り知れません。

そんな劣悪な環境で、なぜ宇宙飛行士たちは平然と任務がまっとうできるのか。

狭い空間の中で、ストレスを溜めることなく、平静でいられるのか。

それはストレスがかかったとき、その理由と対処法を知るProcess Communication Model(以下PCM)という特殊なプログラムを使って訓練をしているからなのです。(中略)PCMとは、NASA(アメリカ航空宇宙局)の心理面接官として宇宙飛行士の選定に携わったアメリカの臨床心理学者テービー・ケーラー博士の開発した心理メソッドのことを言います。(「はじめに」より)

つまり著者はそんなPCMをベースに、誰にも効果があり、簡単に実践できる即効性のあるメソッドを確立したというのです。そして、その理論を紹介したのが本書だということ。きょうは第2章「心の負担と感情のメカニズム」から、いくつかの要点を抜き出してみたいと思います。

感情が表れる表情は3種類しかない

感情が動けば表情も動くもの。心が満たされてうれしいときの顔、機嫌が悪かったり不安や緊張があるわけです。しかし著者によれば、感情が現れる「表情のクセ」は次の3種類しかないのだとか。

1. ほほえみ顔(目尻が下がる)

2. 笑い顔(頰が上がる)

3. 真顔(眉間のシワ)

(80ページより)

まず1.の「ほほえむ表情」をつくる人は、感情が動くと目尻・眉尻が下がるクセをもっているのだそうです。うれしいときや機嫌がいいときなど、感情がプラスのときは目尻・眉尻を下げ、やわらかく安心した「ほほえみ」の顔をつくり、マイナスの感情が心を覆ったときも、目尻・眉尻を下げたまま困り顔をつくるというのです。感情がプラスでもマイナスでも目尻・眉尻が下がるため、素の顔が温厚でやさしそうだということ。

2.の「笑い顔」をつくる人は、感情が動くと目尻と頰(鼻の横)が上がるというクセを持っているといいます(やはり、感情のプラス、マイナスにかかわらず)。うれしいとき、機嫌がいいときなど感情がプラスのときには頰がガッと上がることに。逆に不調に陥ってマイナスの感情が心を追おうと、顔を歪めてリアクションするということ。このとき頰のあたりの筋肉が、左右均等ではなく片方だけ上がり、器用に顔をしかめて不快感を表現するわけです。

3.の「真顔」でいる人は、感情が動くと眉間に縦ジワが入るクセを持っているもの。当然ながら、感情のプラス、マイナスにかかわらずです。感情がプラスのときは眉間にシワを寄せ、口を真一文字に開き、喜びを噛み締めるというのです。そしてマイナスの感情が心を覆ったときも、ほぼ同じ顔。感情がプラスでもマイナスでも眉間にシワが入るため、常に眼力が強く沈着冷静な素の顔になるということ。(79ページより)

特定の言動を示す特徴

「ほほえむ人」「笑い顔の人」「真顔の人」は、ストレスを感じると特定の言動を示す傾向にあると著者は指摘しています。感情がプラス・マイナスに動くと特定のクセが出るように、ストレス時にも言葉や動きなど、あらゆるところに(無意識のうちに)クセが出るというのです。つまり、ストレスの言動も3パターンだということ。

ストレスを感じると、「あっ…、すみません」という言葉を連発するようになるのが「ほほえむ人」。もちろん表情は、目尻・眉尻が下がった状態で、肩をすぼめ、腰が引け、自信なさげな猫背の姿勢になるのも特徴。肺を圧迫する姿勢なので、おのずと声も小さくなって言葉に息が混じり、語尾が消え入るような声になる人も。これが心理的に「自責」というストレス状態なのだそうです。自分を責める思考が走りはじめ、「私が悪い」と自分を責めるパターンにはまってしまうということ。

次に「笑い顔の人」は、ストレスを感じると、まず「エェー」という言葉を、鼻の横がグッと上がったような表情をしながら口にするのだといいます。表情も左右どちらかに歪み、首も同じ方向にかしげることに。肘をついたり、重心がずれた状態で斜めに座るなど、まっすぐの姿勢を保てなくなるのも特徴。これは心理的に「転嫁」という状態で、外部要因のせいで自分の行動ができなくなったという思考に支配されるわけです。

そして「真顔の人」がストレスを感じたときには、空気をピリッとさせ、周囲をヒヤヒヤさせる緊張ムードをつくり出してしまうものだといいます、“近づくな”オーラを発し、「自分だけはしっかりやろう」という集中モードに入るというのです。眉間にシワを寄せて険しい表情ですが、これはうれしいときも同じで、心理的に「正当化」というストレス状態なのだといいます。「私はきちんとやっているのに、なぜあなたはきちんとできないのか」というように、自分を正当化するわけです。

・ ほほえむ人 → おどおど(自責)

・ 笑い顔の人 → うだうだ(転嫁)

・ 真顔の人  → ピリピリ(正当化)

(97ページより)

つまり、感情のパターンはこれらのうちのどれかに当てはまるものだということ。(85ページより)

根底にある欲求を満たすと、心の負担は消えていく

ではビジネスシーンにおいて、人はどんなときにストレス反応を示すのでしょうか? 著者いわく、それは、なにかしらの欲求が満たされないとき。おどおどしたり、うだうだしたり、ピリピリする言動をとるのは、欲求が満たされないことによるフラストレーションが原因だということです。それは欲求を満たそうとするシグナルであり、心のスイッチもオフ状態のまま。しかし欲求が満たされると、動機(モチベーション)が上がり、心のスイッチもオンの状態になるというのです。

ただし欲求といってもさまざまで、「ほほえむ人」にはほほえむ人なりの、「笑い顔の人」には笑い顔の人なりの、「真顔の人」には真顔の人なりの欲求があるというのです。

・ ほほえむ人 → 安心・安全欲求

・ 笑い顔の人 → エキサイティング欲求

・ 真顔の人  → 能力の承認欲求

(103ページより)

これらの欲求を満たす(心のスイッチをオンにする)ことによって、「ほほえむ人」はおどおどからニコニコへ、「笑い顔の人」はうだうだからノリノリへ、「真顔の人」はピリピリからテキパキへとドラスティックに変化するというわけです。(102ページより)

自分の心の欲求を他人は満たしてくれない

こうした3つの感情パターンが存在することを前提としたうえで、著者はもうひとつ大事なことを強調しています。心のスイッチをオンにするための欲求は、基本的に他人を満たしてはくれないということ。なぜなら、人はみな自分の欲求を満たすことを最優先したがるものだから。

Aさんは大のラーメン好き、Bさんは大の肉好き、Cさんは大の魚好きだったとします。

お腹が空いているとき、Aさんはラーメンを、Bさんは焼肉かステーキを、Cさんがはお刺身か焼き魚を食べに行きたいですよね。

そういうとき、3人が一緒に食事に行ったら、どうなるでしょうか。

3人のうち、2人は妥協しなければならなくなります。

ジャンケンをして、買った人が好きなものを食べることができても、負けた2人は好きなものを食べることができません。(中略)そうなると、各々が食べたいものは、他人と交わることなく、自分ひとりで自分の好きなときに食べるのが、いちばんいいということになります。(135ページより)

心のスイッチをオフからオンにするための欲求にも、同じことがいえると著者はいうのです。つまり、「他人は自分の期待に応えてはくれない。自分の欲求を満たしてくれない」くらいの心づもりでいて、自分の欲求は自分で満たすように努めるべきだということです。(135ページより)


このように人を3つのタイプに分類したうえで、本書ではそれぞれが能力を発揮するための方法、心の負担を跳ねのける方法などが紹介されています。まず自分がどのタイプに分類されるかを見極めたうえで、参考にしてみてはいかがでしょうか?