Crew Blog:年が明けると、多くの人がこぞって新しい商品やビジネスのアイデアを考え始めます。
個人的なつながりの中で、アイデアを公表したいかどうかを聞いたところ、多くの人がこう質問してきました。
アイデアを盗まれないようにするにはどうしたらいいの?
なぜ、自分のアイデアが盗まれると思うのでしょうか?そこで、オンラインでリサーチすることにしました。下記の質問を投稿して、返信を待ったのです。
- どれくらいの頻度でアイデアが盗まれますか?
- アイデアが盗まれた一例を教えてください。
- 盗まれたのはいつですか?
- どのように盗まれましたか?
- 誰もが心配するべきだと思いますか?
反応はさまざまでしたが、深く掘り下げるとパターンが見えてきました。
まだ幼いビジネスアイデアを温めている人、あるいは資金調達中の人へ。以下に、筆者が見つけた、アイデアを盗まれないようにする方法(とそのタイミング)をお伝えします。
アイデアには価値などない
リサーチしていて最初に発見したのが、テック系の起業家、投資家、ベンチャーキャピタリストらのブログ記事がこぞって、いかにアイデアが重要でないかを声高に主張していることです。
起業家のPenelope Trunk氏は、自分で乗り越えるように勧めています。誰かにアイデアを盗まれたら盗まれたで、それは光栄なことじゃないかと。
ベンチャーキャピタリストのPaul Graham氏は、誰もがアイデアを過剰評価していると述べています。
スタートアップのアイデアは、100万ドルのアイデアではない。それを証明するために、実験をしてみるといい。とにかく1つ、売ってみるんだ。スタートアップのアイデアに市場がないという事実は、需要がないことを示唆している。言い換えると、スタートアップのアイデアには、価値などないのだ。
「Quora」でもっとも読まれているライターであり言語学者のDavid Rosson氏は、腹立たしさのあまり、次のような記事を書いています。
この話題があまりにも頻繁にフィードに現れるので、今こそ誰かが数時間の空き時間(とスキル)を投じて、「stealmyidea.com」と呼ばれるサイトでも作ればいいのではないか。そこに、クリエイターがアイデアを無料で公開する。それを見た人が、いいね!や賛成票を投じることで、そのアイデアがいかにくだらないかを示すことができるんだ。
念のため、stealmyidea.comというサイトは存在しませんのであしからず。
実行あるのみ
アイデアそのものには価値がなくて、そのアイデアを実現することに価値があるという意見をよく見かけます。
インディーズCDのオンライン販売トップ「CD Baby」の創設者、David Sivers氏は、実行を伴わないアイデアなんて聞きたくもないと言います。
最高に鮮やかなアイデアでも、実行を伴わなければ20ドルの価値しかない。最高に鮮やかなアイデアに素晴らしい実行が伴えば、その価値は2000万ドルに跳ね上がる。
成功者とアイデアだけで終わってしまう人との最大の違いは、実行にあります。書籍『I Will Teach You to Be Rich』の著者Ramit Sethi氏は、このことを「グレートアイデアの神話」と呼んでいます。成功は、グレートアイデアではなく、実行から生まれるのです。
もちろん、オリジナルの考案者(あるいはそうだと思い込んでいる人)に損害をもたらすようなアイデア盗難の事例はあるはずです。私は、そのようなリアルなアイデア盗難が実際にどれくらいの頻度で起こっているか、確実なデータを知りたいと思いました。その結果、どんなことが起きているのでしょうか。
潜在顧客がスライドを盗んで資金調達
シリコンバレーのシリアルアントレプレナーSteve Blank氏は、潜在顧客のふりをした人物にスタートアップのアイデアを盗まれた経験を記事にしています。「泥棒」は、Blank氏のスライド資料のハードコピーをとり、ロゴを変えて出資を募りました。
しかもその泥棒、ローンチの日を、Blank氏の会社がローンチする1日前に設定したとか。
たしかに悪影響は考えられたものの、Blank氏は、価値はアイデアだけではなく、アイデアを最終製品に磨き上げていくプロセス全体にあるのだと実感したと言います。
競合は、私たちが9カ月前に立てた仮説を実行に移そうとしていました。そのため、彼らの戦略はおもしろみのない状態でした。でも私たちは、そこからさらに進んでいた。顧客が本当に必要とし、欲するものについての詳細情報をつかんでいたのです。だから私たちは、当初の仮説を事実に変えることができていました。
私たちは、新しい仮定を証明して、ビジネスモデルを方向転換していたのです。つまり、オリジナルのアイデアは、証明されていない仮説でしかありませんでした。私たちはもはや、スライドを盗まれた当時の会社ではなかったのです。
競合は、数カ月で閉鎖されたそうです。
海外顧客が盗作アプリを開発
パイプライン販売管理ソフト「Pipedrive」の共同創設者であり社長のTimo Rein氏は、自社のアイデアを寸分たがわず海外顧客にコピーされたことがあります。ソフトウェア、UX、デザイン、そしてフロントエンドのコードの大半を、そのままコピーされました。ローカルドメインまで取得され、競合のサイトにリダイレクトされるようになっていたそうです。
Rein氏は、法的措置ではなく、「泥棒」の国との関係が強い投資家に助けを求めました。その投資家は、類似性を厳しく指摘する文章をFacebookに投稿します。競合は過ちを認めませんでしたが、いくつかの譲歩の姿勢を見せました。
Rein氏は、当時をこう振り返ります。「振り返ると、その国からのサインアップのスピードは落ちていませんでした。唯一の有形の損失と言えば、関連するドメインぐらい」
彼は、スタートアップのアイデアを盗まれた人に、こんなアドバイスをしています。
仕事に戻り、心配し過ぎないことです。相手を罵倒するのもいいですが、あまり重要ではありません。
どちらのストーリーも、「アイデアに価値はなく、行動が違いを生む」という主張を裏付けるものではないでしょうか。
アイデアが盗まれても、とにかく一生懸命働くことです。
雇ったプログラマーがビジョンを持ち逃げ
盗難まではいかない、アイデアの「借用」の場合はどうしたらいいでしょうか?
対価を与えられると、インスピレーションが湧きやすいものです。
有名な「アイデア借用」と言えば、技術的知識を持たないけれどアイデアがあった双子のWinklevoss兄弟のストーリーでしょう。ハーバード大学のソーシャルネットワークのアイデアを思いつき、プログラミングを必要とした兄弟は、マーク・ザッカーバーグ氏にそれを依頼します。
ザッカーバーグ氏は、兄弟のプロジェクトに取り組みながら、Facebookのアイデアを思いつきました。そして、兄弟へのアップデートを遅らせ、「thefacebook.com」を先に発表してしまいます。兄弟はアイデア盗難でザッカーバーグ氏を訴えましたが、敗訴に終わり、わずか1億6000万ドルで和解しています。
アイデアが盗まれるとき
これらのストーリー(と紹介を省略したストーリー)から、アイデアが盗まれやすい場面について、2つの教訓を得ました。
- 教訓1:アイデアはその分野の能力を持つ人に盗まれやすい。何もかもを理解でき、あなたのビジョンを実現できるスキルを持つ人にアイデアを開示してしまうと、盗まれるリスクが高まります。
- 教訓2:アイデアは、すでに行動を起こしているとき、すなわちビジョンとプランが明確になっているときに盗まれやすい。多くの事例において、アクションプラン、コンセプトの証明、リサーチが明確になっているアイデアが盗まれていました。宝の地図を与えてしまったのなら、その宝を探すことを責めることはできません。
では、いつアイデアをシェアしたら安全なのか
リスクがわかったので、次は「シェアするか、しないのか」という疑問が生じます。
- ビジネスアイデアをシェアすると決めたなら、盗まれるリスクを承知しておくこと。
- ビジネスアイデアをシェアしないと決めたなら、マーケティング起業家で作家のSeth Godin氏が言うように、「アイデアは秘密裏に死んでいく」でしょう。
中間地点を見つけるのがいいでしょう。盗まれるリスクなくフィードバックをもらえるような、安全な場所を見つけるのです。では、単なる思考からアイデアの実行に至るまでのプロセスにおいて、どの時点でシェアするのがいいのでしょうか?
思考→紙→リサーチ→共有→プラン→資金調達→実行
私のリサーチの結果、アイデアをシェアするもっとも安全な場所とは、比較的初期の、詳細がまだ詰まっていない段階です。
この段階では、シェアしてもOK。なぜならあなたのアイデアは証明されておらず、まだまだ衝動的なものです。リサーチができていない、書面になっていないという点で、そのアイデアには価値がありません。
あなたの頭の中では10億ドルの価値があるかもしれませんね。でも、それではコーヒー1杯すら飲めないのが現実です。
このような衝動は、外に出さなければ意味がありません。他人に簡潔に伝えられるように、アイデアを紙に書き出しましょう。次に、既存のアイデアでないか、インターネットで検索します。まったく同じでなくても、似たようなものを探してください。
それで何も見つからないときは、むしろ気をつけてください。ひょっとすると、買い手のいない市場かもしれません。似ているけれど大事なところが欠けているアイデアを見つけられるのが理想です。自分のほうがうまくできるはず、というものを見つけたらしめたものです。
アイデアを明確にし、リサーチフェーズをパスしたなら、次は個人的なネットワークの中でシェアしてみましょう。まだほとんど作業もしてなければ、お金も生み出してない、さらには物理的デザインすらない状態です。ビジネスとして成立する証拠もないのですから、どんどんシェアしてしまって構いません。
シェアすることで、フィードバックが得られます。それで情熱に火が付くこともあれば、火が消えてしまうことも。火が消えてしまった場合、それ以上そのアイデアに時間、エネルギー、お金を投じないほうがよさそうです。火が付いた場合、次なる計画ステージに移りましょう。
アイデアを安全にシェアする方法
ビジネスプランを作ることで、アイデアが少しずつリアルになってきます。
テクノロジーに詳しくないなら、あなたの製品を作る人を雇わなければなりません。
ここで、再び状況が変わります。あなたのアイデアは十分に吟味され、確固たるものになっているはず。つまり、盗まれるリスクがあるのです。
そこで、リスクを少しでも避けるために、以下のことを覚えておいてください。
- 機密保持契約(NDA):許可なくプロジェクトの情報を外部に漏らしてはならないことを両当事者が署名する文書で、法的拘束力を持ちます。
- 人材マッチングサービス:「Crew」のように、アイデア側と構築側の人を結びつけるサービスです。サービスの一環としてNDAやその他の秘匿契約を提供していることが多いので、双方ともに心配無用です。
- 比較可能な例を挙げる:プログラマーやエンジニアにアイデアを説明する際に、似たような例を挙げて説明します。たとえば、筆者が新しいSNSアプリのためにプログラマーを雇うとしたら、Facebookで例えて話すでしょう。「Facebookのようなフォロー、フィード、タグ付けの顔認識に関して、どの程度の経験を持っていますか?」
- 分散して話す:プロジェクトをばらばらに分けて、リモートのフリーランサー、ローカルのテックエンジニア、大学の同級生など、それぞれ別の人にアウトソースする。そのうえで、それらをまとめる作業は信頼のおける人(テクノロジー担当の共同創設者が望ましい)に任せる。分散することで、1人のビルダーがコンセプト全体を把握したりプロジェクト全体のコードを盗んだりできないようにする。
ビジネスが進むにつれて、投資を募ってお金を集める必要が出てくるかもしれません。このとき、あなたは非常に危険な状態です。実行可能な確固たるアイデアがあるのに、保護も信頼もないのですから。
ここで再び、アイデアをシェアする方法が変わります。投資家に売り込む際は、以下に気をつけてください。
- NDAは禁物:Guy Kawasaki氏、Paul Graham氏など、多くのベンチャーキャピタリストは、売り込み資料にNDAが付いていたら投げ捨てるでしょう。彼らの自由がきかなくなってしまうからです。もしあなたのNDAに署名したら、同じフィールドの競合他社の売り込み資料に対して何も行動できなくなってしまうのです。
- 「Storm Ventures」マネージングディレクター、Jason Lemkin氏のアドバイスに耳を傾ける
- DosSendを使う:『DocSend』を使うと、文書の閲覧者、転送先、各ページの表示時間が記録されます。「Abel Lending」のEvan Gaehr CEOがスタートアップ時のスライドを回覧したときには、これを使用したそうです。
VCによるアイデア盗難については、心配しないほうがいいでしょう。それでも、あなたの資料が競合に転送されてもOKというスタンスでいるか、そうでなければ、PDFを暗号化して、基本的なメールでの転送を阻止しましょう。根本的な保護策にはなりませんが、最低限の基本です。もっといい方法として、アクセス限定のGoogle Docへのリンクという形で資料を送るか、同じように後日アクセス権を削除できる方法を用いるといいでしょう。
最後に、アイデア盗難を完全に阻止する方法は存在しません。商品の実現が近づくにつれ、あなたのハードワークが盗まれるリスクは高まります。
でも、それが自由市場経済です。競争が、最終的にはお客さまのベストにつながるのです。では、実行後の模倣からは、どうやって身を守ればいいのでしょう。
ハッスルして、行動して、競合を葬り去るのみです。
誰かにアイデアを盗まれる恐怖は、常に存在します。でも、あなたのアイデアはあなたのアイデアです。あなたの思い通りにそれを実行できる人は、あなたしかいません。
盗まれたアイデアは、しょせん計画です。「Basecamp」の創設者、Jason Fried氏はこのように述べています。
計画をこう呼ぶことにしよう。推測と。
計画のシェアは自由にしてください。でも、それを現実にするときがやってきたら、カードは胸の内に秘めておいたほうがいいでしょう。
まとめると、これだけは覚えておいてください。
シェアするなら、カードではなく、思いつきを。
The truth about idea stealing | Crew Blog
Dave Schools(訳:堀込泰三)