Crew Blog:困ったことに、最近はユーザーよりも"ユーザー・エクスペリエンス(UX)"に基づいたデザインを意識するという間違った傾向があります。

しかし、ウェブサイトがどんなに良いデザインでも、ユーザーがやりたいときにやりたいことができないサイトであれば不満が溜まります。サイトの運営側も、見込めたかもしれない売上を失うことになります。

オンラインで仕事をしている人であれば、「UXデザイン」という言葉を耳にしたことがあるでしょう。UXデザインに必要なものも知っているかもしれません。

今回は、ベテランのUXデザイナーとして責任を持って、UXデザインの果たす役割を明らかにし、良いUXデザインにとって大事なものを簡潔に説明していきたいと思います。

面白い比喩や専門用語はありません。あるのは、実際のユーザーのために経験をデザインするとはどういうことかという事実と、なぜサイト運営者やオンラインビジネスは、UXデザインを真面目に考えなければならないのかという理由だけです。

そもそも「UXデザイン」とは何か?

基本的に、UXデザインというのは社会学と認知科学が組み合わさったもので、人と商品がどのように相互作用するかを考えたものです。

人が関心のある対象と何かしらの経験をしたときのことを、科学的に分析します。車やイスやテーブルなどの商品から、そのウェブサイトやアプリにどのように接しているかということも対象になります。

ユーザー・エクスペリエンスには、サービスや商品などエンドユーザーがその会社と接するすべてのものが含まれる。

では、UXデザイナーの目標は何でしょうか? まとめると以下の3つになります。

  • 顧客満足度を上げる
  • 会社と顧客のやりとりの質を上げる
  • 商品がひとつのステップから次のステップへと論理的にスムーズに流れているか確かめる

かなり責任が大きいと思うかもしれませんが、その通りです。あらゆる商品開発において、UXデザインは極めて重要な役割を果たします。ユーザーの満足が会社にとって良いことだと、誰もがわかっているからです。

人間の経験のためのデザイン

私が自分の肩書を言うと、どういうわけかユーザー・エクスペリエンスに関するすべてのことに、1人で責任を負っているように思われることが多いです。実際には、ユーザー・エクスペリエンスにはあらゆる人が関わっています。

私の大好きな思想家マイク・モンテイロは、このように言っています。

私はデザインについて何も知りません。そんなことはどうでもいいです。周りを見渡してみてください。あなたは日々デザインによって選択をしています。悪いデザインに出会うと、それが悪いデザインだとわかります。座る度にお尻が痛くなるイス、持つ度に手が熱くなるコーヒーカップ、毎回押し間違えてしまうスマートフィン、毎度イライラする航空チケットの予約サイト。どういうものが悪いデザインかはわかります。それはあなたが嫌いなものです。

マイクは広義の意味でデザインについて語っていますが、この考え方はUXデザインにも簡単に当てはまります。(特に航空チケットの予約サイト)つまり、誰もがすべてうまくいってほしいと思っているだけなのです。

しかし、それは簡単なことではありません。物事をシンプルに簡単にするのは、思っている以上に難しいものです。

商品のユーザー・エクスペリエンスには、ユーザーフローや、サーバが遅いとダメになってしまうような派手な経験を簡素化することだけではなく、カスタマーサービスの意地悪な担当者や、メールのニュースレターが多過ぎることなども関係しているからです。このようなことに、UXデザイナーが関わったり、コントロールしたりすることはできません。

しかし、できるだけ簡単にユーザー・エクスペリエンスの満足度を高くするために、UXデザイナーに果たせる大事な役割がいくつかあります。

UXデザインの良し悪しを知るには顧客目線

eコマースの会社でユーザーとのやりとりや経験を向上させるために雇われると、会社は大体私にサイトのホームページ、カテゴリー、商品ページを中心に見てほしいと言います。このようなページは、顧客のユーザー・エクスペリエンスや売上を上げるために非常に重要なものですが、商品全体を総合的に見る視点がより重要です。

優れたユーザー・エクスペリエンスを構築し、維持するのには時間がかかるが、ほんの数秒で台無しになることもある。

新しいプロジェクトに着手したときに私が最初にやることは、顧客目線で見ることです。ユーザーや顧客がその会社を見つけて、最終的に商品やサービスを受け取るまでの、すべての経験を洗い出します。

顧客目線でeコマースサイトを見るというのは、このような感じです。

  • Googleで商品や会社名を検索します。これは商品を見つけるためにユーザーが使う一番多い方法です。会社のウェブサイトのホームページやカテゴリーページではありません。「自分がたどり着きたいところがわかったか?」「会社のサイトは信用できると思うか?」「カテゴリーの前のページに簡単に戻れるか?」「ホームページには簡単に戻れるか?」
  • 商品ページからホームページに戻り、それから別の商品を探します。「サイトで勧めている商品は興味がありそうなものだったか?」「大事な情報(サイズ、色、価格、配送日数など)がはっきりと表示されているか?」
  • チャット機能がある場合はつなぎ、簡単なものから複雑なものまでいくつか質問をして、どのように答えるかを見ます。「スウェーデンに配送していますか?」「この"ブルー"はどういう青か説明してもらえますか?」
  • 商品をカートに入れ、購入手続きに進みます。「注文フォームは入力しやすかったか?」「購入するのにユーザー登録が必要か?」「お知らせメールの購読をしなければならなかったか?」
  • 注文確認メールが届くのを待ちます。「確認メールは即座に届いたか?」「わかりやすいメールか?」「必要な情報はすべて入っているか?」
  • ユーザーが探しそうな配送に関する情報を隈なく見る。「商品が発送されたというメールを受け取ったか?」「配送中の商品を追跡する機能はあるか?」
  • 商品が届いたら、付加価値的な何かがあるかを確認します。ステッカーのような小さなおまけや、手書きのメモや領収証などのことです。「注文通りすべてが届いたか?」「ユーザーの記憶に残るようなユニークな付加価値はあるか?」
  • カスタマーサポートに何度か電話し、商品について問い合わせをする。「返答までの時間はどれくらいか?」「24時間以内か?」「話すときの声のトーンは?」「愛想がいいか、それとも気むずかしい感じか?」

あなたは商品やウェブサイトについてよく知っているかもしれませんが、顧客は知りません。顧客目線で経験することが、UXデザイナーの仕事で一番重要な部分です。

UXは会社のあらゆる仕事に関係がある

以上のように、ユーザー・エクスペリエンスというのは、会社が力を入れてほしいと言った3つのページにとどまりません。eコマースサイトのような顧客とのやりとりがあるサイトでなくても、顧客が見ているインターフェイス部分以外に、ユーザー・エクスペリエンスに関わることはたくさんあります。

  • カスタマーサポートはつながりやすく、役に立つか?
  • 顧客とのコミュニケーションに付加価値があるか?
  • 注文確認や請求書はわかりやすいか、印刷しやすいか(いまだに印刷する人がいます!)?

完璧な商品ページがあっても、それがモバイル非対応だったら? カスタマーサポートが不親切だったら? 購入後に送られてきた情報がわかりにくかったら? 顧客はどう感じるでしょうか。

最初から最後まで、顧客が経験するすべてのことに目を配らなければ、UXデザインは成功しません。

UXの責任者は誰か?

では、ユーザーエクスペリエンスが顧客を満足させられていないときは、誰に責任があるのでしょう? 会社のCFOは財務に関する責任者で、CTOは技術面全般の責任者ですが、ユーザー・エクスペリエンスの責任者(Chief User Experience Office=CUXO?)は誰にあたるのでしょうか?

(CUXOなどという言葉は誰も使っていないと思いますが、ここでは便宜上そのように呼ぶこととします)

CFOはキャッシュフローを良好な状態に保つ担当者ですが、キャッシュフローに影響を与えるのはCFOだけではありません。ユーザー・エクスペリエンスに対しても、同じように担当者が必要だと私は考えています。

今のところ、UXデザイナーが単独で働き、商品に影響を与える他の要素のことは考えずに、ウェブサイトのほんの数ページのユーザー・エクスペリエンスを修正するように頼まれることが多いです。必ずしもユーザー・エクスペリエンスに関するすべての問題に直接責任を持たなくとも、スムーズなユーザー・エクスペリエンスを担保するために、ユーザーのすべての行動をガイドするビジョンと理解あるCUXOが、CFOのように動いた方がいいと思います。

サイトの評価が悪いときは、顧客が不満な理由を理解するのがCUXOの仕事です。コンバージョンが低いときは、どのようなUXデザインであれば顧客が購入を完了できるかを考えます。

UXデザインというのは、ウェブサイトを1〜2ページ修正するだけではありません。ビジネス、技術、デザイン、コンバージョン(マーケティング)、心理学が、渾然一体となったものです。

オンラインビジネスでは、あらゆるものにおけるデザインが、差別化要因以上のものになっています。ユーザーエクスペリエンスのデザインによって、競合と差がつくこともあります。良いデザインの持つ力、最初から最後までスムーズに進む経験を軽んじて、競合に負けることのないように。

UXデザインを意識しなくなったとき、それが成功だということを覚えておいてください。

Designing for real people|Crew Blog

Anton Sten(訳:的野裕子)

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