Boomerang」は、魔法のようなGmailプラグイン。メールの予約送信、一時的に隠す(スヌーズボタンのようなもの)など、メールにまつわる悩みごとを解決してくれる便利機能が満載です。著名人の仕事術を紹介する「How I Work」シリーズでも、数々のCEO編集者起業家らが、欠かせないツールとしてBoomerangを挙げています。

有名アプリの誕生にまつわる逸話を紹介する「Behind the App」シリーズ、今回はBaydinのCEOであるアレキサンダー・ムーア(Alexander Moore)氏に、アプリの開発秘話と今後の展望を聴きました。

── Boomerangのアイデアは何がきっかけで生まれたのでしょうか。あなた自身が直面していた問題の解決策としてなのか、それとも別のきっかけがあったのですか?

ムーア:ほとんどのアプリがそうであるように、Boomerangのアイデアは、個人的な悩みから生まれました。もともとはアナログ装置のHDTVスイッチ開発に携わっていたのですが、あるときプロジェクトチームのリーダーに抜擢されて。基盤やオシロスコープに向き合っていた毎日が一変し、1日中Outlookを使ってマネジメントをやるようになりました。

最大の課題は、受信した日には何もできないけれど後日対応が必要なメールの追跡でした。木曜日にサンプルを発送、金曜日にテストを実行などの類です。

フォローアップフォルダやフラグを使ってみたり、受信箱にメールを残してみたりと、いろいろな方法を試しました。何十個ものフォルダを使った、バカみたいに複雑なシステムもやりましたね。でも、かんたんで便利な方法はひとつもありませんでした。何をやっても、重要なメールが抜け落ちてしまうのです。

メールを忘れないようにいつも頭の片隅に置いておくのではなく、必要な時にメールが戻ってきて、リマインドしてくれたらいいのに......。

そうか! 自分に必要なのは、ブーメランなんだ!

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── アイデアを思いついた後、次にした行動は何ですか?

ムーア:さっそく作り始めました。

コードを書く前に客と話すべしというのが最近の傾向です。でも、それまでにBoomerangのようなものを作った人はいません。だから、このシンプルなコンセプトがどれだけ便利かを説明するのは、容易ではありませんでした。

そこでとにかく、3カ月かけてコードを書きました。私たちが解決しようとしているのは、自分たちにとっての本当の問題。だから、自信を持って開発を進めることができ、シンプルバージョンの完成に至ったのです。

まだ動きが完全になる前から、自分たちで毎日使うことを始めました。使っては荒削りな部分を発見し、目立つ部分にやすりをかける。そんなことを繰り返していくうちに、商品は日々よくなっていきました。そしていつの間にか、私たちもBoomerangが手放せなくなり、日々信頼を寄せるようになっていたのです。何とか動くものができがった直後、Boomerangを世に放ちました。

商品がユーザーの手に渡り、その使い方を見ているうちに、確信のようなものが湧いてきました。フィードバックを利用することで、猛烈な勢いで開発を進めることができたのです。

── ターゲットとするプラットフォームはどのように決定しましたか?

ムーア:最初の試作品は、Microsoft Outlook向けに作りました。Outlookには開発プラットフォームがありましたし、多くのビジネスユーザーがそれを利用していましたから。でも、私たちはGmailを使っていたので、その試作品では自分たちの問題を解決することはできないことに気づいたのです。そこが重要なポイントでした。

そこですぐにやり方を学び、Gmail用のBoomerangを作り始めました。そうすることで、自分たちでそれを使えるようになり、周囲の友人にも協力を仰げるようになったのです。ローンチ後もGmail向け商品の受けがよいので、今後もそこを重点的にやっていくつもりです。

他のメールシステムのプラグインという形ではなく、デスクトップのEメールクライアントを作ってしまおうと考えたこともありました。でも、完全な機能を備え、メインのメールクライアントとして使ってもらえるようなアプリケーションの開発には、何カ月もの期間がかかるのです。それから新機能を追加していては、時間がかかりすぎてしまいます。

ちなみに、モバイルは選択肢にあがりませんでした。2010年の時点で、Appleはネイティブ機能と競合するアプリを認めていませんでしたから。だから、当時まだGmailすらアプリを持ってなかったんですよ!

── もっとも大変だった点は? それをどのようにして乗り越えましたか?

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ムーア:最大の壁は、ソフトウェアへの課金でした。私たちは非常に便利なツールを作ったので、熱心なユーザーをたくさん獲得できると確信していました。でも、それをビジネスとして展開できるかどうかまではわからなかったのです。さらに悪いことに、開発を進めていく中で、ほとんどの人に「メールプラグインで課金することは不可能だ」と言われました。ラッキーなことに、彼らはみんな間違っていたのだけれど!

忠実度の低いかんたんな一連のテストを経て、課金の仕方を学びました。そして、究極のビジネスモデルへと、少しずつ近づいていったのです。

最初にやったのは、ホームページへの「buy a subscription」(サービスの購入)ボタンの設置でした。そのボタンをクリックすると、入会フォームが開き、サービスの年間使用料として妥当だと考える金額を自由に払うことができる仕組みです。新しいユーザーのうち約1%が、購入することを選んでくれました。これで私たちは、このサービスはお金を払ってもらえるものであると確信できました。

次に、支払ってくれた金額のヒストグラムを眺めながら、入会フォームをいじり、お金を出してもらえそうな金額をあれこれと試してみました。そしてある日、得られたデータをもとに最終価格を決定し、24時間限定クーポンを全ユーザーに一斉送信したのです。その日の終わりには、Boomerangはビジネスとしてやっていけることがわかりました。

── ローンチした時はどのような感じでしたか?

ムーア:それはもう、完全にクレイジーでしたよ! Twitterで第一報をつぶやいたと思ったら、あとは山火事のように広がって。Lifehackerからのアクセスも、2日間で2万件に上りました。私たちはほとんど寝る間もなく、バグの修正と新機能の追加にあたりました。

── ユーザーの要求や批判にはどのように対応していますか?

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ムーア:お客様の要求への対処について、こんなアドバイスをいただいたことがあります。フィードバックはたいてい、ユーザーのリアルなニーズと課題を反映しているってね。だから、お客様が提案してくれた機能や実装があまりピンと来なくても、その根底にあるニーズを満たす方法を考えることにしています

それから、リクエストのあった各機能に対して、その頻度を詳細に残しています。ユーザーの利用状況の詳細分析とこのデータを併用して、ロードマップの3分の2を決めます。残りの3分の1は、クレイジーなアイデアのために残しておかないとね!

批判への対応は難しいですね。企業の立場としては、どんなに怒ったメールでも、1件1件対応しています。半分ぐらいは、私信を送るだけで関係が改善します。そうならないときは、批判が収まるよう、最善の努力を尽くします。

創設者の立場としても、批判への対応は難しいです。創設者たるもの、カスタマーサポートへの対応は、ある程度にとどめておかなければなりません。なぜなら、すべてが個人的すぎるからです。最近では、週に1回、お客様からのメールを読む時間を決めていて、その他の時間には受信箱に表示させないようにしています。

── 現在は「新機能」と「既存機能」の開発に割く時間の比率はどれくらいですか?

ムーア:全般的には、「いま最大の課題は何か」を常に自問して優先順位を決めています。GoogleがGmailインターフェースを変えれば、Boomerangは対応しなければならない。とても単純なことです!

大きな課題がないとき、ソリューションはそれほど明確ではありません。Boomerangの発表から数カ月後、データを分析していて、ユーザーが予約送信機能については理解しているものの、Boomerang機能(メールのスヌーズ)の使い方と存在意義をあまり理解していないことがわかりました。そこで、お客様にBoomerang機能を使ってもらうことが最大の課題になったのです。

私たちが「魔法」と自称する機能は、そこから生まれました。メール本文中から自動で日付を見つけて、適当な時間にメッセージを戻す提案を表示させるようにしたのです。例えば、6カ月後に旅行に行くとしたら、航空券のコンファメーションコードが書かれたEメールを、出発当日の朝に戻すことを提案します。このようにしていくつかのスヌーズを試してもらううちに、Boomerangがいかにメールとの付き合い方を変えるものかを実感してもらえるようになりました。

最大の課題が商品の付加価値を生み出すときは、私たちが新しい機能を構築するときなのです!

── 同じような試みをしようとしている人に、どのようなアドバイスを送りますか?

ムーア:とにかく始めることです! 人は、前に進みながら学んでいくもの。モチベーションをもって周到に考え、優れた人材を巻き込んでいけば、その他のことは見えてくるはず。

それから、出荷も大事です! まずは社内で出荷する、つまり社員に自社製品を使ってもらうことで改善を図ります。そして、何とか許容できるものができたら、外部に出荷します。出荷するまでは、リアルなユーザーの反応がわかりません。自分たちの商品がどんなものか、世に出してみないとわからないのです!

Andy Orin(原文/訳:堀込泰三)