ToDoリストは、多くの人にとって有用であろう歴史ある生産性ツールです。ToDoリストは、無秩序な日常生活の中に秩序を作り出す試みであり、人間の自己管理能力の表現でもあります。2012年前半に行われたLinkedInの調査によると、私たちの多くが(ToDoリストが嫌いな人も含めて)何らかのToDoリストを使っているそうです。例えば、専門職に就く人の63%がToDoリストを使っています。
とはいえ、ToDoリストほど使いこなすのが難しいものはありません。今回は、その日に達成したタスクをメールするとカレンダーに記録してくれるタスク管理サービス「iDoneThis」のJanet Choi氏が、ToDoリストが失敗しがちな理由と、ToDoリストの効果的な利用方法を教えてくれます。
iDoneThisにはかつてToDoタスク機能がありました。ここに、人々がToDoリストに悪戦苦闘していることを示す面白い統計データがあります。
- ToDoアイテムの41%は未完了で終わる。
- 完了したToDoアイテムの50%は、1日以内に達成されている。
- 完了したToDoアイテムの18%は、1時間以内に達成されている。
- 完了したToDoアイテムの10%は、1分以内に達成されている。
- 達成されたタスクのうちToDoアイテムとしてスタートしたものはわずか15%。
つまり、人々はToDoタスクをちっとも完了できていないのです。完了したタスクは短期間のうちに達成されたものばかりです。また、「達成した」と報告されたタスクの大半は、ToDoタスクとして計画されたものではありませんでした。
誰もが使っているToDoリストですが、実際には役に立っていないように見えます。この矛盾ゆえに、人々はToDoリストに複雑な愛憎の感情を抱くのでしょう。上記の統計データが示すのは「ToDoリストは目標達成には役立たないツールである」という事実でしょうか? それとも、「人間には自己管理能力が欠落している」ということでしょうか?
ToDoリストか人間か、どちらかを悪者にするのは短絡的すぎるでしょう。では、なぜ私たちにとってToDoリストの完了がこれほど難しいのか? 原因をもう少し探ってみることにします。■問題点1:ToDoタスクが多すぎる
第一に、ほとんどの人がToDoリストにタスクを詰め込みすぎています。社会心理学者のRoy Baumeister氏とジャーナリストのJohn Tierney氏の共著『Willpower』によると、一般的な人で常時150以上のタスクを抱えているそうです。また、企業の重役たちにおける月曜日のToDoリストには、1週間ではとてもこなせない量のタスクが並んでいるそうです。これでは失敗するために計画しているようなものです。
ToDoリストにタスクを詰め込み過ぎると、頭の中にはいつも心配事が渦巻く状態になります。そして、頭の中がうるさいことそのものが、タスクへの取り組みを妨害するのです。『Willpower』にも書いてありますが、心理学者のRobert Emmons氏とLaura King氏によると、あまりに多くの目標を抱えていることからくる不安が、身体や精神、さらには生産性にまで悪影響を与えているそうです。
つまり、ToDoリストにはメリットもあればデメリットもあるのです。誰もがたくさんの「やるべきこと」を抱えており、ToDoリストはそれらを覚えておくことを助けてくれます。と同時に、不安を誘発する口やかましいツールでもあるのです。多くの人がToDoリストの達成に失敗している現実を見ると、ToDoリストはメリットよりデメリットのほうが大きいのでしょうか?
■問題点2:ToDoリストの作り方が悪いiDoneThisのスタッフは、重大な問題点として「人々がToDoリストの作り方を知らない」ことにあるのを発見しました。ToDoリストはやるべき事を覚えておくためのリマインダーであり、タスクに取り組むよう背中を押してくれるツールです。ところが、『Willpower』で紹介されている研究によると、驚くべき事に、ToDoリストそのものがタスクへの取り込みを妨害することもありえるそうです。
未完了のタスクや未達成のゴールが、頭の中でガミガミと騒ぎ立てる現象は「ツァイガルニク効果」として知られています。ツァイガルニク効果の合理的な解決方法は、実際にタスクを完了しゴールを達成することです。当たり前ですね。ところが、Baumeister氏とE.J. Masicampo氏の研究(PDF)によると、ツァイガルニク効果は潜在意識が「計画を立てるように意識へ依頼している」のであって、「とにかくタスクにとりかかれ」と言っているのではないそうです。
ある研究では、学生を2つのグループに分け、片方のグループには次の重要な期末試験のために学習計画を立てるように指示しました(何を、いつ、どこでするか詳細に検討させた)。別のグループには、単に期末試験について考えるように指示しただけでした(実験期間中には実際に勉強するわけではありません)。
続いて、複数の解答があり得る「単語の穴埋め問題」を解かせたところ、期末試験について考えただけのグループは、試験に関連性の強い単語を選んで埋める傾向がありました。一方、学習計画を立てたグループにそのような傾向は見られませんでした。
つまり、単に期末試験について考えただけの学生は、穴埋め問題を解くときにも期末試験のことが頭を駆け巡っていたのに対し、学習計画を立てた学生の頭の中はそうではなかったのです。詳細な学習計画を立てた学生たちは時間もエネルギーも余計に消費したはずです。ところが、Baumeister氏とTierney氏が説明する通り、「学習計画を立てた学生たちは、計画を立てたことで明らかに頭の中がスッキリした」のです。
この研究結果は、ただToDoリストを作るだけでは役に立たないことを示唆しています。大半の人はタスクの実行計画をきちんと考えません。頭の中にたくさんのToDoタスクが駆け巡っているにもかからず、実行方法がわかっていないことが、タスクを達成できない原因なのです。ToDoリストは本来、実行計画を立てるのを助けてくれるツールのはず。そのことをよく念頭に置いてください。
■問題点3:締め切りまでが長過ぎる記事冒頭で紹介した統計データも示す通り、完了したタスクの多くはごく短期間のうちに達成されています。逆に言えば、短期間で実行できるタスクほど達成しやすいということです。ゴールが実行可能なステップに分解されていれば、個々のタスクに「完了」マークをつけていくことは容易になるのです。
ところが、実行計画が練られていない上に、締め切りにも甘いとなると、タスクの達成は難しくなります。先延ばしグセのある人はご存じでしょうが、締め切りまでの期間が長ければ長いほど、期間内に終わらせられる確率は減っていきます。例えば、行動経済学者Dan Ariely氏によると、時間を無制限に与えられた学生よりも、締め切りを与えられた(もしくは自分で設定した)学生のほうが論文を完成させる確率がずっと高かったそうです。
■問題点4:未来は予測不能で、障害物と変化がいっぱいiDoneThisのユーザーが達成したと報告したタスクのうち、あらかじめToDoアイテムとして計画されていたものはわずか15%です。びっくりするほど低い関連性です。
実行計画がよく練られていないToDoタスクは、なかなか「達成」に結びつきません。大半の人はゴールやタスクを大雑把に決めるだけで具体的な実行計画を作りません。やみくもに何かをやろうとして時間を浪費しているのです。それが、ToDoタスクが達成されにくい要因です。
さらに、日々、さまざまな邪魔が入ります。LinkedInのアンケート調査によると、ToDoリストを達成できない最もよくある原因は、予期せぬタスクが入ることだそうです。例えば、突然の電話、メール、会議などです。プライベートでも職場でも大小問わずハプニングが起こります。通学バスに乗り遅れた子どもを学校まで送っていくことになった、商談がうまくまとまらない、先輩がしゃべり続けている、同僚が予算をめちゃくちゃにして対応におおわらわ、インターネットが面白すぎる...などなど。未来は予測不可能であり、ToDoリストも変化を余儀なくされるのです。
では、「良いToDoリスト」を作るにはどうすればいいのでしょうか?
■なぜiDoneThisはToDo機能を削除したのか私たちは当初、ユーザーの要望に応えてToDo機能を組み込もうと試みました。しかし、私たちはToDo機能を手放しました。なぜなら、iDoneThisのサービスの主眼は「達成」にあったからです。そして、達成の記録こそが、人々を動機づけ、さまざまな利益をもたらすと考えたからです。
残念ながら、私たちが提供したToDoサービスでは人々の行動パターンを変えられませんでした。適切なToDoリストを作り、タスク量を減らし、短い締め切りを設定するように促せなかったのです。とはいえ私たちは、それでもToDoリストは有益なツールであり、「達成」にフォーカスすることがToDoリストの問題点や欠点を補ってくれると信じています。ToDoリストと達成はコインの表と裏なのですから。
■良いToDoリストを作る方法 具体的ですぐ実行できる計画をたてる:少し時間をとってゴールまでの道のりを詳細に検討し、具体的で実行可能なタスクを設定していけば、ゴールは達成しやすくなります。私を例にとれば、「ブログ記事を書く」とざっくりしたゴールを設定して終わりにせず、「ToDoリストに関するブログ記事を書くために、調査とブレインストーミングを行う」など、より具体的なタスクを設定していくほうがゴールに達成しやすくなります。 タスクをガチガチに管理しすぎない:あまりに縛り付けてしまうと、状況の変化に対応できなくなります。「達成」を臨機応変なプランを作るためにうまく使ってください。 「インプリメンテーション・インテンション」を使って計画する:インプリメンテーション・インテンションは望ましい行動を自動化するプランニング戦略のひとつで、「if-then(もしこうならーこうする)」を計画するものです。「ある状況になったらある行動をとる」とあらかじめプランしておきます。インプリメンテーション・インテンションのif要素を作るためには、when(いつ)とwhere(どこ)を設定します。次に、how(どのように)を具体化することでthen要素が決定します。結局、人生の舞台監督はあなた自身なのです。 締め切りを早めに設定する:Dan Ariely氏の研究によると、早い締め切りを設定した生徒のほうが、遅い締め切りを設定した生徒よりも達成率が高かったそうです。 優先順位をつける:抱え込んでいる150のタスクの中から、最も重要なもの、切迫しているもの、興味があるもの、タスクの大小などで優先順位をつけてください。「今すぐやるべき」タスクを山ほど抱えているよりも、目の前のタスク5つに集中したほうがずっとうまくいきます。 負担を減らす:頭がいっぱいになると集中力もなくなります。150ものタスクを実行できない自分を許し、ToDoタスクを減らしてください。また、自分が一日にどれだけのタスクを達成できるのか、現実的に判断してください。 途中で何かしら邪魔が入って、ToDoリスト通りにはいかないものだということを覚えておく:あなたはきっと自分で思っていた以上のことを成し遂げられます。今日達成したことを記録し、祝杯をあげ、明日のタスクに取り組むモチベーションに変えてください。How to Master the Art of To-Do Lists by Understanding Why They Fail | Repair.com
Janet Choi(原文/訳:伊藤貴之)
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