さまざまな記事をフォロワーと簡単に共有できるウェブサービス「Buffer」の共同設立者Leo Widrichさんが、極度のストレスがかかる状況でも、ゆっくりと時間をかけると幸福や感謝が自分に返ってくると考察しています。Widrichさんの考える、「死にそうなほど多忙な日々でも、幸せな気持ちでいるための方法」とはどんなものかをご紹介しましょう。

私の住んでいるアパートの共同スペースでは、毎朝同じ女性が掃除をしてくれています。私はいつも彼女に笑顔であいさつをします。彼女はおそらく英語が堪能ではないので、いつも私にほほ笑み返します。年の頃は50代後半といったところでしょうか。とても痩せていて、彼女の顔を見ていると、長年苦労して働いてきたのだろうということが想像できます。

その日、早めに夕食をとって、香港の湾仔(ワンチャイ)から歩いて家に戻っていました。あと数分で家に着くという時に、毎朝掃除をしている女性がマクドナルドの制服を着ているのを見かけました。大きな、重たそうな箱をトラックに運んでいました。私はすぐにあることに思い至り、最初、とても申し訳ないような気持ちになりました。彼女ほどの年齢の人が、おそらく家計を支えるために、一日に2つも仕事を掛け持ちしているのです。とてもかわいそうに思いました。

数秒後、彼女はまた私の前を横切り、走ってマクドナルドに戻りました。年配の女性が走って仕事に戻る姿を見て、さらに彼女に同情しました。お店の前を通り過ぎる時、窓越しに中にいる彼女を見ると、彼女も私を見返していました。彼女はほほ笑んでいたのです。毎朝ほほ笑むのと同じように。

彼女の笑顔は、ある種、独特なものだというのがわかるでしょうか。いわゆる年配の女性の笑顔というのは、普通は穏やかでとても満たされた気分になるものです。私はそれを「おばあちゃんスマイル」と読んでいますが、彼女の笑顔はそれとはまったく違います。彼女の笑顔はまるで子どもみたいなのです。好奇心に満ちていて、少し無防備な感じの、明らかに子どもみたいな笑顔です。

私が彼女に抱いていた同情の気持ちはすぐに消えて、何だか自分がばかみたいに思えてきました。彼女みたいな、一日に2つもハードな肉体労働をしている人が、どうして毎日あんな子どもみたいな笑顔を私に向けられるのでしょう?■世界が変わるスピード・エクササイズ

私がマクドナルドの中にいる彼女に気づいたのは、パウロ・コエーリョのエクササイズをやっていたからです。パウロ・コエーリョが著書『星の巡礼』の中で、章の合間に数々のエクササイズを書いており、その中の「スピード・エクササイズ」というものやっていました。

エクササイズはとてもシンプル。歩く道を決め、その道を普段の半分のスピードで歩くだけです。これを20分間やります。このエクササイズは、私にとっては最初はとても難しいものでした。香港のような慌ただしい街では、誰もが忙しく通りを歩いているので、すぐにスピードをあげたくなってしまいます。しかし、最初の5分が過ぎたあたりから、良いリズムで歩くことができるようになりました。

そして、5分を過ぎた頃から、多くの変化が起こりました。まず、周りを見るようになりました。今までに見たことがないものが見えるようになりました。仕事を終えた人たちが、頭上の箱を汚いトラックに載せている小さな路地。赤信号を待っている通りの向こうにいる男性に、満面の笑みであいさつをしている女の人。この笑顔はまた違う笑顔、本当に好きな人に向けられる笑顔でした。それから、警備員の夜シフトの仕事を始めようとしているふたりが、まるでパーティーでもしているかのように楽しそうにおしゃべりをしているところも見ました。

20分の間、すべてが違って見えました。重くなっていた頭が、急に軽くなったように感じました。一歩一歩、歩くごとに、数グラムずつ減っていったかのようです。とても幸せな気持ちになりました。

■幸せになる習慣を作る

私は、自分を向上させる習慣作りが好きです。より良いワークフロー、より良い食生活、より良い運動の習慣、定期的なチームでの話し合いなど、さまざまな習慣を作ります。習慣を作るだけで、自分のやっていることがかなり良くなるような気持ちになります。

ここが興味深いところなのですが、私は実際に重要なものには習慣を作っていなかったのです。私には幸せになる習慣がありません。一瞬を楽しむ習慣もありません。すべての行動、すべての仕事を、とても慎重に選び、それを楽しむことに重点を置いています。しかし、純粋に幸せな気持ちや、一瞬一瞬を楽しむことに関して、私には習慣がないのです。

それはなぜでしょう?

おそらく、習慣化したものはより良くなるとわかっていても、抽象的なものにそれを当てはめるのはとても難しいように思えたからです。やらない方がいいとさえ思っていました。しかし私は、スピード・エクササイズのように幸せを感じる習慣を、一瞬を楽しむことだけを意識した習慣を、もっと探そうとしています。

なぜなら、自分でその習慣を見つけることが、幸せになるたったひとつの方法だからです

Slowing Down | Leo Starts Up

Leo Widrich(原文/訳:的野裕子)

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