上司への報告、営業トーク、プレゼンなど、ビジネスパーソンには、社内外で話す機会が無数にあります。
そうした場面で流暢に話す人を見て、「自分も、あんな感じにうまく話せれば…」と思ったことはありませんか?もし、「口下手」を自覚しているなら特にそうでしょう。「口下手」を克服できるなら、そうしたいとも考えているかもしれませんね。
それに対し、「口下手のままでも伝わる話し方を身につけたほうが、効率的だし、あなたの個性も発揮しやすい」と著書で述べているのは、博報堂でスピーチライターを務めるひきたよしあきさんです。
ひきたさんは、『博報堂スピーチライターが教える 口下手のままでも伝わるプロの話し方』(かんき出版)で、「話の目的を1語に集約する」といった秘訣の数々を記し、口下手でも相手が理解・納得できる話し方はできると力説します。
話が劇的に伝わる「3つのマイルストーン」
例えば、「3つのマイルストーン(標石)」。
話の伝え方がうまい人には共通して、話の流れの変化をわかりやすくする「マイルストーン」があるそうです。これがあるのとないのとでは、わかりやすさは全く別。3つあることで、「話は、口下手のままでも劇的に伝わるようになる」そうです。
以下、この「3つのマイルストーン」を詳しく紹介します。
報告のマイルストーンは「状況」「内容」「感情」
本書では、シチュエーションに応じてどうマイルストーンを使い分けるか、実践的な例が記されています。
一例として、社内で上司に報告をする場合。この時のマイルストーンは、「状況」「内容」「感情」となります。少し長くなりますが、模範例を引用しましょう。
【状況】(いつ・どこで・誰が・何を) 内田局長、すみません、今、よろしいですか。昨日、カシマル電気に行ったとき、宣伝部の山崎部長から、先日のプレゼン結果の報告を受けました。
【内容】(結論と対処法) うちの負けでした。勝ったのはB社です。 山崎部長にヒアリングしたところ、アイデアは我が社のほうがよかったのですが、B社が、カシマルさんが望んでいたタレントを持ってきたそうです。 しかし、うちのクリエイティブの評価は大変に高く、先々のことを考えまして、山崎部長とクリエイターとが話せる機会を設けます。
【感情】(相手と自分の気持ち) 内田局長、ご期待に添えず、申し訳ございません。私自身も残念です。昨日は、悔しくて眠れませんでした。しかし、ホームページのプレゼンもまだ残っていますし、今後は、事前に相手の情報をとれるようがんばります。
(本書099pより)
最初のマイルストーンは「状況」となっています。巷では「結論から述べよ」というフレーズをよく聞ききますが、ひきたさんは、「実生活では、多忙な相手にいきなり“結論”を話しても、きちんと伝わらないのが現状」と説きます。
ましてや、プレゼンに負けるというネガティブな報告。のっけから、この結論で切り出すと「唐突すぎてぶっきらぼうな印象」になります。そこで、「いつ・どこで・誰が・何を」の4Wから始めるわけです。
そして「内容」に移りますが、ここで「結論や理由、根拠、対処法」を相手に話します。言い訳を加えるのはNG。結論を、きっぱりと言い切るようにします。
最後のマイルストーンが「感情」。対面のコミュニケーションでは、結論に対する自身の感情表出が不可欠だそうです。これにもコツがあって、「相手への思い」→「自分自身の思い」→「未来への思い」の順序とし、未来への展望で明るく締めます。
こうしたルールをふまえて報告すれば、口下手であっても、話が散らかったりせず、相手の好印象も引き出すことが可能となります。
お詫びのマイルストーンは「共感」「責任」「善後策」
自分のミスによって謝罪・お詫びに追い込まれた局面でも、3つのマイルストーンは有効です。
以下の例は、大学の文化祭に納品する法被(はっぴ)の枚数を、誤って半分しか納品できないとわかった時の営業担当者のお詫びです。まず、陳謝の言葉を述べ、次のようにつなげます。
【共感】(痛みを理解する) 今、みなさまが「思いを1つにするための法被を、半分の学生の方しか着ることができないのですから、法被をつくる意味がない」とおっしゃられたこと。本当にそのとおりでございます。「それでもプロか!」というお怒りも、私がみなさまの立場でしたら同じように思います。一生の思い出に残る文化祭を台無しにしてしまったこと、本当に申し訳ございません。
【責任】(責任を明確にする) 原因は、何度かのメールのやりとりのなかで、作成する法被の数が変わったことを、私どもが最終確認しなかった点にございます。これはすべて私どもの責任です。
【善後策】(これからどうするのか) みなさまには大変ご迷惑をおかけしますが、法被は間に合わないものの、ハチマキと手ぬぐいなら、文化祭当日までにお届けすることができます。 これで法被の代わりになるとは到底思えませんが、私どもとしても文化祭が成功するよう、できるかぎり多くのハチマキと手ぬぐいを用意しますので、何とぞよろしくお願いいたします。この度は、誠に申し訳ございませんでした。
(本書134~135pより)
「共感」のマイルストーンの手前で、まず相手から「怒りを吐き出してもらう」ことを肝に銘じます。次に相手は「自分の怒りが本当にわかっているのか」という気持ちを抱きます。そこで、「私でも同じように感じたと思います。立場が逆だったら、私もあなたのように怒ったはず」などと「共感」の思いを伝えるよう、ひきたさんはアドバイスします。
山場となるのが、2つ目のマイルストーンの「責任」。ここでは、「失敗に至る過程は短く語り、責任のとり方を明確」にします。相手は感情的になっているので、失敗の過程を長々と説明したり、「そちらにも間違いはあった」的な指摘はリスク大です。
最後のマイルストーンとなる「善後策」で、今からどんな対策ができるかを話します。これは、相手の気持ちに応えるためにも、今後の関係改善のためにも必ず述べるものです。
本書では、3つのマイルストーンとしてこのほか、反論のマイルストーンの「確認」「受容」「提案」、相談のマイルストーンの「共感」「一体化」「提案」などがあり、場面に応じて使い分けることで、より伝わるコミュニケーションがはかれるようになっています。
経営者や政治家のように人前で話す機会が多い人でも、けっして流暢ではない、むしろ口下手な人は少なくありません。彼らは、口下手なりに、聞き手の心をつかむ術を心得ているわけです。
本書には、3つのマイルストーンだけでなく、口下手でも伝わる言葉の磨き方や心を動かすプレゼン・スピーチのコツなど、さまざまな内容が盛り込まれています。興味を持たれたら、読んでみてはいかがでしょうか。
Image: ASDF_MEDIA/Shutterstock
Source: 『博報堂スピーチライターが教える 口下手のままでも伝わるプロの話し方』(かんき出版)