量子情報科学入門 第2版
「量子情報科学」とは、ミクロな世界の基礎物理理論である「量子力学」に基づいて構成される情報科学であり、テレポーテーションや、絶対盗聴されない暗号、また超高速コンピュータなど、夢のような技術を実現する可能性を秘めている。物理学、情報科学、数学、さらには科学哲学などの多様な分野が融合し、発展している最先端の科学分野である。本書は量子情報科学を本格的に学ぶための最適な入門書であり、量子力学の基礎から始まり、量子回路、量子アルゴリズム、量子系の情報量、量子エンタングルメント、量子通信路符号化、量子誤り訂正、量子暗号といった主要テーマを網羅している。この分野の最適な定式化や応用について丁寧に解説されており、初学者から専門家まで幅広く学べる内容となっている。
第2版にあたり、より内容を充実させ、初学者のつまずきやすい点や理解しにくい部分に丁寧な解説を加え、内容を見直した。また、近年の量子アルゴリズムの発展に伴う記述の変更なども取り入れている。
0.1 古典情報科学から量子情報科学へ
0.2 量子情報科学のさらなる展開
0.3 量子情報科学から物理学へのフィードバック
0.4 量子情報処理の実現へ
0.5 本書の構成
第1章 量子ビット系の量子力学
1.1 はじめに
1.2 準備
1.2.1 概念の準備:物理系,状態,物理量の測定
1.2.2 表記法の準備:Diracの表記法I
1.3 量子ビット系
1.3.1 量子ビット系の状態と基底測定
1.3.2 量子ビット系の時間発展
1.3.3 量子ビット系の合成系――多量子ビット系
第2章 量子計算基礎
2.1 「計算」とは何か?
2.2 情報科学で必須となる数学記号・記法
2.3 古典回路モデル
2.4 量子回路モデル
第3章 量子アルゴリズム
3.1 Deutsch-Jozsaのアルゴリズム
3.2 Groverのアルゴリズム
3.2.1 アルゴリズムの解析
3.2.2 一般化:解が複数ある場合
3.2.3 振幅増幅法
3.3 Shorのアルゴリズム
3.3.1 周期発見問題に対する量子アルゴリズム
3.3.2 素因数分解問題に対する量子アルゴリズム
3.3.3 離散対数問題に対する量子アルゴリズム
3.4 その他の量子アルゴリズム
第4章 量子力学と量子情報理論の基礎
4.1 はじめに
4.2 準備
4.2.1 なぜ2つの定式化が必要なのか?
4.2.2 公理と要請について
4.2.3 Hilbert空間と線形演算子
4.2.4 Diracの表記法II
4.3 量子力学の公理系
4.3.1 量子系,状態,物理量の測定
4.3.2 時間発展
4.3.3 合成系
4.3.4 測定過程について
4.4 一般的な量子状態
4.4.1 状態の確率混合
4.4.2 状態の密度演算子による記述
4.4.3 密度演算子の性質
4.4.4 Blochベクトル
4.4.5 縮約状態
4.4.6 密度演算子の時間発展
4.5 一般的な測定
4.5.1 測定の一般的性質
4.5.2 POVM測定の実現
4.5.3 同時測定
4.5.4 状態識別
4.6 一般的な時間発展
4.6.1 時間発展の一般的性質
4.6.2 TPCP写像の実現
4.7 一般的な測定過程
4.7.1 操作的な視点から見る一般の測定過程
4.7.2 インストルメントの実現
4.8 第二の定式化のまとめ
第5章 量子系における情報量
5.1 はじめに
5.2 古典系における情報量
5.2.1 Shannonエントロピー
5.2.2 エントロピーと典型系列
5.2.3 同時エントロピーと条件付きエントロピー
5.2.4 条件付き確率と古典通信路
5.2.5 ダイバージェンス
5.2.6 f-ダイバージェンス
5.2.7 相互情報量
5.2.8 エントロピーの凹性と劣加法性
5.2.9 Fanoの不等式
5.3 量子系における情報量
5.3.1 von Neumannエントロピー
5.3.2 量子相対エントロピー
5.3.3 量子系における相互情報量
5.3.4 von Neumannエントロピーの凹性と劣加法性
5.3.5 トレース距離
5.3.6 忠実度とUhlmannの定理
5.3.7 忠実度の性質
5.3.8 エンタングルメント忠実度
第6章 量子エンタングルメント
6.1 はじめに
6.2 エンタングルメントの基礎
6.2.1 量子相関と古典相関
6.2.2 積状態と最大エンタングル状態
6.2.3 量子テレポーテーション
6.2.4 超稠密符号
6.3 エンタングルメントの定量化
6.3.1 局所操作と古典通信
6.3.2 エンタングルメントの基本単位
6.3.3 エンタングルメントの濃縮
6.3.4 量子データ圧縮
6.3.5 エンタングルメント希釈
6.3.6 純粋状態のエンタングルメント量
6.4 多者間のエンタングルメント
6.4.1 GHZ状態とW状態
6.4.2 確率的LOCC
6.4.3 多者間エンタングルメントの分類
6.5 混合状態のエンタングルメント
6.5.1 エンタングルメントの判定
6.5.2 混合状態のLOCC
6.5.3 エンタングルメント測度
6.5.4 生成エンタングルメント
6.5.5 相対エントロピー・エンタングルメント
6.5.6 エンタングルメント測度間の関係
6.5.7 エンタングルメント単調関数
第7章 量子通信路符号化
7.1 はじめに
7.2 量子仮説検定
7.2.1 量子仮説検定問題
7.2.2 演算子に関する補題
7.2.3 量子仮説検定の漸近理論
7.2.4 相対Rényiエントロピーの性質
7.3 量子通信路符号化
7.3.1 量子通信路を通したメッセージの伝送
7.3.2 古典–量子通信路符号化定理の証明(逆定理)
7.3.3 古典–量子通信路符号化定理の証明(順定理)
第8章 量子誤り訂正と量子暗号
8.1 はじめに
8.2 古典系での代数的な誤り訂正符号
8.2.1 問題の定式化
8.2.2 アンサンブルの下での評価
8.2.3 アンサンブルの例
8.2.4 漸近理論
8.2.5 秘匿性を伴った誤り訂正
8.3 量子誤り訂正符号
8.3.1 Pauli通信路
8.3.2 Stabilizer符号
8.3.3 CSS符号
8.3.4 漸近理論
8.4 量子秘匿通信への応用
8.4.1 環境系への通信路
8.4.2 秘匿性増強を行わない場合
8.4.3 秘匿性増強を行う場合
8.5 量子暗号(量子鍵配送)への応用
付録A 線形代数の基礎
A.1 記号の約束
A.2 Hilbert空間
A.2.1 ベクトル空間
A.2.2 Hilbert空間
A.3 線形演算子
A.3.1 線形演算子の導入
A.3.2 線形演算子の代数
A.3.3 随伴演算子
A.3.4 固有値と固有ベクトル
A.3.5 線形演算子の重要なクラス
A.3.6 スペクトル分解定理
A.3.7 演算子の関数
A.3.8 演算子のトレース
A.4 凸集合と凸関数
A.5 テンソル積Hilbert 空間
A.5.1 ベクトルのテンソル積
A.5.2 線形演算子のテンソル積
A.6 演算子についてのより進んだ話題
A.6.1 演算子の極分解
A.6.2 演算子のノルム
A.6.3 トレースノルム
A.6.4 行列単調関数
A.7 有限体上のベクトル空間
付録B 演習問題解答
参考文献
索引
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