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2025年1月7日(火)

2025とくほう・特報

訪問介護 報酬引き下げで危機

新潟・村上市 減収、さかのぼって支援

ガソリン代も支援

 自民・公明政府が2024年度から訪問介護基本報酬を2~3%引き下げたことを受け、訪問介護事業所の倒産は昨年、過去最多を更新しました。そうしたなか新潟県村上市(高橋邦芳市長、人口5万4000人)は、報酬引き下げによる減収分を昨年4月の改定時にさかのぼって独自に補助することを決めました。同市によると同趣旨の自治体補助は全国初です。(内藤真己子)


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(写真)「しっかりマスクしてね」。ショートステイに行く女性に声をかけるホームヘルパー(左)=2024年12月26日、新潟県村上市

 支援金は、引き下げ前の訪問介護基本報酬に政府が昨年の改定で本体部分の平均引き上げ率とした0・61%を上乗せした額と、引き下げ後の実績の報酬額との差額を市内17の訪問介護事業所に支払うもの。3月にも計年800万円(予算額)を支援します。

 またガソリン代の高騰が事業を圧迫しているのをカバーするため、燃料費支援金として車1台につき月3000円を支給します。さらに利用者宅まで7キロ以上かかる訪問介護に1回50円を上乗せします。事業規模は600万円です。

 支援策は次期介護報酬改定まで3年間の措置で、総額は4200万円。介護保険給付等準備基金を取り崩します。

 政府が訪問介護報酬引き下げを決めた昨年3月、市は訪問介護事業所にアンケート調査を実施。「廃止を検討している」などの深刻な声を受け、支援策の検討に着手しました。

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 9月議会で、日本共産党の野村美佐子市議が「経営者の報酬がほとんど出ていない事業所もある」と事業所の実態を告発。県内でも利用者宅が遠いところに独自の手当を出している自治体があることも示し、「市ができることはないか具体的に考えてほしい」と迫りました。

 答弁に立った高橋市長は「介護報酬に市がかさ上げをした時(国の)ペナルティーはないのか検証していた。介護報酬の(次期)改定の3年後を待たずに事業者支援に着手したい」と答弁しました。

 同議会では、国に引き下げ撤回を求める意見書を全会一致で可決。12月議会に支援金制度を盛った補正予算案が提出され可決されました。

削れる経費 底尽きた

事業所への独自支援「ありがたい」

訪問介護まで片道40分・除雪20分…でも事実上無報酬

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(写真)「おいしいねェ」。朝食を準備したヘルパーステーションゆめの榎本麻奈美さん(右)に話しかけながら朝食をとる女性=2024年12月26日、新潟県村上市

 新潟県村上市は県内最北の日本海に面した古い城下町です。師走の朝。鈍色の低い空から、みぞれが時折強く町家に打ち付けます。

 「おはようございます」。午前8時。ヘルパーが通りに面した古い家のガラス戸をたたくと、しばらくして高齢の女性が現れ、引き戸を開けてくれました。「寝てたでしょ」「んだ。寝坊してた。来たら起きるべと思って」。女性はヘルパーと冗談を交わしほほ笑み合います。

75分フル回転

 女性は89歳。物忘れがあり要介護1です。夫や同居していた息子に先立たれ独り暮らし。月の半分はショートステイで過ごし、後は訪問介護とデイサービスを使って自宅で暮らし続けています。「ヘルパーさんは助かります。ありがてぇよ」

 ショートステイに行かない日は、1日1回の訪問介護に生活が支えられています。ヘルパーは「生活援助」の75分間で、2食分の調理と配膳、服薬確認、掃除、洗濯、買い物までフル回転でこなします。冬場は石油ストーブの給油も必須。「ヘルパーさんいなば(いなければ)暮らせね。一人ではどうしたらいいかわかねもの」。女性はしみじみ語りました。

 人口減少が続く村上市。65歳以上高齢者が人口の4割に達します。高齢単身世帯や高齢者のみ世帯が全世帯の35・7%を占め、認知症の人も増加しています。市の高齢者アンケートでは、介護が必要になっても自宅で暮らしたいと答えた人が42・1%にのぼります。

 訪問介護の利用者は増加しています。23年度の利用実績は市の介護保険事業計画より1割上回っていました。訪問介護の充実が課題です。そこへ政府は昨年4月、訪問介護基本報酬を引き下げました。事業者はたちまち窮地に陥りました。

役員報酬ゼロ

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(写真)福田秀樹さん

 「引き下げはショックでした。そもそも赤字。削れる経費はもうありません。恥ずかしながら私の役員報酬を10月からゼロにしました」。約80人の高齢者に訪問介護を提供しているヘルパーステーション「ゆめ」を経営する「ユニゾンむらかみ」の福田秀樹社長は打ち明けました。

 4月から借りていた事務所を閉じ、自宅を事務所にして経費を節減しようとした矢先でした。「事業を畳む方が楽ですが、待っている利用者のことを考えたらできない」と福田さん。実際、昨年は職員不足で同市内の訪問介護事業所が一つ休止に。残された利用者を何人も引き受けました。

 同市は大合併で新潟県一広い自治体になりました。中心部以外は中山間地です。周辺部の利用者宅まで片道30、40分かかる場合もあります。遠方の利用者を断る事業所もあるなか福田さんの会社は訪問しています。

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(写真)㊤介護事業者と話し合う日本共産党の野村美佐子村上市議(右端)
㊦古い町家が並ぶ村上市内の商店街(いずれも2024年12月、新潟県村上市)

 雪に閉ざされる冬はさらに過酷です。私道や敷地内は除雪されません。「2、3日前も、利用者さん宅の玄関先に車を止め介護を終えて出てきたら、車が雪に埋もれていました。掘って脱出するのに20分以上かかりました」と福田さん。

 こうした長距離の移動や除雪の時間は、訪問介護基本報酬に実態として含まれていません。加算も不十分で、過疎地域の経営は不安定です。

 同じ建物内の住宅をヘルパーが次々回る住宅併設型の事業所の利益率が高く、訪問介護全体の利益率を上振れさせたのに、政府は一律報酬を引き下げました。また職員の処遇改善加算を引き上げたので全体でプラス改定だと強弁しています。福田さんは「数字のカラクリです。処遇改善加算で職員の賃金は上げましたが、事業所には残りません」と指摘します。

防衛費回して

 村上市の独自支援策を「ありがたいです」と歓迎する福田さん。「このままでは在宅介護は崩壊します。防衛費増強にかける財源を、もっとこちらに充てていただきたいと国に強く要望したい」と訴えます。

 日本共産党の野村美佐子市議は、「市が事業者の声を聞き、独自の支援に踏み出したことは心強く、心から歓迎します。引き下げ撤回の声は全国に広がっています。特に地方の実情を国は知ってほしい。3年待たずに見直すべきです」と語ります。

3年待たず 引き上げを

新潟・村上市長 高橋邦芳さん

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 訪問介護の基本報酬だけ下げられたと聞き、「なんで訪問介護だけ下がったのか? 事業所は大丈夫なのか聞いてくれ」と事業所へのアンケート調査を指示しました。そうしたら「もうやっていけない」「辞めねばなんねえ」と切実な回答が寄せられたのです。これは由々しき事態と危機感を持って対策の検討を指示しました。

 都市部では同じ建物内にある住居を次々とヘルパーが訪問し、利益を得る事業者があるようです。しかし村上市のような広域で中山間地を抱える地域ではそうはいきません。利用者の家まで片道10キロ以上かかる場合もあります。冬はヘルパーの仕事が除雪から始まる場所もあります。この時間は介護報酬の中で明確にされていません。そもそも都市部とは条件が違うのです。一律の引き下げに根拠があるとは思えません。

 支援にあたっては国が減らした介護報酬を自治体が上乗せしていいのか、考えました。だけど学校給食や子ども医療費は独自に応援していますね。それと同じだと決断しました。基金があったので取り崩してあてましたが、なければ一般財源を投入してでもやったと思います。昨年は人手不足で訪問介護事業所が一つ休止しています。介護資源を守らないとなりません。

 同時に、阿賀北地域の市町村長会議で問題提起し、3年後の改定を待たずに引き下げを見直すよう国に要望することに決まりました。それが全国市長会の要望事項にもなっています。

 国はぜひ地方の現状に目を向け、介護報酬の改定は3年後と固定せず、早期に引き下げを見直していただきたい。また訪問介護の移動距離の長い地方への手厚い支援を検討してほしいと思います。


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