水星磁気圏探査機「みお」の金星スイングバイ実施結果について
2020年(令和2年)11月4日
国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)と欧州宇宙機関(European Space Agency, ESA)は、2020年10月15日に実施した金星スイングバイ後の国際水星探査計画「ベピコロンボ(BepiColombo)※1」の水星磁気圏探査機「みお」および水星表面探査機MPOの軌道の計測と計算を行い、探査機が目標としていた軌道上を順調に航行していることを確認しましたのでお知らせします。
「ベピコロンボ」は、1度目の金星スイングバイを実施し、2020年10月15日(木)12時58分31秒(日本時間)に金星に最接近、高度10,721.6kmを通過しました(図1右)。金星スイングバイでは金星の重力を利用して約3.25km/sの減速を行い、目標としていた数値を達成しました。ESA(欧州宇宙機関)深宇宙ネットワーク局の探査機運用により、現在「みお」の状態は正常であることを確認しています。
金星スイングバイの前後では「ベピコロンボ」に搭載される多くの装置で観測が実施されました。電気推進モジュール(Mercury Transfer Module: MTM)に搭載されたモニタカメラ(MCAM)では最接近中に金星の姿が撮影されました(図2)。
「ベピコロンボ」の金星スイングバイにあわせて、現在金星を周回する唯一の人工衛星である金星探査機「あかつき」および地球を周回する惑星分光観測衛星「ひさき」との金星共同観測も実施されました(図1左)。日本の宇宙機3ミッション共同による惑星同時観測の実現は初めてとなります。スイングバイ前後では「あかつき」に搭載された紫外イメージャおよび中間赤外カメラによる金星撮像が1~2時間おきに実施され、太陽に照らされた雲の構造(紫外線)および雲表面の温度分布(中間赤外線)が観測されました(図3)※2。また、「ひさき」による金星高層大気の極端紫外線での分光観測が前後1週間にわたり行われました。
「みお」に搭載された科学観測装置でも太陽風および金星周辺プラズマ環境の観測を行いました。図4は「みお」による2020年10月15日3時~6時(UTC)の観測結果です。プラズマ粒子観測装置では、電子の分布が太陽風中と金星周辺で異なる様子や、金星由来とみられるイオンの存在(プラズマシート)が観測されました。 プラズマ波動・電場観測器では、水星到着までの限定的な観測制約のもとでも、信号を捉えられることが確認されました。金星周辺のプラズマ環境についてはまだ解明されていない点も多いため、今回の「みお」による観測データも貴重なものとなります※3。
今回の3ミッション共同観測により金星の大気から周辺のプラズマ環境の同時観測が実現しました※4。今後それぞれの観測データを組み合わせた解析がさらに進むことで、これまで得られなかった金星の新たな成果の創出が期待されます。
「ベピコロンボ」は今後定期的な機能確認に加えて惑星スイングバイ時や惑星間空間巡航時の科学観測運用を実施していく予定です。次回スイングバイは2021年8月10日頃に2回目となる金星スイングバイを実施予定で、最接近高度は約550kmを計画しています。
図1:金星スイングバイ前後における「ベピコロンボ」および「あかつき」、「ひさき」の位置関係
図2:スイングバイ最接近直前にMTM搭載MCAMが捉えた金星の姿(Credit: ESA/BepiColombo/MCAM)
図3:「あかつき」搭載紫外イメージャおよび中間赤外カメラが2020年10月15日13時頃(日本時間)に捉えた金星の姿(Credit: Planet-C Project Team)
図4:「みお」搭載プラズマ粒子観測装置およびプラズマ波動・電場観測器が捉えた金星スイングバイ時の観測結果
※1 国際水星探査計画「BepiColombo」(ベピコロンボ)
宇宙航空研究開発機構(JAXA)担当の水星磁気圏探査機「みお」(MMO:Mercury Magnetospheric Orbiter)と欧州宇宙機関(ESA)担当の水星表面探査機(MPO:Mercury Planetary Orbiter)の2つの周回探査機で水星の総合的な観測を行う日欧協力の大型ミッションです。2つの探査機を搭載したアリアン5型ロケットは、2018年10月19日(金)22時45分28秒(現地時間)(10月20日(土)10時45分28秒(日本標準時))に、フランス領ギアナのギアナ宇宙センターから打ち上げられました。ロケットは正常に飛行し、打上げから約26分47秒後に両探査機を正常に分離したことを確認しました。
BepiColomboは、約7年かけて水星に到着し、世界初となる2機の探査機の周回軌道への投入を行います。役目を終えた電気推進モジュールを分離した状態で水星周回軌道投入を行い、まず「みお」を投入し、その後MPOを投入し、科学観測を行います。
※2 「あかつき」観測についての補足説明:
紫外線の画像は、13時01分と13時05分に撮影された2種類の金星観測データを用いて、疑似カラー合成した画像です。太陽光の反射を観測しているので昼半球のみ明るく、その濃淡は雲を作る材料物質の量(暗いと多い)を示しています。中間赤外線の画像は、13時08分に撮影されたデータにサーモグラフィのように温度分布を色付けした画像です。昼夜問わず雲頂の温度を示しています。(参考:「あかつき」プロジェクトサイトhttps://akatsuki.isas.jaxa.jp)
※3 「みお」観測についての補足説明:
金星は地球と異なり磁場をもたない惑星であり、太陽風が惑星に直接作用して衝撃波面や電離圏尾部領域を形成しています。電子のエネルギー分布を見ると安定した太陽風中に比べて衝撃波面より内側では金星との相互作用により複雑な分布を示していることがわかります。またイオンは太陽風中ではほぼ直線状に進むため「みお」を囲う太陽光シールドに遮蔽されて検出されませんが、衝撃波面より内側では複雑な運動をみせるため、一部がシールド内に到来して検出することができます。こうした金星電離圏尾部領域でのプラズマ観測はまだ例が少ないため、磁場をもたない天体における太陽風の影響を理解する上で貴重な観測結果となります。また、プラズマ波動・電場観測器で得られた現象は、衝撃波面や境界領域の通過に伴って発生している可能性があり、今後の解析で、その起源などを明らかにしていく予定です。
※4 「ベピコロンボ」「あかつき」「ひさき」共同観測についての補足説明:
こちらの参考記事をご参照ください。(http://www.isas.jaxa.jp/topics/002466.html)