デジタル人材の育成
2024年8月31日、SHIBUYA QWSにて「未踏オフィスアワー」を開催しました。
このイベントは、未踏事業に女性の仲間を増やしたい!というOGの想いから企画がスタート。
女性限定イベントとして開催し、イベント当日は、会場・オンラインともに、参加者の熱気で包まれました。
このレポートでは、座談会の様子をお届けします。
今回の登壇者の皆さんやプログラムは募集時のご案内チラシからご覧ください。
座談会の様子は、動画でもご覧いただけます。
山本愛優実(やまもとあゆみ)さんの進行でイベントスタート。今回のイベントの趣旨について企画者の1人である周さんからお伝えします。
山本:
皆さん、今日は未踏オフィスアワーにご参加いただきありがとうございます。このイベントは、未踏OGの私たちが企画し、特に女性の方々に向けて未踏事業(以下「未踏」)というすばらしいプログラムを広めたいという思いから始まりました。今日のテーマは『Hello Worldから未踏まで』。登壇者の方々が、未踏での経験やプログラミングとの向き合い方についてお話ししていきます。それでは、まず周(しゅう)さんから、このイベントの趣旨を説明していただけますか?
周:
ありがとうございます。皆さんも感じているかもしれませんが、IT業界はまだまだ女性が少ないですよね。未踏も例外ではなく、女性の応募者は多くはありません。山本さんと出会ったときに、もっと女性が増えたら、未踏もIT業界全体ももっと楽しくなるんじゃないか、という話をして、今回のイベントが実現しました。私も未踏に応募するまで時間がかかりましたが、もっと早く挑戦していれば良かったなと思っています。今日のイベントで皆さんに持って帰ってほしいことは、『ゼロからのものづくりは楽しい』ということと、『今年こそ未踏に応募してほしい』という2つです。
未踏のプログラムについてお話しします。
未踏には3つのプログラムがあり、最大288万円のプロジェクト推進費用が支給される「未踏IT人材発掘・育成事業(以下「未踏IT事業」)」や、1,500万円規模のプロジェクト推進費用が支給される「未踏アドバンスト事業」があります。スケジュールとしては、3月頃までに応募して、審査期間の後に8~9か月間じっくり自分が作りたいものを、いろんな人の力を借りながら形にしていくプログラムです。未踏はすばらしいチャンスなので、来年度の応募をぜひ検討してください。
未踏事業について詳細が気になる方は、リンクをご覧ください。
続いて、座談会がスタート。
今回の未踏オフィスアワーのテーマ『Hello Worldから未踏まで』のとおり、登壇者の皆さんのプログラミング経験やこれまでの道のりが語られます。
山本:
では、座談会に移りましょう。今日は未踏オフィスアワーのテーマ『Hello Worldから未踏まで』に沿って、皆さんのプログラミング経験やこれまでの道のりについて伺っていきます。
まずは私から簡単に自己紹介をさせていただきます。私は2022年度未踏アドバンスト事業の修了生で、「感情共有を促進する心拍フィードバック装置」の開発を行っていました。現在は株式会社e-lamp.の代表として慶應大学発スタートアップとしてプロダクトを販売しています。(写真の耳につけているプロダクト)
私は父親がエンジニアで、子供の頃プログラミングを教えられて苦手意識が芽生えたのですが、大学でプログラミングを学ぶようになって、何かを作れるのがおもしろいと思いもありつつ、プロダクトを作っていました。現在のプロダクトは2020年に思いついて、ちょっとずつプロトタイプを作って今に至っています。本日は皆さんよろしくお願いいたします。
大島:
私は2010年度未踏ユースで採択されました。今はカリフォルニアでソフトウェアエンジニアとして仕事をしています。また、カリフォルニアのナパ近郊のサンセットセラーズというワイナリーでワインも作っています。未踏では当時、整形外科で使える骨の動きを可視化するソフトウェアを開発しました。
石戸谷:
私は現在お茶の水大学の情報科学科4年生で、一般社団法人Dots to Codeの代表理事を務めております。
2023年度未踏IT事業で、「あんしん夜道」というアプリを開発しました。このアプリは、夜道を歩く女性に安心感を与えるためのもので、現在も改良を続けています。プログラミングを始めたのは大学に入ってからで、それまでは全く経験がありませんでした。大学1年生から授業で習い、2年生のときに初めて参加したハッカソンがきっかけでものづくりにハマり、翌年の3月に未踏に挑戦しました。
神谷:
私は2023年度未踏アドバンスト事業で「グッズ交換アプリケーション(現在の「トレポータル」)」を開発しました。もともとK-POPのトレーディングカードを集めることが趣味で、交換の不便さを解消するためにアプリを作りたいと思ったのがきっかけです。大学では機械工学を専攻していましたが、今は休学してアプリ開発に専念しています。 趣味の鳥サークルでWebページを作ることになってプログラミングの勉強を始めました。その後インターンなどの経験を経て、東京大学内のSFPというプロジェクトに応募して、自分の納得するプロダクトができたので未踏へ応募しました。
山本:
それでは皆さんにお伺いしますが、未踏に応募したきっかけは何だったのでしょうか? まず、大島さんからお願いします。
大島:
私が未踏に応募したのは、高校生のときから憧れだったメンターの先輩が未踏の修了生だったからです。大学に入ってからその道を追いかけるように応募しました。当時のプログラミング力は、参考にならないのですが、HTMLとJavaScriptを書いて、それでホームページのコンテストで全国1位になるくらいは強かったです。ただ、(未踏応募の)一度目はオーディションに進んだものの不採択になり、とても悔しかったです。でも、その経験があったからこそ、自分の専門性をもっと深めて再挑戦することができました。諦めなくてよかったと思っています。
山本:
私は2022年度に未踏IT事業と未踏アドバンスト事業のどちらも応募して、未踏アドバンスト事業だけ受かりました。意外とどちらかだけ受かるケースがあるので、チャレンジってめちゃめちゃ大事かなと思います。
石戸谷:
私は大学1年生の頃、性差別的な発言を受けたことがきっかけで、ジェンダーギャップに対して問題意識を持ちました。ジェンダーのイノベーションという概念も知り、ITでジェンダーギャップを解消できるかもしれないと思い、開発歴ゼロのままハッカソンに参加して自分のアイデアを形にしました。ハッカソンのチームメイトが未踏を知っていて、そこから応募に繋がりました。応募時点では技術力ではなく、ジェンダーギャップを解消したい思いやそのためのヒアリングを強みにして書類を作成したのですが、懸念となる技術面では、応募から面接までに開発を重ねて、このプロダクトをしっかり作って世に出したいという気持ちを伝えました。
神谷:
私の場合は、自分自身がK-POPのオタクでトレーディングカードの交換をTwitter(現X)でやりとりしているのが不便すぎて、プラットフォームを自分で作った方が早いと思ったのがきっかけです。未踏に応募する前に、東大のSFP(Summer Founders Program)に参加してプロトタイプを作りました。このプロダクトを自分自身も含めて広まってほしいという気持ちで本郷テックガレージの方に相談したところ、未踏アドバンスト事業への応募に向けて背中を押していただきました。ハードではなくてソフトウェアなので、未踏らしいプロジェクトなのかというところが不安に思っていました。
山本:
どんな方が通るのかという点、年齢でいいますと未踏IT事業は年齢制限がありますが、未踏アドバンストは特に年齢制限がなく、大学生から社会人まで様々なバックグラウンドをお持ちの方がいらっしゃいますね。
山本:
未踏に参加して一番良かったことはなんでしょうか? また、それがその後のキャリアにどのように影響を与えましたか?
大島:
未踏に参加して良かったことは、自分の作っているものに自信を失った経験です。例えば、落合陽一先生などの周りの天才やすごい人を目の当たりにして、自分がどうしてこんなに無力なのだろうと感じてショックを受け、転機になりました。もしそんなクリエータが一緒にいたときに、自分はどうやってものを作るか想像していただきたいのですが、それでも作る根性を出すっていうのがきっと馬力になると思います。
キャリアの面では、当時未踏の同期だった方がアメリカで働いていたり、OBの先輩に声をかけてもらったり、そういうちょっと変だったりいい意味でクレイジーな先輩たちに囲まれて、自分も海外に飛び出す勇気をもらいました。普通じゃなかったり、既定路線じゃなくてもやってみようという刺激をいっぱいもらっています。
石戸谷:
私も同じく同期とのつながりは大きな財産で強い魅力だと思います。みんな全く違う分野の人たちが集まっているのですが、1年の未踏の期間を経て、すごく仲良くなりました。今も、コラボレーションをしたりする関係性が繋がっています。
もう一つ、未踏のコミュニティが1年間支えてくれるのがすごく良かったです。私のプロジェクトはたくさんの女性にヒアリングをしており、その結果方向性に迷って、大きくピボットして不安になる時期がありました。しかし、ピボットという大きな決断をする勇気を評価していただいたり、このまま突き進んでほしいという支える言葉やアドバイスをいただいたりして、無事未踏の期間を走り抜けることができました。
山本:
大島さんは未踏応募時と今のプロジェクトが違っていますが、ピボットについて怖さや意思決定の過程を教えていただけますか?
大島:
最初、未踏でやったプロジェクトで起業しないことにプレッシャーはありました。ただ、自分は人と出会うことや刺激を受けることを一番重要視しているので、そのときおもしろそうと思うものを見つけるまではいっぱいエネルギーをためて、ぴょんと飛び込むことを繰り返して道を外れても大丈夫なんだと思いながら、ピボットをしています。
未踏期間中は、PM(プロジェクトマネージャー)へ相談して模索しながら取り組んでいました。ただ、そのプロダクトを続けられるかというと、そのとき養ったスキルや悩んだ苦労などを別の開発でも役立てられると思って、開き直って別のことをやっています。
神谷:
私も未踏に参加して、プロトタイプレベルだった交換プラットフォームを、実際にユーザーに使っていただいてアップグレードできたのが一番大きいです。自分の持っている知識だとできないこと、自分が勉強すると時間がかかってしまうことがたくさんありましたが、詳しい方に教えていただきサポートいただきました。未踏期間中に無事登記して会社を作ることもできましたし、アプリを出してユーザーを作るという流れもいろいろと作ることができました。
現在のキャリアとしては、大学院の2年生で就職内定もあったところで、この事業を進めるため内定を辞退して学校を休学しています。家族や周囲の理解を得るためにも、がんばって成果を出していかないといけないと思っています。
山本:
周囲の理解、大事ですね。
山本:
未踏に参加する中で、一番大変だったことは何ですか?
大島:
正直、周囲の優秀な人たちに対する嫉妬心が一番大変でした。未踏にはスーパークリエータや天才がたくさんいますが、自分もスーパークリエータ(の認定)が欲しいけど取れなかったらどうしよう、目立つプロダクトを作ったほうがいいかなど、自分のエゴと折り合いをつけるのは辛かったし大変でした。
石戸谷:
私はアプリケーションの開発が滞ってプロジェクトがなかなか進まなかった時期のミーティングが辛かったです。他のチームと比べて落ち込んでしまうこともありましたが、チームメイトと支え合って乗り越えられました。
大変だった点としてもう一つ、チームワークも大事なので、すごく信頼できる仲間と一緒に応募するか、個人で自分を信じて応募するか考えたほうが良いかなと思います。
神谷:
私も最初のキックオフのときに、周りのすごい人に劣等感を感じていました。また、アプリを開発している最中に、コードがどんどん複雑になってしまい、どこかを修正すると他の部分が壊れてしまうという状況に苦労しました。最終的にはリファクタリングすることで乗り切りましたが、その過程は本当に大変でした。
山本:
未踏事業に応募するまでどのような準備をしましたか?
大島:
自分が未踏に応募するときに考えていたのは、他の誰でも思いついてしまうアイデアでも、例えば何かの専門性を自分が持っているならば、それに関して作るのは自分が一番最強だって信じて応募するということです。そのときはたまたま自分が整形外科などの共同研究をずっとやっていたので、膝関節に関しては知識があるし、その医療の知識とプログラミングスキルだったら、日本にはかぶる人は絶対いないだろうと思いそれで応募しました。
神谷:
準備に最低限必要だと考えていたものは、プロトタイプと、一定のユーザーインタビューなど自分しか持っていないデータの蓄積、書類とあとは面接用のスライドでした。本郷テックガレージでプロトタイプを作ったり、未踏に通った先輩にアドバイスやフィードバックをいただいてブラッシュアップしました。
石戸谷:
お二人がおっしゃった、独創性というものを作るために、ユーザーインタビューや、プロトタイプの作成もしました。私自身が未踏に応募したときに、功績としてハッカソンで賞をもらったとしか書けなかったんですね。もうひたすらジェンダーギャップを解消したいという熱い思いをたくさん書きました。
山本:
キャリアの質問で、未経験からエンジニア転職を目指している場合、どんなファーストキャリアがいいでしょうか?
大島:
自分の場合は未経験ではなく、趣味でコードを書いて作ったりすることをずっと続けてきました。なので、まずはぜひ諦めないで毎日コードを書いてみることが大事だと思います。
そして個人的には、プログラミングスキルだけではなくて、企画からどんな風に作るんだろうか? どんなものを作れば人が喜ぶんだろうって考えるようなところに関われるポジションを目指すのがいいんじゃないかと思っています。
山本:
それでは最後に、これから未踏に挑戦しようとしている方々にメッセージをお願いします。
大島:
未踏で嬉しかったこと、悔しかったこと、ムカついたこともたくさんありますが、その刺激が今のキャリアや自分を作っています。これから同じように刺激を受けたかったり、もっといろんなものを自由に作れたらいいなと思う人は絶対未踏に向いていると思います。
石戸谷:
未踏自体がすごく特殊なプログラムで、自分が今まで全く置かれたことのない、コンフォートゾーンから抜けたところに急に追いやられるので、最初はすごく大変だと思いますが、その分1年間ですごく成長できたと実感しました。ぜひ参加していただきたいですし、IT分野で何かを一つ取り組んだことがある仲間ができるのはすごく心強いです。
神谷:
良かった点は、今に繋がる全てですが、プロトタイプだったものをしっかりと社会に出せるようなサービスに切り替えられた点です。未踏の方々のサポートと仲間の存在もありました。自分のサービスを作って世の中に出したい人は、すごく未踏に向いていると思います。
座談会の後は、今後のOGによるサポートプログラムのご案内や、個別相談会がありました。今後、OG有志による支援プログラムが参加者向けに開催される予定です!
また来年には、未踏応募者向けの未踏オフィスアワーの開催を計画しています。
詳細はIPAのウェブサイトでお知らせします。ぜひご参加ください。
IPA デジタル基盤センター イノベーション部 未踏オフィスアワー事務局