サイバーセキュリティに関するフレームワークとISMS ~第2回 CSC20とTop35 Mitigation Strategies

今回ご紹介する2つのフレームワークは、第一回で登場したフレームワークとは異なり、対策の優先度付けがされているのが特徴です。また、初版公開以降、すでに1回以上更新されており、完成度が向上していると考えられます。
それではどの対策の優先度が高いとされているのでしょうか?その内容を見ていきましょう。

「Critical Security Controls for Effective Cyber Defense」(CSC20)とは?

「Critical Security Controls for Effective Cyber Defense」(効果的なサイバー防御のための重要なセキュリティコントロール)は、Version6.0が2015年10月に米国のCenter for Internet Securityから公開されています(以前はSANS Instituteから公開)。これは、サイバー攻撃に対する重要なセキュリティ対策を20のコントロールに分類・優先度付けをしたもので、極力自動化された技術的対策が主体となっています。

No. コントロール No. コントロール
1 許可および無許可の機器のインベントリ 11 ファイアウォールやルーター、スイッチなどのネットワーク機器のセキュアな構成
2 許可および無許可のソフトウェアのインベントリ 12 境界防御
3 モバイル機器、ラップトップ、ワークステーション、サーバにおけるハードウェアおよびソフトウェアのセキュアな構成 13 データ保護
4 継続的な脆弱性診断と改修

14 知る必要性に基づいた、管理されたアクセス
5 管理者権限のコントロールされた使用

15 無線のアクセスコントロール
6 監査ログの保守、監視、および分析

16 アカウントのモニタリングおよびコントロール
7 電子メールとWebブラウザの保護 17 不足を補完するためのセキュリティスキル評価および適切なトレーニング
8 マルウェア防御

18 アプリケーションソフトウェアのセキュリティ
9 ネットワークポート、プロトコル、サービスの制限およびコントロール 19 インシデント対応と管理
10 データ復旧能力 20 ペネトレーションテストおよびレッドチームによる訓練

引用:「Critical Security Controls for Effective Cyber Defense」(Center for Internet Security)
※邦訳版は公開されていません。

それぞれのコントロールは、いくつかのサブコントロールに分かれており、サブコントロールは全部で150にのぼります。
例えば、「継続的な脆弱性診断と改修」は以下のようにブレークダウンされています。

20のコントロールは、ほぼすべてがISMSの管理策に関係していると考えられますが、ISMS管理策との関連を示す資料は公開されていません。
なお、当文書の「AppendixC: The NIST Framework for Improving Critical Infrastructure Cybersecurity」を参照することによって、20のコントロールがNIST「重要インフラにおけるサイバーセキュリティフレームワーク」(第一回を参照)のどのカテゴリーに対応しているのかを確認することができます。

「Strategies to Mitigate Targeted Cyber Intrusions」(Top35 Mitigation Strategies)とは?

「Strategies to Mitigate Targeted Cyber Intrusions」(標的型サイバー侵入の軽減戦略)は、2014年2月に2014年版がオーストラリアの国防信号局から公開されています。標的型攻撃を主な脅威と想定したセキュリティ対策を、優先度順に35のカテゴリーで示したものです。

No. 軽減戦略 No. 軽減戦略
1 アプリケーションのホワイトリスティング 19 全てのドメインにおけるWebドメインのホワイトリスト化
2 アプリケーションへのパッチ適用

20 なりすまし電子メールのブロック
3 OSの脆弱性へのパッチ適用

21 ワークステーション及びサーバの設定管理
4 管理者権限の制限 22 ヒューリスティックな手法と自動化したインターネット型のレピュテーション・レーティングを用いたアンチウイルスソフト
5 ユーザーアプリケーション設定の要塞化 23 ワークステーションからインターネットへの直接接続の拒否
6 自動化された動的解析

24 サーバ・アプリケーション設定の要塞化
7 OSに対する一般的なexploitの軽減メカニズム

25 強固なパスワードポリシーの強制
8 ホスト型のIDS/IPS

26 可搬型及び携帯型メディアの管理
9 ローカル管理者権限の無効化

27 SMBおよびNetBIOSへのアクセス制限
10 ネットワークの分割及び分離

28 ユーザ教育
11 多要素認証 29 ワークステーション上のMicrosoft Officeのファイルの検査
12 外部から入ってくるネットワークトラフィックを遮断するソフトウェア型のアプリケーション・ファイアウォール 30 シグネチャ型のアンチウイルスソフト
13 外部へ出ていくネットワークトラフィックを遮断するソフトウェア型のアプリケーション・ファイアウォール 31 電子メールサーバ間のTLS暗号化
14 一時的に仮想化かつサンドボックス化された信頼できる運用環境 32 IPアドレスによってWebサイトにアクセスする試みのブロック
15 成功又は失敗したコンピュータイベントの一元化かつ同期されたログの取得 33 ネットワーク型のIDS/IPS
16 許可された又は遮断されたネットワークイベントの一元化かつ同期されたログの取得 34 ゲートウェイのブラックリスト化
17 電子メールコンテンツのフィルタリング

35 ネットワークトラフィックのキャプチャ
18 Webコンテンツのフィルタリング

   

引用:「Strategies to Mitigate Targeted Cyber Intrusions」(オーストラリア国防信号局)
※邦訳版は公開されていません。

それぞれの軽減戦略は、さらに下位に細分化されてはいませんが、軽減策の説明が記載されています。例えば、「アプリケーションへのパッチ適用」は以下の説明が記載されています。

35の軽減戦略も、ほぼすべてがISMSの管理策に関係していると考えられますが、ISMS管理策との関連を示す資料は公開されていません。なお、35の軽減戦略は、サイバー攻撃の中でも標的型攻撃を主な脅威と想定した対策であることに注意が必要です。

まとめ

これまで見てきた4つのフレームワークを並べると、以下の違いが見られます。(2016年7月現在)

№ フレームワーク 対象組織 概要 公開時期
1 サイバーセキュリティ経営ガイドライン 大企業及び中小企業(小規模事業者除く)のうち、ITに関するシステムやサービス等を供給する企業及び経営戦略上ITの利活用が不可欠である企業 サイバー攻撃から企業を守る観点で、経営者が認識する必要のある「3原則」、及びCISO等に指示すべき「重要10項目」をまとめたもの。
付録に技術的対策の例も掲載。
2015年12月
(経済産業省、IPA)
2 Framework for Improving Critical Infrastructure Cybersecurity(重要インフラのサイバーセキュリティを向上させるためのフレームワーク) 重要インフラに携わる企業 サイバーセキュリティの成果を達成するための対策として、「特定」、「防御」、「検知」、「対応」、「復旧」の5つの機能や、それらの機能を細分化した22のカテゴリーについて示したもの。 2014年2月
(米国国立標準技術研究所)
3 Critical Security Controls for Effective Cyber Defense(効果的なサイバー防御のための重要なセキュリティコントロール) (対象を限定していない) サイバー攻撃に対する重要なセキュリティ対策を20のコントロールに分類し、優先度付けをしたもの。それぞれコントロールのサブコントロールも優先度付けがされている。 Version6.0
2015年10月
(Center for Internet Security、SANS Institute)
4 Strategies to Mitigate Targeted Cyber Intrusions(標的型サイバー侵入の軽減戦略) (対象を限定していない) 主に標的型攻撃を対象とした35のセキュリティ対策を優先度順に並べたもの。 第2版
2014年2月
(オーストラリア国防信号局)

4つのフレームワークの位置づけを見ると、サイバーセキュリティ対策としてやるべきことの全体的な整理に適しているのは、「サイバーセキュリティ経営ガイドライン」及び、「重要インフラのサイバーセキュリティを向上させるためのフレームワーク」と考えられます。
一方、具体的な対策の検討には、「Critical Security Controls for Effective Cyber Defense」及び「Strategies to Mitigate Targeted Cyber Intrusions」が参考にできます。また、「サイバーセキュリティ経営ガイドライン」の付録及び付録に記載の参考文献も対策の検討に役立ちます。

実際には、個々の組織によって事業やシステム構成等の状況は大きく異なるため、守るべき資産やリスクを正確に把握したうえで対策の検討・導入を進めることが望まれます。

Writer Profile

セキュリティ事業部
セキュリティコンサルティング担当 チーフコンサルタント
戸田 勝之



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