柱状節理クッキー、斜交層理パイ!?「ジオ菓子」を伊豆半島から届ける謎の人物に迫る

伊豆半島で実際に見ることができる地形を、お菓子で作った「ジオ菓子」。 柱状節理、枕状溶岩、有孔虫化石などさまざまな風景を、クッキー、パイ、ヌガーなどお菓子で表現しているジオガシ旅行団の鈴木さんにお話しを伺った。

 

一見、石にしか見えないこの物体、実は柱状節理を模したクッキーなのだ。

伊豆半島で実際に見ることができる地形を、お菓子で作った「ジオ菓子」だ。

柱状節理、枕状溶岩、有孔虫化石などさまざまな風景を、クッキー、パイ、ヌガーなどお菓子で表現している。

 

 

▲本物の柱状節理と鈴木さん

 

制作しているのは、ジオガシ旅行団の鈴木さん。

ジオ菓子作りだけでなく、認定ジオガイドを取得しガイドツアーを実施したり、ジオパークのアドバイザーをしていたり、あらゆる形式で大地の面白さを伝えている。

そんな鈴木さんにジオ菓子のことや大地の魅力をうかがってきた。

 

 

地層はタイムカプセル

 


―いつからジオ菓子を始めたんでしょうか

 

2012年1月からなので、今年で11年目です。

それまで渋谷に住んで仕事をしてたんですが、南伊豆に引っ越してから、ジオガシ旅行団を結成しました。立ち上げは2人でしたが、経営が難しく今は一人でやってます。

伊豆半島の真ん中あたりで生まれ育ったんですが、引っ越した南伊豆には誰も知り合いいなかったし、地質の事をぜんぜん知らなかったですね。

 

もともと学生時代から「いずれ伊豆に戻って、自然を生業にしたい」と思ってて、手に職をつけるために美術大学に通って、修行の場として東京に出ました。

子どもの頃は、隣の家まで1kmあるような環境で生まれ育ちまして。森の中で一人風の音を聞いて涙流すような、どうかしてる子どもでした。

 

―風の音で涙!?敏感すぎる子どもですね。移住後はジオ菓子一本だったですか


いえいえ。移住してすぐの頃は、地元のケーブルテレビでバイトしてました。

地元の最新ニュースや人脈に触れるいい機会になりました。
もともとデザインの仕事をしていたので、フリーランスでデザイン業務や商品開発もやってましたね。

 

ーなにがきっかけで、地質に興味を持ったんですか


ジオガイドをしていた友だちから説明を受けて、伊豆の景色の美しさには理由があるんだって知ってからですね。

地層ってタイムカプセルなんですよ。

地層を観察すると「細かい砂が堆積してる。火山灰が積もったんだな」「砂のなかに大きな岩が埋まってる。最寄りの火口から火山弾が飛んできたのかな。」って、火山爆発からの一連のストーリーなんかを、当時にタイムスリップして楽しめます。

 

普通、地層は古いものが下で新しいものが上に積み重なってという順番なのですが、地震や地滑りといった地球のイベントで、地層がひっくり返ってることもある。

一瞬に積もったかもしれない厚い土石流の堆積物があったり、堆積するのに何年かかったんだろうという砂岩の地層があったり、そこに様々な模様がまた美しくて。でもそれらには全てそうなった理由がある。
なんか、地球が出してる壮大なクイズみたいだなって感じたんです。

 

―地層から、地球のストーリーを読み解くの楽しそう!

 

「この面白さ、人に伝えなきゃダメだ!」って感じて。
どうやったら、自分ごととして面白く思ってもらえるかを考えましたね。
東京に住んでた頃は、広告代理店でアートディレクターをしていたんです。
たとえばテーマパークの広告を打つとしたら「クリスマスに来て欲しい」というニーズがあって、今回のターゲットは若いカップルって定めます。

「若いカップルはどういうときにテーマパークに来たくなるの?」「テーマパークのホテルに泊まっちゃおうよ、ってなるのはどういうシチュエーションなの?」といったことを考えて、ストーリーを持たせて、ターゲットの人生に沿わせて広告を作るんです。

広告におけるコミュニケーションデザインのための様々な手法があるのですが、その対象がクライアントの案件から地層に変わっただけなのです。

 

―なるほど、ストーリーの積み重ねが地層になるわけですね


広告では「北風と太陽」の太陽であれるよう心がけていました。

太陽が暖かくして服を脱がせたように、いかに自分から興味を持ち自分ゴトとしてもらうか。
地質って、興味ある人が圧倒的に少ないんですよ。
「伊豆の景色はキレイだよね、実はこういう理由があってね……」なんて言いながら
さっきみたいな説明をホックホクでニコニコしながら話すんですけど、すぐに「聞いてねえな、これ…!」って、表情されちゃって(笑)
どうしたらいいかなって考えて、それで自然な流れでジオ菓子に辿りつきました。
伝えたい対象が全人類だったので、誰もが行う行為「食べる」にいきつきました。食べるって体験は受け入れてもらいやすいですし。

 

 

石は美味しそう。口に入れたい衝動がある

 

―ジオ菓子作って、伝わり方変わった?


日本火山学会でジオ菓子を見せたら、研究者とか専門家たちが「わ~!すげ~~~!」と驚いてくれて。「よし!」と。専門家が見てもスゴイという見た目、だけど美味しいを目指してたので。

もともと地層に興味ないけど、ジオ菓子から入って、ツアーに来てくれる方もいます。
ツアーの後半では、お客様が「景色がお菓子にしか見えない!」というジオ菓子病に罹っていかれます。

 

―しかし、よくジオ菓子思いつきましたよね。地層とお菓子ってかなり距離ありますよね

 

そうですか?
子どもの頃から、お気に入りの石を持ってたら、だんだん愛着湧いてきて「美味しそう。口に入れたい」って衝動があったんです。

 

―口に入れたい!?


そうそう。同じ感じで幼稚園の時、自分で作った粘土の作品を完食しちゃった。

 

―粘土を完食!?食べるにしたって食べ過ぎでしょ!

 

 

―ジオ菓子って作るの難しそうですよね。特に難しいのはどれですか?


全部難しいのですが、ナンバー1は柱状節理のクッキーです。
柱状節理は、熱〜い溶岩やマグマがゆっくり冷えて体積が収縮して、角形になるんです。
柱状節理クッキーは、生地を膨張させて角形にするんですが、満足のいく角形を作るのがほんと難しい。配置や密度の関係で微妙に押し合わなかったり、うっかりするとすぐ失敗します。レシピはずっとブラッシュアップを続けてます。

 

斜交層理パイも難しい。パイってどう膨らむか読めないんですよ。
膨らまなければ斜交層理にならないんですけど、膨らんだら膨らんだでもろくなる。
作ったはいいものの形に満足できずに、ほとんど私のお腹に入ることもあります。

普通のお菓子より見た目が重要なんで、ジオ菓子はロスが多い商品ですね。

 

▲斜交層理のパイ

 

▲実際の斜交層理

 

―たしかにロスが多そう……


つい最近も土石流パウンドケーキを50個失敗しました。
粉入れるタイミング間違えて、模様がまだらになってしまった。

食べられなくはないけど、見た目がダメ。シンプルな分、手順やタイミングが命なんです。

 

▲土石流のパウンドケーキ

 

―50個のパウンドケーキ、どうしたんですか!?


土石流処理班に処理してもらいました。

 

―土石流処理班?


まぁ、家族に食べてもらったって意味です(笑)。

 

 

この活動を、地層のように続けていく

 

―ジオ菓子活動で、印象残ってるエピソードはありますか?


イベント出展して販売してたら、ジオ菓子をパッと見て「すごく素敵な活動」って泣き出した方がいました。

 

―え、なんで!?


「なんで、こういうことをやってるのか?」「その先にどんな景色を見たいのか?」を語らずともお互いに理解しあったんですよね。
その方も研究者じゃないですけど、大地に対してしっかりと深く考えていて。
大地はすべてのベースで、文化も産業も、その土地で生まれるものは大地に理由がある。でも、見過ごされる。
そこに重要性をもって世界を見てる人にとって、ジオ菓子はすごく感動なようです。

 

―自然を保護したいってことですか?


保護というより、私の根底にあるのは、自然の一部になりたいという想い。
なにが正しいとか正しくないとか、そういうことではなく、宇宙の理の一部になりたいんですよ。

 

―ちょっとなに言ってるか分かんないですけども


南伊豆では、山のなかの一軒家で住んでて。夜、玄関を開けたら獣臭い。イノシシがいるんですね。ここでは、人間の私はアウェイ。あくまで、住まわせてもらってる立場なんだと。
そういう感じ。自然も自分も、あるがまま。自然を保護というより、誰も傷つけず迷惑かけずにバランスの一部でありたい。道に転がる石のような。

 

―むしろ、保護なんておこがましいという感じですか


そうです!
ジオ菓子をやるようになってから同じ感覚の人に出会えるようになりました。そういう方と会えると、心臓がグッときますね!

 

 

―深いところで分かりあえるのは大きいですね。いいことだけでなく大変なこともあるんですか?


とにかくやることがたくさんあることですね。
ジオ菓子はマネタイズ難しいから、生きるための収益も必要で。イベント出展ではすごく売れるけど、道の駅とかでの販売は1週間で2個しか動かない時もあります。
生きるための仕事をしつつ、ジオ菓子を続けるのは大変です。

ジオ菓子は興味があるの1か、全く無いの0かの商品ですから、これから先もそういう状況が続くはずです。
でも、0の人がずっと0かと言えば、そういうわけではない。
いずれ1になった時に、手にとってもらえるよう、あり続けなければいけません。

 

―0の人を1にするってことでしょうか


0から1にしたいわけではない。
1になるまで、大地の理を待ちます(笑)。
知ってもらうためのアピールはするけど、無理に押しつけるわけでもなくて、その人そのタイミングが来るまで待ち続ける。
ジオ菓子のような商品が売れて経済が周る=大地を面白がる人が増えるという未来を見てみたいので、とにかく地層のように続けていきます。
地層だったら、たとえひっくり返ってもなくなりませんから。

 

 

 

書いた人:松澤茂信

松澤茂信

珍スポットマニア。日本全国1,000ヵ所以上のちょっと変わった観光地や飲食店を巡り歩いています。

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