レンチンしてるのに「つけダレは熱く」「麺は冷盛り」になるニチレイフーズの冷凍麺の謎に迫る~20年前のアイデアを技術で形に

麺の上に氷をのせる新技術を導入した「個食麺シリーズ」が異例の大ヒットを記録。発売元のニチレイフーズ担当者に、商品化に至るまでの裏話や制作秘話を伺いました。

こんにちは、メシ通編集部です。

突然ですが皆さん、2022年の夏は冷やし中華を食べましたか?

ちなみに僕(※記事を書いているメシ通編集部員)は食べませんでした。麺を茹でたら冷水で締めて、錦糸卵を作って、きゅうりやハムなどの具材を細切りにして……etc。冷やし中華っておいしいんですが、作るのがめんどくさいですよね。

「冷やし中華始めました」という看板を街で見かけると、夏到来って感じるんですが、お店で頼むわけでもなく……。気づけば数年冷やし中華を食べていないかもしれません。酸味の効いたあの味わい結構すきなんですけどね。

▲久しぶりに冷やし中華が食べたくなって季節外れですが作っちゃいました

そんな夏限定でニッチともいえる料理ですが、なんと2022年春に発売して、約半年で200万食の販売を突破した冷やし中華が生まれたことをご存じでしょうか?

しかもこの商品は、これまでの常識にとらわれない斬新なスタイル。チルド商品が一般的だった冷やし中華を、初めて冷凍食品という形で販売。麺の上に氷をのせる新技術も導入し、チンして温めているのに麺は冷たくなるんだとか。

▲冷凍の「冷やし中華」がこちら

常識にとらわれない新規性と画期的なアイデアが詰まった商品は、一体どのようにして誕生したのでしょうか?

▲株式会社ニチレイフーズ 家庭用事業部 家庭用商品グループ 蟹沢壮平さん

冷凍個食麺シリーズ第1弾として発売された「冷やし中華」と第2弾「極太つけ麺」の企画開発を担当した株式会社ニチレイフーズの蟹沢壮平さんにお話を伺いました。

「冷やし中華」が20年ぶりのメガヒットを記録!

──「冷やし中華」をはじめとする、麺の上に氷がのった個食麺シリーズは、2022年から販売が開始されたと聞きました。反響や売れ行きはいかがですか?

蟹沢壮平さん(以下、蟹沢):おかげさまで、売り上げは非常に好調です。2001年に業界で初めて炒めた炒飯を冷凍した「本格炒め炒飯」は、当時大変画期的な商品として発売開始から大ヒットとなりました。「冷やし中華」も発売前から大きな話題となり、販売も非常に好調ですので、「本格炒め炒飯」のような何年も続く大ヒット商品となってほしいですね。

▲写真提供:株式会社ニチレイフーズ

──「本格炒め炒飯」レベルのヒット商品ですか!? 「冷やし中華」はそんなに売れていたんですね……。蟹沢さんはなぜ「冷やし中華」を作ろうと思い立ったんですか?

蟹沢:冷やし中華ってある程度の人は、夏に一度は食べたくなると思っていたんですね。でも、実際に作ろうと思うと結構めんどくさいじゃないですか。

そこで冷やし中華のマーケットを調べてみたんですが、家庭で簡単に作れるものがなかったんですね。なので、解凍するだけで食べられる、おいしい冷やし中華が作れたら一定数のニーズを獲得できるんじゃないかと思ってました。

──そういう視点で新商品を開発されているんですね。ちなみに蟹沢さんはこの商品が大ヒットする自信はあったんですか?

蟹沢:ある程度売れるんじゃないかとは考えていましたが、ここまでの大ヒットになるとは正直思っていなかったですね。メディアやSNSで話題にしていただいたおかげですね。

商品の新規性や簡便性に加えて、麺の上に氷をのせる新技術を導入したことで、チンして温めているのに冷たい麺が食べられるという斬新性があったことで、話題にしていただけたのかなと思っています。

そもそも電子レンジでチンしてもなぜ氷だけ溶けないの?

──麺の上に氷をのせる新技術について聞きたいんですが、電子レンジでチンしても溶けない氷って、どうやって開発したんですか?

▲麺の上に氷がのっている様子

蟹沢:いや、これは普通の氷を使っているんですよ。

──この冷凍食品用に新たに開発した氷なんじゃないんですか?

蟹沢:氷の大きさなどは調整していますが、あくまで普通の氷です。そもそも電子レンジで加熱しても氷って非常に溶けづらい特徴があるんです。

──えっ、そうなんですか?

蟹沢:電子レンジって、物理的に温度を上げて温めているわけではないんです。マイクロ波によって、食品中の水分子を高速振動させることによって、熱を発生させる仕組みになっているんです。

──小さい頃、本で読んだことがある気がします。でも氷だって水分子じゃないですか。

蟹沢:氷は麺や食材に比べて水分子同士が固く結びついているので、マイクロ波の影響を受けづらくなっているんです。なので、具材は温まるが氷は溶けずに残って全体を冷やしてくれる、という現象が起こる仕組みです。

もちろん温まった麺や具材の影響で、氷も若干溶けはしますけどね。

──電子レンジでお肉を温めた時に、中だけが凍ってることがあるじゃないですか。あれも、その関係ですか?

蟹沢:そうですね。マイクロ波は物質の外側から振動させて急速に温める特徴もあるので、外側が熱いわりに中が凍っている状態が発生するんです。

──脱線しちゃうんですが、冷凍した食材をうまく電子レンジで解凍するにはどうするといいんですか?

蟹沢:食材を電子レンジで解凍する場合は、冷凍する時に平べったくしたほうがいいですよ。均一に薄く冷凍することである程度むらなく解凍できると思います。

──文系の僕には、めちゃめちゃ勉強になります。今後、お肉はぺちゃんこにして冷凍しようと思います。

20年前のアイデアに再び脚光が当たって生まれた新技術

──麺の上に氷をのせる技術は、電子レンジの特性を活かしたものだったんですね。

蟹沢:はい、その通りです。

──……ん? でもちょっとおかしくないですか?

蟹沢:何がですか?

──電子レンジが誕生した大昔から、ずっと氷は溶けにくかったわけですよね。ということは、新技術ではないんじゃないですか? 開発といっても、要は氷をのせただけですよね。

蟹沢:氷をのせただけといえば、そうなんですけどね。氷をのせるというのも、なかなか難しいことでして。氷が少ないと麺が冷え切らないし、多いと邪魔で食べにくかったり、溶けた水分が麺に絡んでタレが薄まってしまったり。相当な試行錯誤が必要でした。

──たしかにそうですね。

蟹沢:何度も何度もちょうどいいバランスを研究して、今の氷の大きさや量に決まりました。

──なるほど……。なかなか気の遠くなる作業ですよね。

蟹沢:電子レンジで温める時間もかなり試行錯誤しましたね。

▲「冷やし中華」は600wで2分50秒加熱すれば完成します

──でもなぜ、氷が溶けにくい電子レンジの特性を活かした冷凍食品の開発が今になって行われたんですか?

蟹沢:言われてみればそうですね……。

──僕は文系なので氷が溶けないことは知りませんでしたが、冷凍食品業界の方からしたら常識だったわけですよね。誰か思いつきそうなものですが……。

蟹沢:実は20年前にこのアイデアは社内で出ていたそうです。そのアイデアを5年前に復活させて、この「冷やし中華」が誕生したんです。

──冷凍食品業界では、どこもこのアイデアの商品は出さなかったんですね。

蟹沢:弊社もそうだったんですが、生産するリソースを整えるのが難しかったんだと思います。冷凍食品って基本的に電子レンジでチンして、温かい商品を作る発想ですからね。電子レンジで温めるのに冷たいものを作ろう! という発想はしないのかなと。

──たしかに……。逆転の発想だったわけですね。

蟹沢:しかも氷入りの商品となると、トレー入りの商品じゃないと成り立たないと思うんですよね。袋入りの麺に氷を入れるのは、生産の工程上どうしても難しいので。

──最近はトレー入りの冷凍食品は多くなってますもんね。

蟹沢:そうですね。個食需要が伸びているので、お皿を使わずに電子レンジで温めるだけで完結する商品が増えました。そうした世間のニーズが、この商品が誕生した背景になっていると思います。

──業界としても、かなり斬新な商品だったということが分かりました。でも発売前に売り上げを不安視する声はなかったんですか。

蟹沢:開発自体を止めるような声はなかったですね。マーケットに刺さるだろうという確信が社内にもありました。むしろ「衛生面をどう守るか」とか「製造中に氷が溶けないか」等の前向きな課題をくださる方が多かったですね。

──渾身の商品だったわけですね。それをしっかりヒットさせるのはお見事ですね! 実際に「冷やし中華」と「極太つけ麺」を食べてみますので、味に関するこだわりも教えてください!

メガヒットを記録した「冷やし中華」の完成度は?

ということで、「冷やし中華」を買ってきました。一人前360gと結構ボリュームがあります。

※2022年度「冷やし中華」は今季の生産を終了しました。商品についての詳細は公式ホームページをご確認ください。

袋から取り出してみると、麺や具材がのったトレーとタレに分かれています。

麺の上に氷がのっています。タレはキンキンに冷えていますが凍ってはいませんでした。

電子レンジを600wに設定して、2分50秒温めていきます。

電子レンジから取り出してみると、氷は溶けていません!!

具材も熱くなっているわけではなく、解凍されただけの感じ。麺もほどよく解凍されている状態です。よく混ぜることでほぐれつつ、氷で冷やされます。

麺は冷凍されていたにもかかわらず、非常に弾力が感じられます。正直チルドの麺よりクオリティが高い印象です。

煮豚と錦糸卵、オクラと紅生姜もうまく解凍されていて、非常に計算されている印象です。特に錦糸卵はふわふわで驚きました。

甘めのしょうゆベースのタレは、少し酸味が感じられます。氷が溶けた水分のことも考慮されてか、気持ち濃いめのタレが食欲をそそります。このタレは非常に冷たいので、最後に全体を締めてくれる役割があるのかもしれません。

全体をよく混ぜていただいてみます。

まず、麺も具材もしっかり解凍されているのに、全体が冷やされていてちょっとびっくりします。電子レンジで温めているのに、しっかり冷たいので体験として面白かったです。

麺にもちゃんとコシがあって、しょうゆベースの酸味が効いたタレとよく合います。また、冷やし中華にオクラ? と思ったんですが、このネバネバがスープと麺を絡ませていい仕事をしています。

麺と具材のバランスもちょうどよく、ボリュームもあるのでこれだけで満足できてしまいます。正直、非の打ちどころがなく、レンジでチンするだけでできたとは思えないほどにおいしかったです。

実際に食べてみて、電子レンジで温めるだけで「冷やし中華」を食べられるのが、すごく簡単でいいなと感じました。味のクオリティも高く、ヒットした要因が分かった気がします。ということで、蟹沢さんに「冷やし中華」のこだわりを伺っていきます。

──冷凍の「冷やし中華」アリですね。

蟹沢:ありがとうございます。販売期間中は、お客様相談センターに毎日のように「冷やし中華」の問い合わせがありまして。どこに売っているの? もっとこうしてほしい! といったありがたいご意見をたくさんいただきました。

──おいしさへのこだわりを教えてください。

蟹沢:麺にもこだわっています。チルドはどうしても、茹でてからの時間が長くなり、食べる際には麺のコシが失われていきますが、今回の「冷やし中華」は、自社工場で打ちたて茹でたての麺を急速凍結することで、食べる時にはまるで生麺のようなツルツルとした喉越しと、しっかりとした麺のコシを味わっていただけますよ。

──確かに本当に冷凍してあるの? と感じられるほどにしっかりと麺のコシがあっておいしかったです。来年の夏もぜひ食べようと思います!

専門店にも負けない本格的な味わい「極太つけ麺」

続いて、「極太つけ麺」を試食していきます。「麺は冷たくスープは温かく」という文字が大きく記されています。

袋から取り出してみると、「冷やし中華」と同様麺の上に氷がのっています。別皿に入ったつけダレ、メンマとチャーシューも入っています。

電子レンジを600wに設定し、8分温めていきます。

電子レンジから取り出してみると、氷は溶けていません。つけダレは湯気が出るほどに温まっていました。麺をよく混ぜてトレーの中で氷で麺を冷やしていきます。

準備ができたところで、いただきます。

極太麺の歯ごたえがよく、しっかりした弾力を感じられます。単純に麺がおいしい……。小麦の香りが感じられて、正直、街のつけ麺屋さんと比較しても遜色ないクオリティです。

つけダレも忖度なしに素晴らしい完成度。魚介と豚骨のうま味を強く感じます。既製品のつけ麺のタレって、塩味が強くて出汁のうま味を感じにくいと思っていたんですが、このスープは、塩気がちょうどよくうま味がガツンとやってきます。

この完成度のつけ麺を食べられるなんて、個人的にちょっと衝撃でした。「冷やし中華」も「極太つけ麺」もすごくおいしかったので、ぜひ一度皆さんにも食べてみてほしいなとおすすめしたくなりました。ということで、蟹沢さんに「極太つけ麺」のこだわりを伺っていきます。

──「極太つけ麺」もすごくおいしかったです。

蟹沢:ありがとうございます。何軒もつけ麺屋さんを食べ歩いて研究しつつ、レンジで調理して最適なおいしさになるように調整した商品です。

──「極太つけ麺」でこだわっているポイントを教えてください。

蟹沢:本格的なつけ麺を追求しています。本格的なつけ麺って、荒々しい麺に濃厚なタレを絡ませてズルッと食べるという感じが多いなと思ったんです。そこがつけ麺の魅力だなと。

──たしかに。そういうお店がはやっている感じがあります。

蟹沢:つけ麺が評判のお店では、麺に全粒粉を入れることが多かったので、「極太つけ麺」にも採用しています。全粒粉が入ることで、小麦の香りがよく立つようになります。

──麺のコシもすごかったです。お店みたいでした……。

蟹沢:麺のコシに関しては、小麦粉の選定はもちろんですが、生地を作る時間や温度やベストなゆで時間などをどうすればいいのか、何度も何度も試行錯誤して作りました。

──麺だけじゃなくて、この魚介豚骨のつけダレもすごいですよね。これが専門店で出てきたら「これは市販品でしょ?」と気づく自信はないです。

蟹沢:豚、鶏のエキスで作ったスープに、鰹、煮干し、昆布エキスを足したWスープになっています。さらにローストしたしょうゆを使って、香り高くしました。スープの中に鰹の削り節を加えているので、魚介の香りも立たせています。

──食べ終わった後に、割りスープを飲みたくなるくらいおいしいです。

蟹沢:ありがとうございます。麺と比較しても、このつけダレにはコストがかかっています。使っている具材が多いので。

──麺もスープもすごい完成度でした。面白い商品であると同時に、ちゃんと味もいいからこれだけ話題になっているんですね。でも、2022年から冷たい麺に挑戦したんですよね。なんでこんなにおいしいものが作れるんですか?

蟹沢:手前味噌ではありますが、開発担当者の技能が高いという点が大きいでしょうね。私が目標となる品質を決めて、「こういったものを作ってください」とお伝えして、開発担当者と一緒に相談しながら作り上げていくんです。私のイメージを実現する力がすごいと思います。

──開発担当の方はなぜそのような力を持っているんでしょう。

蟹沢:これまでの経験の蓄積が半端じゃないからだと思います。さまざまな料理をどうしたら冷凍してもおいしくなるか、と開発を日々続けていますし、ホテル等に卸す冷凍の出汁やブイヨンも作っているので、味のベースには絶対の自信と経験値があるんだと思います。

──なるほど。お二人のタッグで、まだまだおいしい商品が生まれそうで楽しみです。今後、どんな商品を作りたいと思っていますか。

蟹沢:今回の「冷やし中華」や「極太つけ麺」のような、パーソナルユース商品は今後も求められていくと思います。その中で消費者ニーズとのギャップを埋める商品を見つけていきたいと思っています。

「この料理っておいしいけど、一人で作るのは面倒だよね」といったものを見つけて、電子レンジで完結する商品を作りたいです。

──次回作はどんな商品を考えているんですか?

蟹沢:次回作は「カレーうどん」を2023年1月1日より販売予定です。「冷やし中華」と「極太つけ麺」のように、麺の上に氷をのせて冷やして食べるスタイルではないのですが、温かい個食麺の定番になればと思っています。

▲写真提供:株式会社ニチレイフーズ

──「カレーうどん」もすごく楽しみです! 蟹沢さんは商品を作る上でどんなことを目指しているんですか?

蟹沢:理想を言えば、おいしくて健康になる冷凍食品を作りたいですね。一般的に「おいしいものは太る」とか「おいしいものは体に悪い」というのが常識じゃないですか。そこを変えていきたいなと思っています。

──おいしいものを食べれば食べるほど健康になる商品を待ってます。

蟹沢:がんばります。

──本日はありがとうございました。

まとめ

2022年の大ヒット商品となった「冷やし中華」。それに続く「極太つけ麺」誕生の裏側などを取材させていただきました。

お話を聞いていて思ったのは、冷凍食品のクオリティがものすごく高まっているということです。本日取り上げた2つの商品は、想像の上をいく味わいでした。

また、消費者のニーズに合わせて、斬新な商品が大企業から生まれた事実にも感心しました。前例がないという理由で却下されるのではなく、コストをかけてでも挑戦するチャレンジャー精神に感服でした。

今後も個食麺シリーズは販売されるということなので、ぜひ注目していきたいと思います。

書いた人:メシ通編集部

メシ通編集部

メシ通編集部です。

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