加藤 亜記(かとう あき)
広島大学 瀬戸内 CN 国際共同研究センター
ブルーイノベーション部門 水産実験所
(併任)生物生産学部
(併任)大学院統合生命科学研究科
Tel:0846-24-6781 FAX:0846-23-0038
E-mail:[email protected]
本研究成果のポイント
- 長崎県の島原半島には、「島原・天草一揆」の主戦場となった原城跡があり、その本丸から約300m沖合に植物由来の浅瀬「白洲」があることが古くから知られていました。
- 「白洲」をつくる植物は、体に石灰質を沈着して石のように固くなる海藻類(紅藻サンゴモ類)です。
- 「白洲」は、岩などに固着しないサンゴモ球(rhodolith)が集積した藻場(rhodolith bed)です。
- 本研究では、「白洲」をつくるサンゴモ球は、少なくとも10種であることを明らかにしました。
- このうち、2種を新種Roseolithon littorale、R. sabulosumと命名しました。
- 本研究は、北西太平洋の「サンゴモ球の藻場」を構成するサンゴモ類の種多様性を、遺伝的類縁関係と形態的特徴の両方に基づいて初めて報告しました。
「白洲」の画像
書名:つくると食べるをつなぐサイエンス: 最先端の生物生産学図鑑 三本木至宏 監
出版社名:恒星社厚生閣 http://www.kouseisha.com/book/b612388.html
より引用。
背景
サンゴモ球とは、体に石灰質を沈着して石のように固くなる紅藻サンゴモ類のうち、岩などに固着せず、球状体となったものです。サンゴモ球が集積した場所は世界中に分布しており、海藻や海草の群落、いわゆる藻場の1つと考えられています。こうした「サンゴモ球の藻場」では、サンゴモ球が光合成によって二酸化炭素やカルシウムを取り込んで体を作り、ほかの生物に生育場所を提供します。
島原半島の「白洲」は、大潮の干潮時にのみ、海面から現れる「サンゴモ球の藻場」です。地元では、20世紀前半のごくわずかな知見に基づき、サンゴモ球は「リソサムニューム」と呼ばれてきました。しかし、どのような種が生育しているのか、これまで不明のままでした。
研究成果の内容
- 「白洲」で2018〜2023年に採集した標本について、葉緑体とミトコンドリア遺伝子のDNA塩基配列による分子系統解析と、体表面や組織の光学顕微鏡および電子顕微鏡観察を行い、遺伝的類縁関係と形態的特徴を調査しました。
- 今回、「白洲」で確認した10種のうち3種は、日本国内に広く分布する種でした。このうち、シンヒライボとナガオカイシゴロモは、著者らが過去の研究で報告した新種です。
- 残り7種はすべて新種に相当し、このうち2種を、新種Roseolithon littorale, R. sabulosumと命名し、記載しました。
今後の展開
現在、残りの5新種について、標本数を増やして遺伝的類縁関係と形態的特徴を調査し、分類学的な定義を明らかにする研究を進めています。今回、新たに日本で分布を確認した属や新種に対応する和名は、今後、学会誌等で正式発表の予定です。
論文情報
タイトル:Coralline red algal species diversity at a shallow rhodolith bed in warm-temperate Japan, including two new species of Roseolithon (Hapalidiales, Corallinophycidae).
著者:Min-Khant-Kyaw*, Aki Kato*, Kenta Adachi, Yasufumi Iryu, Masasuke Baba(*は責任著者)
著者所属:
Min-Khant-Kyaw(広島大学博士後期課程3年)
加藤亜記(広島大学准教授)
足立賢太(広島大学博士研究員(研究当時)、水産研究・教育機構研究員(現在))
井龍康文(東北大学教授)
馬場将輔(海洋生物環境研究所フェロー)
掲載誌:Phycologia
オンライン掲載日:2024年11月25日(オープンアクセス)
DOI: https://doi.org/10.1080/00318884.2024.2421269
本論文は、広島大学から掲載料の支援を受けました。
用語解説
紅藻サンゴモ類:紅藻植物門真正紅藻綱のサンゴモ亜綱に含まれるサンゴモ目、ハパリデウム目、エンジイシモ目、コラリナペトラ目の総称。日本では、コラリナペトラ目を除く3目が報告されている。