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【研究成果】原因不明の炎症がある患者への全身のがん検査(FDG-PET/CT)の有用性が明らかに~日本人における適切な使用法と診断価値を解明~

本研究成果のポイント

  • 45人の原因不明の発熱やその発熱からくる症状、不明熱(FUO)※1および不明炎症(IUO)※2を有する患者(FUO/IUO患者)に対して、本邦では全身のがん検査として用いられることの多いFDG-PET/CT※3を実施し、71.1%の患者で最終診断※4に至り、症例の内訳は、非感染性炎症性疾患(NIID)※5(53.3%)、がん(悪性腫瘍)(8.9%)、感染症(6.7%)でした。
  • 特に、IUO患者では、FDG-PET/CTが診断の手掛かりとなりやすく、FUO患者と比較して最終診断に寄与する可能性が高いことが明らかになりました。
  • FUO/IUO患者にFDG-PET/CTを実施し、早期の疾患特定が可能になることで、適切な治療の選択や患者予後の改善にもつながることが分かりました。
     

概要

 広島大学病院 総合内科・総合診療科の研究グループ(小林知貴診療講師、宮森大輔診療講師、伊藤公訓教授)は、「Scientific Reports」に発表された研究において、FUO/IUO患者に対するFDG-PET/CTの診断価値を評価しました。本研究は、FUO/IUO患者におけるFDG-PET/CTの適切な使用を明らかにすることを目的とし、検証を行いました。
 本研究の成果は、2024年11月15日に国際学術誌「Scientific Reports」にオンライン掲載されました。

論文情報

背景

FUO/IUOは医学が進歩しても一定数存在し、診断が困難なことがあります。長期にわたり、発熱や炎症が続き患者さんの日常生活強度や生活の質へも影響します。従来の診断法では、診断に至らないケースが存在する中で、FDG-PET/CTの有用性が報告されていましたが、日本人におけるFUO/IUO患者での最適な使用法、診断的価値については十分な検討がされていませんでした。

研究成果の内容

この研究では、FUO/IUO患者45人を対象にFDG-PET/CTを実施し、その診断価値を評価しました。主な成果は以下の通りです。

  1.  診断率
    ・ FDG-PET/CTを実施した患者の71.1%(32人)で最終診断に至りました。
    ・不明炎症(IUO)患者では、FUO患者よりもFDG-PET/CTの診断有用性が高く、診断に寄与する可能性が顕著に見られました(IUO患者の87.5%、FUO患者の38.1%)。
  2. 主な診断カテゴリー
    ・NIIDが最も多く、患者の53.3%(24人)を占めました。内訳は巨細胞性動脈炎(3例)、リウマチ性多発筋痛症(4例)、成人発症Still病(3例)、高齢発症関節リウマチ(2例)、IgG4関連疾患(1例)などの疾患が含まれていました。
    ・悪性腫瘍は8.9%(4人)、感染症は6.7%(3人)でした。
  3. FDG-PET/CTの有効性
    ・FDG-PET/CTは、炎症や腫瘍などの病変の部位を特定し、治療計画の策定や迅速な診断につながる重要なツールとしての役割を果たしました。
    ・多変量解析により、IUO患者がFDG-PET/CTを用いた診断でより高い有効性を示すことが確認されました(オッズ比 67.02、95%信頼区間 4.02–1119)。
  4. 最終診断に至らなかった症例の経過
    ・FDG-PET/CT検査で異常を指摘されたものの、最終診断がつかなかったケースも8例ほど認めましたが、これらの患者はいずれも自然軽快※6していました。

臨床的意義
 FDG-PET/CTは、FUO/IUOの原因解明において従来の診断法に比べ、高い診断率を示しました。特にIUO患者に対する有用性が際立っており、NIIDを主な原因とする炎症を、病変の部位や活動性に基づいて特定することが可能です。これにより、診断までの時間を短縮し、患者への不要な侵襲的検査や長期入院の回避が期待されます。また、FDG-PET/CTにより早期の疾患特定が可能になることで、適切な治療の選択や患者予後の改善にもつながることが示唆されています。
政策への影響
 現時点では、悪性腫瘍以外のFDG-PET/CT保険適用は、巨細胞性動脈炎や心サルコイドーシスなど一部の疾患に限られていますが、本研究結果は、FUO/IUO診断におけるFDG-PET/CTの有用性を明示しました。より多くの不明熱や原因不明炎症の患者に対し、FDG-PET/CTを迅速かつ広範に使用することで、医療制度の診断支援が強化され、医療の質と効率性が向上することが期待されます。

今後の展開

 本研究は単一施設での研究であり、症例数も限られています。そのため、結果の一般化にはさらなる検証が必要です。今後、より大規模で多施設にわたる研究を通じて、本研究結果が確認され、さらなる診断指針の確立と政策への影響が期待されます。
 

用語解説

不明熱(FUO)※1:Fever of Unknown Originの略、原因不明の高熱が続き、外来、または入院における一定の検査を行っても診断に至らない状態

不明炎症(IUO)※2:Inflammation of Unknown Originの略、原因不明の炎症が続き、外来、または入院における一定の検査を行っても診断に至らない状態

FDG-PET/CT※3:PET(ペット)は、がんや炎症の所在を調べるの検査方法の1つで、Positron Emission Tomography「陽電子放射断層撮影」の略、FDG-PETは、ポジトロン核種と呼ばれる放射性物質を標識したブドウ糖(FDG)を体内に投与し、FDGの集積部位を画像化することで、がん細胞を含むエネルギー消費の多い部位を発見するための装置。FDG-PET/CTは、この装置を用いて、がんおよび炎症の特定とCT検査を同時に実施し、全身のがんなどを一度に調べることができる検査。

最終診断※4:検査等の結果から実際にどのような病気にかかっているかの判断を下すこと。確定診断と同義であり、最終診断後に治療方針などが決まる。

非感染性炎症性疾患(NIID)5:細菌、ウイルス、真菌などの病原体によるものではなく、自己免疫反応や遺伝的要因、環境因子によって引き起こされる炎症性の疾患です。これらの疾患では、免疫系が異常に反応し、自身の組織や無害な刺激に対して炎症を引き起こします。関節リウマチ・血管炎などの病気が含まれます。

自然軽快※6:特別な治療を行わなくても、自然に症状がなくなってしまうこと

【お問い合わせ先】

 広島大学病院 総合内科・総合診療科 助教(診療講師) 宮森大輔
 Tel:082-257-5461
 E-mail:morimiya*hiroshima-u.ac.jp
 (*は半角@に置き換えてください)
 


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