アルゼンチンのハイパーインフレを打倒した大統領でオーストリア学派の経済学者でもあるハビエル・ミレイ氏が、レックス・フリードマン氏のインタビューで大統領就任時のアルゼンチン経済の状況について語っている。
アルゼンチンのハイパーインフレ
ミレイ氏はアルゼンチンのハイパーインフレを終わらせるべく当選したアルゼンチンの大統領である。
オーストリア学派の経済学者でもあるミレイ氏は、政治家の野放図な財政支出がインフレと政府債務の悪化をもたらしていると批判し、インフレ政策を停止してハイパーインフレを終わらせると公約した。
ミレイ氏は大統領に就任した2023年12月のアルゼンチン経済の状況を次のように振り返っている。
われわれが政権入りした12月の第1週には、インフレは1日で1%上昇しており、それはつまり年率に換算すると3,700%になる。そして12月の半ばには年率7,500%まで上がっていた。
去年の12月、卸売価格のインフレは1日に54%だった。それは年率では17,000%ということになる。しかもアルゼンチン経済はそれまで10年成長していなかった。1人当たりGDPはおよそ15%下落していた。そして人口のほぼ半分が貧困状態にあった。
自国通貨がまったく信用できない途方もない状況である。それはミレイ氏以前の政治家たちが自分と自分の票田を利するために財政支出を続けたことで起こった。
ミレイ氏は次のように述べている。
より細かい議論に入れば、財政赤字はGDPのおよそ15%に達していた。そのうち5%は政府のもので、10%は中央銀行のものだった。
15%の財政赤字と言えば、アメリカがコロナ禍に一度達した水準である。
ハイパーインフレは先進国には起きないか
こうした現象は小国だけのもので、アメリカや日本などの先進国には無縁の現象なのだろうか。しかし実際にアメリカは15%の財政赤字を経験し、コロナ後に物価が高騰している。
アメリカのインフレはその後一度収まった。だがそのレベルの財政赤字が一時的ではなく恒常的なものになれば、インフレも当然恒常的なものになるだろう。それで多くの機関投資家がアメリカの財政赤字を気にしているのである。
だからアルゼンチンのハイパーインフレは小国だけの現象ではない。それどころかアルゼンチンは元々先進国で、1人当たりGDPも日本より高かったのである。それが政治家による政府支出で途上国に転落した。
実際、日本経済はアルゼンチン化している。アベノミクス以来、日本円の価値はほぼ半分に下落している。自国通貨の価値が半分になったというのははっきり言って暴落である。
つまり輸入物価は当時の2倍になっているのだが、日本国民は気にしていない。では4倍になれば気にするのだろうか。輸入物価の上昇はいずれ国内物価のインフレに繋がってゆく。
税金として徴収され東京五輪や大阪万博などに使われる金が国民の手元に残っていれば、国民はもっと好きなものが買えただろう。
アルゼンチンへの道のりは長いというだけの話で、日本経済は事実としてその方向に向かっている。単に日本国民がいつ気づくかという問題でしかないのである。
インフレ政策の結末
国の借金が増えると、中央銀行が国債を買い支えなければならなくなる。量的緩和である。
しかし量的緩和は自国通貨の下落という結果をもたらす。それで日本はここ数年、為替介入で円の価値を維持するということを繰り返している。
経済学者のラリー・サマーズ氏は、量的緩和で円を下落させながら為替介入で円を買い支えようとする日本政府を「1人綱引き」と皮肉っていた。
だが為替介入は保有する外貨を売り払って自国通貨を買い支えることである。だから外貨準備がどんどんなくなってゆく。
日本も外貨準備を削りながら為替介入を行なっている。その先には何があるか。ミレイ氏は自国通貨の買い支えを繰り返したアルゼンチン経済の末路を語っている。
中央銀行の外貨準備はマイナスで、その金額は120億ドルだった。
中央銀行は利払いのある借金を抱えていて、1日にマネタリーベースの4倍の債務が満期を迎えていた。それはつまり、1日でマネタリーベースを5倍にしなければならなかったという意味だ。
単純だ。為替介入をすれば外貨がなくなる。それを繰り返せば外貨準備はマイナスになる。日本は着実にアルゼンチンに向かっているが、一部の日本人は「為替介入はドルを利確しただけだ」などと喜んでいる。
ドルが80円の時にドルを買い入れて、自分で量的緩和をしてドル円が160円になったから喜んでいるのである。馬鹿ではないのか。それはドルの価値が上がったのではなく、円の価値が下がっただけである。日本政府の手元に残ったのは価値の変わっていないドルではなく、自分で刷った円だけである。本当に馬鹿ではないのか。
結論
だから日本経済は着実にアルゼンチンに向かっている。レイ・ダリオ氏が『世界秩序の変化に対処するための原則』で説明したように、国家が経済成長から政府債務の増加の段階に移り、最終的にはインフレと自国通貨の下落によって衰退してゆくというのが国の一生なのである。
アルゼンチンが特異だったのは、普通は200年ほどかかるその国家の一生を50年の間に経験したということだけだ。速度が違うだけであって本質は変わらない。
それでアルゼンチンはインフレ政策の終着点、つまりハイパーインフレまで早々と行ってしまったので、ようやくミレイ氏のようなまともな経済学者を大統領に選ぶことが出来たのである。アルゼンチン国民も流石にインフレ政策に懲りたというわけだ。
ミレイ氏は次のように言っている。
だから財政赤字を何としても終わらせなければならなかった。
そしてミレイ氏はそれを1年で実現してしまった。ミレイ氏はアメリカにも同じことをやれと言っている。
トランプ政権はそれを実現できるだろうか。2025年が楽しみである。そして日本人はいつ気づくのだろうか。
世界秩序の変化に対処するための原則