ここ数年の激しすぎる熱波や豪雨を見ていると、人類は天気を操作しているような…。
嵐の被害に苦しめられてきた歴史の中で、人類はずっと天気を操る夢を抱いてきました。アメリカもまた、思い上がったばかりに滅びた偉大な帝国と同じように、自分たちの目的を果たそうと、長きにわたって空の支配を試みています。でも、連邦政府の新たな報告書で、アメリカは空を自在にコントロールするのが苦手という事実が暴露されてしまいました。
クラウド・シーディングに目立った効果なし
アメリカ政府を監視する超党派機関である政府説明責任局(GAO)の報告書は、雲にヨウ化銀を散布して雨を降らせる「クラウド・シーディング(人工降雨)」と呼ばれる技術に焦点を当てています。恒常的とも思える干ばつに見舞われている西部の州では、多くの自治体がクラウド・シーディングを活用して人工的に雨を降らせようと試みているそうです。
ただ、うまくいっているとは言えない状況みたいです。GAOは、クラウド・シーディングにはある程度の妥当性があることを認めていますが、その効果を測定するのはほぼ不可能だとし、報告書に以下のように記しています。
クラウドシーディングは水資源の確保につながり、経済、環境、人々の健康に利益をもたらす可能性があります。GAOの研究では、降水量が0〜20%と増加すると推定しています。しかしながら、有効性の検証には限界があるため、クラウドシーディングの効果を正確に評価するのは困難です。
クラウド・シーディングの発祥は1940年代
実のところ、雲に何かをまいて雨を降らせるアイデア自体は19世紀後半に生まれたんですが、本格的に研究されるようになったのは第二次世界大戦後とのこと。クラウド・シーディング誕生のいきさつについて、GAOは報告書でこう説明しています。
科学者たちは、1940年代にドライアイスやヨウ化銀の結晶を用いて、雲の中の水を人工的に氷結させる技術を実験室で確認しました。クラウド・シーディングの基礎になったこの実験をきっかけに、連邦政府が研究開発に多額の資金を投入することになり、1978年には、気象改変に現在の貨幣価値で6800万ドル(107億円)に相当する支援を行なっています。
ところが、科学者たちはクラウド・シーディングの有効性を証明できませんでした。そんな経緯もあって、1980年代にはクラウド・シーディング関連予算がごっそり削られることに。
現在、クラウド・シーディングを実施しているのは、カリフォルニア、コロラド、アイダホ、ネバダ、ニューメキシコ、ノースダコタ、テキサス、ユタ、ワイオミングの9州と、ほぼ地方自治体レベルのプロジェクトになっているようです。
クラウド・シーディングの手法は、国や州によって大きく異なります。雲の上を飛行する航空機や雲の中を通過する航空機からの散布、あるいは地上の大砲みたいな装置から空中への微粒子噴射など、さまざまな方法があります。ヨウ化銀がよく使用されますが、塩化ナトリウム、ドライアイス、液化プロパン、その他の塩化物も使用されています。
不確かなクラウド・シーディングの効果と、懸念される逆効果
GAOの報告書は、この技術の限界をリストアップしています。たとえば、ユタ州ではクラウド・シーディングに年間1200万ドル(約18億9000万円)を費やしていますが、目立った成果は出ていません。
クラウド・シーディングなしでどれくらい雨が降ったのかを推定するのは難しく、研究で対照群を設定するのも良い方法とは言えません。また、特定の地域で降水量がどれだけ変化したのかを把握するのも困難です。
クラウド・シーディングによる降水量の変化に関する過去の研究の多くで、統計的に有意な結果は示されていません。
報告書はそのあたりについて
ある研究では、無作為に選んだ118の事例において平均3%の降水量増加が確認されましたが、この効果は統計的にゼロと区別がつきませんでした。別の研究では、1977年から2018年の間に9つのケースで平均3%の降水量増加が報告されましたが、そのうち7つの事例では、クラウド・シーディングの影響を明確に示す結果が得られませんでした。
と述べています。
さらにGAOは、ヨウ化銀やその他の粒子を雲に撒くことで地上の植物や動物にどんな影響があるのか、誰も正確に把握していないと指摘しています。一般的に、乾燥している地域で降水量が増えるのは良いことですが、繊細で複雑な生態系における降水量の変化は、予期せぬ影響をもたらす可能性があります。
GAOは報告書で次のように指摘します。
ある利害関係者は、クラウド・シーディングによる降水量の増加と水温の低下が魚に良い影響を与えるかどうかは不明であり、また、土壌水分の増加が、山火事の影響を受けにくく、より健全で乾燥しにくい森林づくりにつながるのかも不確かであると述べています。
ヨウ化銀は少量であれば無害とされていますが、科学的な結論はまだ出ていません。報告書は、「ヨウ化銀は水にほとんど溶けませんが、溶けるとわずかに銀イオンが放出されます。この銀イオンは抗菌作用があることで知られており、十分な量になると環境中の有益な細菌や水資源に悪影響を及ぼす可能性があります」と指摘しています。
陰謀論者はクラウド・シーディングがお好き。違う意味で
また、GAOはクラウド・シーディング計画に関する別の問題点として、陰謀論を挙げています。政府による気象操作は、昔から陰謀論者のネタにされてきました。
銃乱射事件の陰謀論で遺族に多額の損害賠償を払うことになった、極右の陰謀論者であるアレックス・ジョーンズのような人物にとって、気象操作はお気に入りの話題です。
また、昨年のハリケーン「ヘリーン」の後には、ジョージア州選出のマージョリー・テイラー・グリーン下院共和党議員がデマを拡散したことでさらに注目を集めました。
そんなこともあってか、一部の議員はクラウド・シーディングを脅威とみなすようになりました。保守色が強いテネシー州の議員たちは昨年4月、州内におけるあらゆる形態のクラウド・シーディングを全面的に禁止する法案を可決しました。
メディアの取材に対し、テネシー州の議員たちは上空のケムトレイル※を防止するためだと意味不明なことを言っちゃっています。
※飛行機から散布される化学物質が、環境汚染や健康被害を引き起こすとされる陰謀論的な説
クラウド・シーディングを禁止したところで、ケムトレイルは防げません。だって、ケムトレイルは飛行機が通った後に残される水蒸気や排気ガスによる飛行機雲に過ぎないんですから。