AI(人工知能)と人類は共存できるのか。
CGを一切使わず、AIと一緒に作った映像。それが、ONE OK ROCKのニューシングル「Dystopia」のMVです。
実写映像とAIが生成した映像を合成することで、SF的なディストピア世界を描き出した本作は、「AIを制作チームの一員」として迎え、人間とAIが共存しながらクリエイションする方式をとって制作されました。
ONE OK ROCKのボーカル・Takaさんと、本MVを手がけた北田 一真監督(以下、北田監督)の対談を通し、1年前には考えられなかった「AIとMVを共作した」本作の舞台裏と、そこに込められた二人の情熱に迫ります。
ディストピアの中に見つける“ユーフォリア”
──まず「Dystopia」という曲が報道番組のエンディングテーマになると聞いたときの気持ちを教えてください。
Taka:正直びっくりしました。「諦めないことの重要さ」を訴えるポジティブな内容を込めているとはいえ、僕らの楽曲は基本的に英語詞、かつ攻撃的な箇所もあるので、テレビという媒体でどう受け取られるかは未知数でした。
──北田監督は「Dystopia」を最初に聴いたとき、どんな印象を受けましたか。
北田監督:英語の歌詞なので、意味よりもまずは疾走感やパワー、カッコよさが耳に入ってきました。そこから歌詞に目を向けると「Find euphoria in dystopia(ディストピアの中に見つけるユーフォリア)」というフレーズがとても印象的で、“人が本質的に持っている強さ”を突いているように感じたんです。この言葉が「映像で何を伝えるか」を広げる起点にもなりました。
──MV制作にあたっては様々なプランがあったと思いますが、北田監督に依頼しようと決めた理由はどこにあったのでしょうか。
Taka:まず今回のアルバムには、バンド20周年という大きな節目も影響して「ロックをもう一度自分たちの中から掘り起こして、新たな形にする」という大きなテーマがありました。前作アルバムを作っている頃から同時進行で準備してきたこともあって思い入れがすごかったので、「Dystopia」のMVも何人かの監督さんに声をかけさせてもらっていたんです。
その中でも、北田監督からのリアクションには圧倒的な熱意を感じました。それに「自分たちと同じことを感じている」と思える共通点もあって、僕らのビジョンやテーマにしっかり向き合ってくれている印象を強く受けました。
北田監督:僕もTakaさんから届いた熱い想いが詰まった文章を読んで、ここまで熱く、具体的に言葉で思いを共有してくれることはなかなかないと、素直に感銘を受けたんです。僕自身「自分の表現を通して、社会を良い方向に変えて行きたい」という気持ちがあって、それがTakaさんの想いと重なったのも大きかったですね。
──今回のMVには「AIによる未来のディストピアを、AIと共に創造する」というテーマがあると伺っています。監督はどこから着想を得たのでしょう?
北田監督:「Dystopia」というタイトルから未来のディストピア像を想像していく中で、ここ数年で顕在化した生成AI技術の進化を間近に感じていました。ChatGPTやMidjourneyなど身近になったAIの存在は、もうSFの話ではなく現実的なシンギュラリティを予感させるものです。
人間が最も知的な存在ではなくなったとき、対立するのか、共生するのか。それを問い掛けるためにも、まずはAIとコラボレーションして未知の世界を作る試みをしてみようと考えたんです。
──Takaさんは「AIと一緒にMVを作る」という発想を聞いてどう思いましたか?
Taka:僕らの中にはCGで仮想世界を表現する発想はあったんですけど、AIでMVを作るというアイデアはなかったんです。だから正直、最初は「AIでMV?」と、全くイメージできなかった。でも、話を聞けば聞くほど挑戦的だし面白いなと感じました。僕らももう20年バンドやってて、ある程度ONE OK ROCKというバンドイメージが固まっているので、外部のクリエイターさんがONE OK ROCKで新しいことをやるのはハードルあるというのは自分たちでもなんとなくわかってるんですよ。でも、北田さんはそこに挑戦してくれたし、その方向性には「これ絶対やばいものができるな」って直感的に思えました。
北田監督:僕も確証はなかったけれど、「いけるはずだ」という肌感覚があって提案しました。ただ、断られてもしょうがない企画かなとも思っていたんですよね。だから、ONE OK ROCKという大きな名前を背負って、「面白いね、やろう!」って言ってくれたのは、本当にありがたかったです。
AIなしでも成り立つほど「撮影」にこだわった
──今回はCGなしで実写と生成AIの合成とのことですが、撮影現場はどうでしたか?
Taka:いや、本当にすごかった。僕は時差ぼけ真っ最中で現場に行ったんですけど、「え、この巨大なセット、これ何に使うの!?」と驚くほどリアルなロケーションだったんです。普通に「映画撮影?」って(笑)。しかも、グリーンバックが一切ないから、これでどうやってAI世界と融合させるんだ、という感じで。でも、仕上がった映像を見ると、どこまでが実写でどこからがAIなのか分からない。10年前なら、あのセットだけで世界観を作ったと思うけど、今回はさらにAIが入ってくる。異様なスケール感でした。
北田監督:あのロケーションは本当に良かったですね。スクラップ工場の人もノリノリで「好きにやっていいよ!」って言ってくれて、子供の頃にミニカーで遊ぶような感覚でセットを作れたんですよ。
──お話を聞いていると、AIなしで実写だけで十分成り立つ規模かと思うのですが、そこまで撮影に気合いを入れた理由は?
北田監督:今作はAI生成のみで作るMVではなく、人間とAIの共作なので、まずはパフォーマンスのライブ感と撮影の勢いが重要だと思ったんです。「まず実写で思い切り撮って、そのエネルギーやライブ感を残すことで、あとからAIを織り込んでも自然に馴染む」という考え方ですね。CGで全てをやろうとしたら莫大な予算が必要ですが、AIを素材として使うことで、従来不可能な表現が可能になりました。
でも実際に撮影してみたら、合成前提のグリーンバックではできない自由な撮影がたくさんできて、それもすごく良かったです。グリーンバックだとライティングやアングルも制約されるし、カットごとに現場を止めて次に移らないといけなくて、現場のエネルギーが削がれがちなんですけど、今回はライブのように撮れました。
人間同士の絆が浮き彫りになった、AIとの共作
──AIの出力はコントロールが難しく、トライ&エラーの連続だったとか。
北田監督:最初は本当に、「これは見せられない…」というレベルから始まりました(笑)。でも、指示の出し方や情報の伝え方を工夫すると、トーンが統一されたり、意図に近づいたりする。 ときに予想外の形で世界が崩壊するようなAI生成映像が現れて、「これ面白いじゃん」と採用することもあって。まさに人間とAIがセッションしてる感じがありましたね。AIはあくまで道具だけど、時々アイデアをくれるチームメンバーにもなってくれる。不思議な制作過程でした。
Taka:AIはまだ幼稚園児みたいなもので、100%指示通りに出力してくれないらしくて。でも予想外の良いものも出してくるから、それを拾っていくプロセスが面白いって聞いて、へえ~って感じでしたね。僕から監督へのリクエストは、色味についての話や、現実世界とAI世界の繋がりを強くしてほしいというお願いをしたくらいです。
──完成した作品を見て、お二人は今どう感じていますか?
Taka:「最高のレストランで最高の料理を味わった」みたいな感覚です。食事って、単においしいだけじゃなく、誰と食べるか、どんな雰囲気かとかも含めて全てが重要であるように、北田監督やチームのみんながONE OK ROCKのテーマや挑戦を本気で理解してくれた。そのうえでAIっていう新しいツールを取り入れて、めちゃくちゃ面白いものができた。20年バンドをやってきても、こんなにワクワクできるMVが作れるんだって、すごく感激しました。
北田監督:僕もめちゃくちゃ楽しかったです。熱いメッセージがあって、実験的な挑戦があって、人間の魂がこもった実写と、AIとの対話があって。その結果、人の心を動かせる何かができたんじゃないかと。
AIだけだと心は動かない。人間が意志を持ってAIを動かすからこそ、人の心を揺さぶる映像が生まれる。賛否両論あるかもしれないけど、それも含めて議論が生まれるならいい。結局は僕らがどう考えてどう使うかで、この先の未来を作っていくんだなと実感できる作品になったと思います。
──今後AIとクリエイションがどう交わっていくか。お二人はどうお考えですか?
Taka:結局、人間が考えなきゃいけないタイミングに来てるんだと思うんですよね。AIが進化していく中で、どう使うか、どう共存するか。技術革新が戦争というもののありようを変えてしまったように、AIも社会を変えてしまうかもしれない。でもそうした現状に目をつぶるんではなく、自分たちが何を選び、どう行動するかが大事。俺らみたいなアーティストは、そのきっかけを音楽と映像で提示できるんじゃないかって思います。だから、このMVが「AIというものを知り、どう付き合うか」を考えるきっかけになってくれたらうれしいですね。
北田監督:僕も同じ意見ですね。未知の技術に対して最初は恐怖心があるけど、15年くらい前にCanon EOS 5D Mark IIっていう一眼レフで映画のような映像を誰でも撮れるようになったときも、今のAI議論と似たようなことが言われてたんですよね。でも結局、ツールが増えても誰もが素晴らしいクリエイションをできるわけじゃない。最後は人間次第。
だから、AIも必要以上に怖がらず、使える場面で使っていけばいい。必要なければ使わない。それくらいフラットな感じで、でも心を持って使っていけば、面白い未来が拓けるんじゃないかと思っています。
プロフィール
Taka(ONE OK ROCK)
2005年にバンド結成。 エモ、ロックを軸にしたサウンドとアグレッシブなライブパフォーマンスが若い世代に支持されてきた。 2007年にデビューして以来、全国ライブハウスツアーや各地での夏フェスを中心に積極的にライブを行い、 これまでに、武道館、野外スタジアム公演、大規模な全国アリーナツアーやドームツアーなどを成功させる。 さらには日本のみならず海外レーベルとの契約をし、アルバム発売を経てアメリカ、ヨーロッパ、アジアでのワールドツアーを成功させるなど、世界基準のバンドになってきている。 2022年にアルバム「Luxury Disease」をリリースし、MUSE WORLD TOURのオープニングアクトをはじめ、北米ツアー、ヨーロッパツアー、自身最大規模の国内6大ドームツアー、アジアツアーを完走。 2024年9月からは7都市8公演の過去最大規模のワールドツアー『ONE OK ROCK 2024 PREMONITION WORLD TOUR』を開催、約19万人を動員し、成功をおさめた。
北田 一真
'85 年生まれ。神奈川県出身。 広告映像、MV、ドキュメンタリーフィルムをベースとした映像演出を中心に活動。 手がけた映像作品は国際的なクリエイティブアワードを多数受賞。ダイナミックかつ情 緒的な映像と繊細なストーリーテリングで現実と幻想が交差する世界を描く。 近年は自然との共生・共鳴をテーマにしたドキュメンタリーフィルムやインスタレー ション作品、AI を使った実験映像を発表し、芸術祭への出展や映画祭の主催など多義 に渡って活躍する日本人映像監督。